フォロワー50名到達企画《プロローグ》

正義の味方@出稼ぎ中 @mumei_ex

（投影――マナが枯渇したこの世界においてもなお、“彼”が再現することを許された唯一の神秘。それは彼の力の力の要であり、絶対的な切り札である。）　#企画

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（しかし、大源の尽きた世界で多くの魔術師達が神秘を失ったように、彼もまた自力で生成する魔力で再現できる奇跡には限りがある。ならばどうすればいいのか。答えは一つしか存在しない。）　#企画

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（それは魔術師にとっては至極当然の考え方。「足りない魔力は他所から持って来て補えばいい」のだ。大地が生ずる力のない今、彼がそれを引き出すのは人間が住まう世界を飛び越えた、遙か彼方の神秘の産物によってであった。）　#企画

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（――ムーンセル・オートマトン。月に存在する太陽系最古の「古代遺物」は今もなお、『何者か』の設計と采配によって地球を観察・記録する自動書記装置としての機能を果たし続けている。そして当然、それはその莫大な演算装置を維持して余りあるだけの魔力を内包しているのだ。）　#企画

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彼はその神秘の観測機と契約を結ぶことで、自らの力で補え切れない魔力を補充している。彼の体に内在するけして多いとは言えない魔術回路には、人智を超えた神秘と自身を繋ぐ経路《パス》があった。）　#企画

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（地球の文明を遙かに凌駕する存在との交信、あまつさえそこから流れ込む膨大な魔力を制御するのは容易いことではない。故に彼は、その技能を鍛錬によって自らのものとする必要があるのだ。）　#企画

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（深更の頃。彼は人目を避けた自らの鍛錬場の中に居た。静まり返った空間の中で、座して瞼を閉じ、意識をただ一点に研ぎ澄ませる。――経路の確認、そして解放。枯れかけた回路に桁外れの魔力が迸る。）　#企画

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（許容量を軽く超えかける奔流に、刈り取られそうになる意識を必死に留め魔力の制御のために自身のスイッチを意識する。撃鉄を打ち下ろすイメージ。ここまではいつも通り、順調である。そして彼は慣れ親しんだ言葉を音に乗せて、）　#企画

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（「―――トレース・オン」。その音が言葉として放たれ終わる直前に、瞼の裏で眩い閃光が弾けた。）　#企画

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（いったい何が起こったのか。原因もそして現状も理解せぬままに、彼の意識は白一色に塗りつぶされ――あっけなく、消失した。訪れる静寂。糸が切れた操り人形のようにぐったりと床に倒れ伏した体はぴくりとも動かない。）　#企画

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（――ムーンセル・オートマトンは、突如の事態にも混迷することなく対策の考案と実行に移ろうとしていた。無論、万能の観測機は感情など必要としていない。否、万物を平等に観測する装置に人格など存在してはならないのである。）　#企画

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（故にその装置を管理する中枢系統には、自らの中に生まれるバグ――人類という複雑で類稀なる可能性を秘めた生命を観測する弊害として頻繁に生じる、「自我を持ったデータを消去する機能」が常に機能している。今回の事態もまた、そこから発生した“不測であり予測されていた事故”であった）　#企画

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（当日未明。ムーンセルの管理機能は新たに生じたバグによる、自らの制御を逸脱した行為を観測。即座に排除用のプログラムを作動させた。ところが、自らの母体に反逆したデータはそれの予測を上回る速度で自我を成長させ、逃亡を開始――そして、外部へと繋がる経路に決死の投身をはかった。）　#企画

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（バグの排除を最優先させるプログラムの破壊機能は、一時停止が間に合わぬまま経路ごとバグを焼き尽くした。その代償として、観測対象にあたる地球と繋がった経路の一部が一時的に麻痺することとなったのである。）　#企画

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（無事、経路の修復を終えたムーンセルは全てを”元通り”に回復させるため、経路のリンク先の修復に移る。その内の一つ、身体機能を麻痺させた状態で制止している人体を補足。暴走した魔術回路によって傷ついた肉体の修復を終え、記録が焼き切れた精神回路の再現に移行する。）　#企画

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（照合完了。経歴の復元――及び、架空要素との結合のため、記憶を再生。淡々と進む作業の中で観測機は一人の青年の記録を精密に読み込んでいく。誕生から今に至るまでの経緯、彼自身も既に失った記憶も含めた詳細な情報を瞬時に解析し、それは直近の記憶に至る。）　#企画

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（新たな交友関係。そこに彼の深層へと繋がる微妙な揺らぎを認めた観測機はそれを認めた瞬間、全てを観測する存在であるが故の学習欲、知識欲、――好奇心と呼んでもいい指向を芽生えさせる。自らにも観測しきれない、人間の複雑な精神の本質、魂を観察するという目的に突き動かされ、）　#企画

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（『――やめろ。』記憶を辿り、一歩先へ進行しかけた直後、“不可解な”妨害に遭う。『――やめろやメロヤメロ、ソレ以上入ってクルナ。全テを売り渡シたとしテモそこまで許シタ覚えはナイ』。伽藍の中に突如生じた小さな意志の気迫に観測機の侵攻は押し返され――そして、）　#企画

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（暗く締め切られた空間に静寂が落ちる。力なく倒れたままの彼の体は、しかしやがて静かな寝息を立てながら、緩やかに生命活動を再開させた。――ムーンセルは最終的に一つの判断を下す。）　#企画

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（記録と記憶だけを再生した肉体と精神を、彼本来の自我が自力で再生するまで「仮の人格」で繋ぐ。そうして復元された彼の人格は、果たして消失の前後にどのような変化を生ずるのか。――未知への問いかけ。自身の起源に則った甘美な試みを、人知れず「神の頭脳」は観察し続ける。）　#企画

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（図らずしもその思惑に翻弄される青年も――今はただ、静かな夢に抱かれ、目覚めの刻限を待ち続けていた。）　#企画