トラベラー・ジュース ~旅人の先輩の汁が飲みたい~

診断メーカーでそんなタイトルの小説を書くことになったらしいので、書きました。……というか、気分転換です。
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Yu Yamaguchi@新シリーズ3巻10/18発売 @Yu_Yamaguchi_

期待の大型新人ラノベ作家、Yu_Yamaguchi_先生のデビュー作、『旅人の先輩の汁を飲みたい』にご期待ください! http://t.co/EpOQdhQZ

2012-05-07 23:15:37
Yu Yamaguchi@新シリーズ3巻10/18発売 @Yu_Yamaguchi_

「トラベラー・ジュース ~旅人の先輩の汁が飲みたい~」 遙か昔、僕たち人類が今だ地球という惑星だけに住んでいたころ、そして、同じ惑星の中でも、人類同士がまだ互いに知り合っていなかった頃、『欧州』という場所では、ビール醸造器をかついで旅をして、旅先でビールを造っては(続く)

2012-05-07 23:21:21
Yu Yamaguchi@新シリーズ3巻10/18発売 @Yu_Yamaguchi_

(承前)売っている行商人がいたという。なら、ワインの行商人はいたのだろうか? それが発酵していなければジュースだろうか? 僕はとりとめのないことを考える。僕、という存在を形作っている遺伝子という形而下の情報が、いつものとおり吹き荒れる概念空間の猛攻に犯されていないことを(続く)

2012-05-07 23:23:56
Yu Yamaguchi@新シリーズ3巻10/18発売 @Yu_Yamaguchi_

(承前)無意識に確認しつつ。……概念の使徒たちは、僕等、形而下の輩(ルビ:ともがら)たちをあざ笑っているのだろうか? それとも、彼等の猛攻を阻む時空軍の攻撃に息をひそめているのだろうか? 僕には、それを意識する権利はない。ただ、僕の肉体と、この宇宙を護る彼等の働きを、(続く)

2012-05-07 23:26:39
Yu Yamaguchi@新シリーズ3巻10/18発売 @Yu_Yamaguchi_

(承前)いくばくかの嫉妬と後悔、そして羨望を以て思いはせるだけだ。そして、先輩の選択に尽きせぬ疑問を抱くだけだ。「……ケン、どうしたの? 悩んだみたいな顔しちゃって?」 僕はなぜあなたが悩まないのか不思議で仕方ないですよ、先輩。心の中ではそう思いつつ、僕は表面上は慇懃な(続く)

2012-05-07 23:28:39
Yu Yamaguchi@新シリーズ3巻10/18発売 @Yu_Yamaguchi_

(承前)回答を返す。先輩――アレクサンドリーナ・レヴィ。通称リーナ。年齢は一八歳。時空軍士官学校をトップの成績で卒業した、僕の誇るべき先輩、……のはずだが。なぜ彼女が落ちこぼれの僕と同じく、こんな行商船で宇宙をほっつきあるく気になったのか、僕にはよく分からない。(続く)

2012-05-07 23:31:29
Yu Yamaguchi@新シリーズ3巻10/18発売 @Yu_Yamaguchi_

(承前)それだけでなく、なぜ彼女がわざわざ概念の使徒らに勝負を挑み、彼等の概念情報を液体の形にして売り歩くような、法律スレスレ……というか完全に違法な活動に手を染めているのかも。概念空間は広大だ。そこには、僕等のような肉体に縛られた者たちが持ち得ない多くの形而上の価値が(続く)

2012-05-07 23:34:25
Yu Yamaguchi@新シリーズ3巻10/18発売 @Yu_Yamaguchi_

(承前)ある。だが、それだからこそ、時空軍と光円錐政府は、僕等に彼等との接触を禁じ、彼等からの接触を封じるために戦っているのだ。我々の、「ニンゲン」という形がかけがえのないものだと信じるが故に。自らの肉体に、ニンゲンならざる概念を取り込み、ニンゲンという形を危険に晒して(続く)

2012-05-07 23:36:50
Yu Yamaguchi@新シリーズ3巻10/18発売 @Yu_Yamaguchi_

(承前)まで。ああ。それなのに。先輩は何がしたいのだろう? 違法な活動による儲け? ……なぜ、時空軍の将校に容易になれたこの人が……。

2012-05-07 23:37:45
Yu Yamaguchi@新シリーズ3巻10/18発売 @Yu_Yamaguchi_

(承前)慇懃な僕の回答――「悩んでなどいませんよ。ご心配ありがとうございます」に、リーナ先輩はちょっと不安そうな顔をした。「もしかして、気分が悪い? ほら、あたしの汁、飲む?」 おかしな所を省略しないでください。『あたし(が概念の使徒たちと戦って奪い取った形而上情報を(続く)

2012-05-07 23:39:56
Yu Yamaguchi@新シリーズ3巻10/18発売 @Yu_Yamaguchi_

(承前)接種可能なように液状にした、そ)の汁』でしょ、それは。それにしても、なぜ先輩はいつも飲ませたがるのか。僕には要りませんよ。そんなの。いくらわけの分からない理由で時空軍士官学校を追放されて、生活にこまって惑星軌道施設でホームレス寸前になって先輩に拾われたからって(続く)

2012-05-07 23:41:38
Yu Yamaguchi@新シリーズ3巻10/18発売 @Yu_Yamaguchi_

(承前)なんでそんな汁を飲まなきゃいけないんですか。……僕には、これでも誇りがあるんだ。「いえ、気分がすぐれないだけです。それに、その汁は飲まないって、いつも言ってるでしょう」 先輩は不服そうに、肩を竦めた。「頑固なんだから。でも、いいわ。ケンの分はとっとくから(続く)

