超人誕生-『アキハバラ電脳組』の霊機融合について-

『アキハバラ電脳組』の第17話「新生」にて、主人公花小金井ひばりがディーヴァ(DIVA)との霊機融合を果たすまでの描写を、錬金術作業過程及び超人への道の観点から考察します。(未完)
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アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

「さあ、アニマ・ムンディ!お前は賢者の石たるか!はたまた川底に転がりし苔むす小石か!」[『アキハバラ電脳組』17話「新生」竜ヶ崎鷹士(シューティングスター)の台詞より]この時点での花小金井ひばり(主人公)は、三段階ある錬金術作業過程(黒・白・赤)のうち白の状態にまで覚醒している。

2010-06-18 21:09:06
アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

錬金術には、女性と見做される《アニマ・ムンディ》が、《第一質料》である卵の中に閉じ込められているとか、闇の勢力に囚われているという考えがある。そこから《アニマ・ムンディ》を解放することが、錬金術の大いなる作業(オプス)の目的だと考えられた。

2010-06-18 21:17:56
アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

三段階ある錬金術作業過程のうち、作業当初の段階である黒色即ち「ニグレド」は、第一質料[=渾沌塊]の、そもそも初めから存在している特性であり、この状態ではアニマ・ムンディは解放されておらず、それは「死」あるいは「腐敗」の状態にある。

2010-06-18 21:28:07
アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

このような状態は、グノーシス主義でいうところの忘却、あるいは無知(アグノイア)の状態にあって彷徨しているというのと似ている。さて、作業過程においてこのニグレドの状態にある第一質料は、洗滌(アブルティオ)或いは洗礼(パプティスマ)によって白化(アルベド)し白色石となる。

2010-06-18 21:40:30
アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

これは《アニマ・ムンディ》の覚醒の第一段階といえる。『アキハバラ電脳組』の場合、主人公・ひばりが新生ローゼンクロイツによる襲撃を受けて、ディーヴァを降臨させるというシーンがあるが、この段階で自らの内なるアニマ・ムンディの火の光線を迸らせはじめているといえる。

2010-06-18 21:48:15
アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

というのは、あの場でディーヴァを降臨させるきっかけとなった原因は、ユング的に言えば魂(Seele)或いは元型のヌーメン的激情だといえるからである(ユングはそれを第一質料の中に閉じ込められた《アニマ・ムンディ(世界霊魂)》の火の光線と同一視している)。

2010-06-18 21:54:47
アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

主人公に続いて彼女の友人達も続いてディーヴァを降臨させることができるようになり、話の流れの中で徐々にその降臨させる作業を自分でコントロールできるようになっていく。このコントロールできる段階で彼女達の内なる第一質料はニグレドの段階を脱して白色石となったといえるだろう。

2010-06-18 22:00:46
アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

錬金術師の中には、これだけでもう目的の全てが達成されたといわんばかりに、この白色石の状態を高く評価する者たちも多かったが、実際にはこの段階では銀ないし月の状態に過ぎず、この後なお金ないし太陽の状態にまで高められなくてはならなかった。白化はいわば夜明け前の薄明に過ぎない。

2010-06-18 22:13:31
アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

錬金術作業過程の中で最終段階といえるこの金ないし太陽の状態へと高める作業が赤化即ち「ルベド」である。さてこの赤化の段階と錬金術的超人について、洗礼を受けたアニマ・ムンディの巫女となったひばりが更なる覚醒によってディーヴァと霊機融合を果たしたことと照らし合わせてみよう。

2010-06-18 22:58:31
アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

最初に引用した龍ヶ崎鷹士の「賢者の石たるか、それとも川底に転がりし苔むす小石か」という台詞は、アニマ・ムンディの巫女として洗礼を受けて白色石の段階になったひばりが、更なる覚醒を果たして赤化することができる存在であるか、それともまた黒化してしまう存在か、と言っているといえる。

2010-06-18 23:06:36
アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

超人とは、錬金術の達人たちがその大秘法を通じて達成しようとする「神的存在」のことである。これは錬金術の中でも最も野心的なものである。錬金術はこの超人への道、即ち神への道を説く。その道とは人間の霊的復活、すなわち人間の内部で神的な力を発展させるのに必要な諸条件を作る術である。

