ナマモノはその場に居合わせる全員がつくりあげるもの

TAKASHINA,Tsunehiro @J_for_Joker

ケラ氏が劇場への途中入場について発言していろいろな反応を呼んでいるが、ケラに噛み付いている人はナマモノのことがわからないんだろう。観客の一人ひとりがその日の公演の重要な参加者だということが理解できないんだろう。

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舞台もまたコミュニケーションであって、観客に届いてなんぼのものである(神様に捧げる芸能はちょっと別)。舞台上でどんな熱演をしていても、観客が全員寝不足で舟を漕ぎまくっていたらコミュニケーションは成立しない。

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いいパフォーマンスが、集中力の高い観客席によって(同時にリラックスもしていたら最高！)、公演の質を何倍にも高めることがある。そのような奇跡的な公演は間違いなく演じ手と観客とその場に居合わせる全員参加で初めて成立する。

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奇跡的な公演は滅多にない。すごくいい公演になったかもしれないものが、無神経な演者が一人いればぶち壊しになるように、他の観客への配慮が全くない人が台無しにすることもありうる。

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記録メディアの再生である映画ですら、無遠慮な人物がひとりいたら観客席で集中して観ることなどできない。ましてやナマモノの舞台はその日のその場に反応して育ちもすれば破れもする。それは説明するまでもない自明のことのはずだが、理解できない人には全く理解できないらしい。

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そのごく当たり前のことを理解できない人が「こっちは金を払ってるんだから、黙っていい演技をすりゃいいんだ」的な態度を取る。それは大きな間違いだ。それを言っている本人もその空間に居合わせる以上、その公演の出来不出来を左右する重要な参加者なのだから。

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ケラ氏は「遅れて来るな。最初から観ろ」などと言っているのではない。定時に間に合って大切に芝居を観ている（その日の公演に参加している）すべての人に対して配慮があるべきだと言っているのだ。つくり手のケラが言うから誤解しているのかもしれないが、これは定時に来た観客を代表する意見だろう。

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いい公演を成り立たせるのは演者の出来不出来だけでなく、その日その場に居合わせる観客ひとりひとりにもかかっている。ナマものから遠ざかってしまった人にはそれがなかなか理解できないのだろうか。そしてこの話にはもう一つの側面がある。

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少し脱線して内田樹氏の受け売りを書く。医療の現場で「できるだけ医者の言うことを聞かずに、薬を飲まずに、金を使わずに治ったら得した」という患者がいると言う。教育の現場で「できるだけ授業に出ずに、手間をかけずに、単位を取れたら得した」という学生がいると言う。

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その患者も、その学生も、「金をかけずに最大限の効果を得るのがいい買い物」という見苦しく不細工な価値観に支配されている。本当は自ら治ろうとする力をサポートするのが医療なのであり、自ら学ぼうとする人をサポートするのが教育なのだが、まるで自分ごとでないかのように振る舞う醜さ。

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その醜さは、「こっちは金を払ってるんだからつべこべ言わずにいいもの見せろ」という態度とも通じる。自分も重要な参加者だということを理解しようともせず、部外者然として、結果的に場を台無しにしてしまい、自分が台無しにしていることに気づきもしない。周囲に迷惑をかけている自覚もない。

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ナマモノはその場に居合わせる全員がつくりあげるものだ、という当たり前のことを理解できないことと、「できるだけ金を払わずに最大限のものを手に入れるのがいい買い物」という価値観は、一見別な話のようだが、実は同じことの二つの側面なのではなかろうか。今日はここまで。