2012-05-07 23:43:06
Yu Yamaguchi@新シリーズ3巻10/18発売 @Yu_Yamaguchi_

(承前)飲みたいときはいつでも言ってね」 「本当に要りませんよ」 先輩はぐっと僕に身を近づけた。額と額が接触するほどに。「本当に……?」 まるで、僕が病人で薬を要らないと言ってるみたいに。「要りませんって……!」 僕は少し気丈にはねつけた。先輩ははあ、とため息をつき、(続く)

2012-05-07 23:46:01
Yu Yamaguchi@新シリーズ3巻10/18発売 @Yu_Yamaguchi_

(承前)踵を返して操縦室へと消えていった。僕は自分が嫌になって、あてがわれた寝室でふて寝するように身を丸めて横になる。もしかして、先輩は究極のSなのか。わけもわからず士官学校を追放された僕を、更にこんな違法な汁で貶めようとしているのか。そんなひどい運命に墜とされるような(続く)

2012-05-07 23:47:30
Yu Yamaguchi@新シリーズ3巻10/18発売 @Yu_Yamaguchi_

(承前)ような何を、僕はしたというのか。(……理由は言えない。今すぐ荷物をまとめて、出て行き給え)。あの日の教官の顔が脳裏に浮かぶ。いつのも謹厳な表情のまま。(そんな!なぜです!) 成績はよくはなかったが、追放されるほど悪かったわけじゃない。それに、成績が悪くて追放なら、(続く)

2012-05-07 23:49:00
Yu Yamaguchi@新シリーズ3巻10/18発売 @Yu_Yamaguchi_

(承前)ちゃんとそう言うはずだ。それが……何の理由も無く! 理由も無く!! 僕はあの日の屈辱を思い出して、涙を流した。質量銀行の口座も閉鎖され、1テラトンも引き出せなかった。当然、ワームホール通信は使えず、実家にも連絡ができない。あてどなくふらふらと、惑星軌道施設(続く)

2012-05-07 23:50:34
Yu Yamaguchi@新シリーズ3巻10/18発売 @Yu_Yamaguchi_

(承前)のふきだまりのような場所にうずくまっていた。全てに絶望して。(ケン。みつけた) ……たぶん、ホームレス生活を始めてから3日ぐらいだろうか。先輩がそこに立っていた。真新しい時空軍少尉の制服……それが少し汚れた格好で。(先輩……何をしてるんです……?)  (続く)

2012-05-07 23:52:45
Yu Yamaguchi@新シリーズ3巻10/18発売 @Yu_Yamaguchi_

(承前) (ケンを探しに来たのよ) (軍はどうしたんです?) 先輩はぺろりと舌を出した。(辞めちゃった。あたしには窮屈だったみたい。概念の使徒との戦いはおもしろいけど、組織は窮屈なんだもん。だから、あたし一人で続けることにした。使徒との戦いを) (そんな……違法です) (続く)

2012-05-07 23:54:14
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(承前) (だからこそ、一般人の人質がいるんでしょうが。さあ乗った乗った) そのままひきずられ、僕は先輩の戦闘艦に乗せられた……。あれから、一ヵ月。先輩は「人質」の僕を丁重に扱ってくれた。ことあるごとに戦利品であり商品でもある「汁」を飲ませようとする以外は、そこそこの(続く)

2012-05-07 23:56:04
Yu Yamaguchi@新シリーズ3巻10/18発売 @Yu_Yamaguchi_

(承前)待遇だったと思う。けど、こんなの、生きてることにならない。僕は、……こんな……。絶望が僕の心を覆っていく。無意識に僕の形而下の肉体を襲う使徒の攻撃に、身を任せてしまいそうになる。僕なんて、……僕というゲシュタルトなんて、必要ないんだ。この世界に、必要……ないんだ(続く)

2012-05-07 23:57:39
Yu Yamaguchi@新シリーズ3巻10/18発売 @Yu_Yamaguchi_

(承前)「ケン!」 僕は目眩と息苦しさの中で、嵐の無意識の大海から少しだけ意識を浮き上がらせる。「ケン! とりこまれちゃダメ! あっちに行っちゃダメ! あなたはこっちの存在なの! たとえどんな出自であっても! もうこっちの存在で、あたしの大切なケンなんだから!」 (続く)

2012-05-07 23:59:10
Yu Yamaguchi@新シリーズ3巻10/18発売 @Yu_Yamaguchi_

(承前)「先……輩……」 僕は先輩が何を言っているのか分からず、けれど僕の具象の存在を消してしまいたいというタナトスにあらがえず、先輩の声は遠くなっていく。「ケン!」  先輩は強く僕を呼んだ。そして、僕の意識がふわりと浮上した刹那。先輩は「汁」を口に含み、僕に口づけした。(続く)

2012-05-08 00:00:55
Yu Yamaguchi@新シリーズ3巻10/18発売 @Yu_Yamaguchi_

(承前)その瞬間、今まで僕の身に溢れていたタナトスがいっせいに肉体からひいていき、僕は、ベッドに横たえられ、あせぐっしょりで、先輩に覆い被さられている自分の存在を見出した。「リーナ……先……輩……?」 先輩は泣きそうな顔のまま、微笑んだ。「ごめん……ね……」(続く)

2012-05-08 00:02:44
Yu Yamaguchi@新シリーズ3巻10/18発売 @Yu_Yamaguchi_

(承前)「飲みたくないもの、飲ませちゃったね……」 疑問符を更に浮かべる僕に、先輩は、ベッドに座って、僕の頬に手を当てた。「ケン。落ち着いて聞いて。あなたは、元々、人間じゃないの」 僕は、その言葉を、なぜか落ち着いた精神のまま、聞いた。さっき気付いた。概念の使徒が(続く)

2012-05-08 00:04:12