2010-06-18 23:18:07
アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

これにおいては人間それ自体が錬金術の「大いなる作業」の材料であり、《ロゴス(神の言葉)》=「錬金術師」、《聖霊》=「秘密の火」という概念が重要である。錬金術はしばしばヘルメスの術とも呼ばれるが、ヘルメス主義が物質への軽蔑を説くというのは極端なグノーシス主義と若干違う側面がある。

2010-06-18 23:21:44
アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

ヘルメス主義的神秘主義は、物質を創造の必要部分と考えており、霊が物質を超えて上昇するためには、物質についての知識をよく理解し征服しなくてはならないとする。故にこの超人への道を達成させる際には、物質的操作の作業と、神秘的作業(霊的作業)を同時に行わなければならない。

2010-06-18 23:23:17
アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

この二つの作業は、互いの作業が互いに厳密に対応しているのである。以下にこの二つの作業について触れておこう。

2010-06-18 23:31:33
アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

1.神秘的作業:肉体の抵抗を打ち砕くことによって脱魂状態を生む可能性のあらゆる方途を駆使し、方法論 的に規定された修行を通じて行われる。それが完成を見るのは、人間存在の聖化、その徹底的純化を通 じてだが、これは神的存在からその恩寵を授からないことには成しえない。

2010-06-18 23:33:24
アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

それは《ロゴス》によってのみ授けられる《火の洗礼》であり、その《火の洗礼》とは「神の霊」、《秘密の火》、《燃える水》[=哲学者の硫黄+哲学者の水銀=賢者の石]の降下のことである。これを俟って、人間存在の聖化の徹底化が可能となる。

2010-06-18 23:36:01
アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

2.物質的作業:神秘的作業と同時に錬金術師は「生きた宇宙エネルギー」、即ち《アイテール(エーテル)》を媒介とする物質的作業を成就しようと努める。アイテールはアニマ・ムンディと同質である。

2010-06-18 23:43:42
アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

錬金術師がその作業の中で第一質料の内部に閉じ込められたアニマ・ムンディの火の光線を迸らせるということは述べたが、そのため錬金術師は「自然の火(光)」[=アイテール](それなくしてはこの世の何ものも生育しない)を我が物としなければならない。

2010-06-18 23:48:23
アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

アイテールそれ自体は闇に捉われているとされる。錬金術師はこの《アイテール》を物質化する度合いに応じてそれを捉えていかなければならない。

2010-06-18 23:52:25
アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

『アキハバラ電脳組』では、鷹士が、自分がローゼンクロイツの息子として、その錬金術の秘法を受け継ぐ者と自負していたり、「わがミステリウム・マグヌム(大秘法)の力」と言っているあたりをみれば、彼が「アイテールを我が手に」と言っている意味が、この錬金術の考え方に対応しているといえる。

2010-06-18 23:54:08
アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

(ところで先に述べておきますと、今話している錬金術的超人への道の「モチーフ」については、ニーチェの『悦ばしき知識』の中の永劫回帰を宣告するダイモーンや、永劫回帰の教師としてのツァラトゥストラ、「渾沌」などとも絡められる要素があります)

2010-06-19 00:02:26
アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

(たとえば「渾沌」についてはそのまま第一質料=賢者の石と見立てて、精神の三態変化をそのまま錬金術作業過程における黒→白→赤の三段階変化にみたてるということもできるだろう)

2010-06-19 00:10:25
アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

人間それ自体を材料とする超人への道、それを成し遂げるための錬金術の大作業は、ロゴスによる《火の洗礼》を受けることによって、《アニマ・ムンディ》を肉体のくびきから解放し、この世にあるうちから「蘇り」の状態に達するという点については、グノーシス主義における「復活」の概念に似てはいる。

2010-06-19 00:14:40
アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

しかし、確かにグノーシス主義における霊的復活(本来的自己の力の覚醒)、あるいはソフィア(プシケー)の救出と、そのイメージを同じくしてはいるが、「生きながらの死」の状態からの復活を果たした後に肉体的な死を遂げることでプレーローマに回帰することが最終的な復活を意味するという点は違う。

2010-06-19 00:20:03
アブラクサス・アイオーン @Abraxas_Aeon

錬金術[=ヘルメス主義]の場合は肉体的な死を通過せずして腐敗すべき肉体から解放されることを目的とする。ロゴスの《火の洗礼》によって蘇り・覚醒を果たしたアニマ・ムンディは粗悪なマグス(塊)を破壊し、肉体を改変して、限りなく流動的で光り輝く精髄たらしめる。

2010-06-19 00:23:14