公文俊平氏の『中国化する日本』批評

> 近代文明のいくつかのタイプが、互いに相互乗り入れ(コエミュレート)しつつも、基本的にはみずからのタイプの特徴を残して共存し続けると考える方が、より現実的に思える と。なるほど。この批評を参考にしつつ『中国化する日本』を読む予定。ちなみに、青木昌彦著『コーポレーションの進化多様性』もそれに近くて、タイトル通り、社会と会社が「多様に(共)進化する」(「グローバルスタンダード」に均一化されるのではなく)という話になってる。
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Shumpei Kumon @kshumpei

中国化① 与那覇潤さんの『中国化する日本』が抜群に面白い。しかし表題はいささか疑問。なぜなら、この本を最後まで読んでも、日本が本当に著者のいう意味での中国化をこれからしていくのか、必ずしも明らかでないからだ。

2012-06-01 21:42:40
Shumpei Kumon @kshumpei

中国化② それはともかく、この本での「日本史」の流れの説明は、私たち(村上泰亮、佐藤誠三郎、公文俊平)が『文明としてのイエ社会』(1979)で試みた説明と基本的に同じだ。残念ながら、私たちの仕事は与那覇さんにはまったく無視されてしまったが。

2012-06-01 21:43:21
Shumpei Kumon @kshumpei

中国化③ 私たちは、あの共同研究で、10世紀以降の「イエ社会」としての日本の文明それ自体を「近代文明」とみなす一歩手前まできていた。今でも私は、なぜ本の表題を『近代文明としてのイエ社会』としなかったか悔やんでいる。

2012-06-01 21:43:47
Shumpei Kumon @kshumpei

中国化④ 1970年代後半の日本で、私たちは「イエ社会」の存続が困難になったと考えていたが、消滅すると断言することはしなかった。ろしろ今後の選択肢として、イエ社会の1)溶融的国際化と、2)適応的棲み分けの二つをあげた。

2012-06-01 21:44:10
Shumpei Kumon @kshumpei

中国化⑤ 「溶融的国際化」は、与那覇さんの言葉でいえば「中国化」に近いが、私たちはその場合でも日本的家族(小イエ)は再建されると予想した。今にして思うとそれは間違っていたかもしれない。

2012-06-01 21:44:29
Shumpei Kumon @kshumpei

中国化⑥ 「適応的棲み分け」は、与那覇さんの言葉でいえば、「江戸社会」のさらなる適応的進化にあたる。与那覇さんが著書の最後であげている思想的「ボトルネック」の除去の二つの方向は、共に、そうした適応のありうべき方向かもしれない。

2012-06-01 21:44:59
Shumpei Kumon @kshumpei

中国化⑦ 当時の私たちの分析に決定的に欠けていたのが、日本での「イエ社会化」(日本的近代化)の始まりと同じ時期に、中国でも独自の近代化が始まっていたとみる視点だった。ただし私は、7-8年前から、次第に「広義の近代化」という概念枠組みに魅力を覚えるようになっていた。

2012-06-01 21:45:27
Shumpei Kumon @kshumpei

中国化⑧ すなわち、広義の近代化は10世紀ごろ、世界の各地にいっせいに「出現」(近世=初期近代化)し、16世紀ごろにその「突破」(狭義の近代化)が始まり、21世紀ごろから「成熟」(後期近代化)が始まるとする枠組みだ。

2012-06-01 21:45:47
Shumpei Kumon @kshumpei

中国化⑨ 与那覇さんは、『中国化する日本』のなかで、イスラーム社会こそ世界最初に近代化が始まった社会だという、宮崎市定さんの見方(『アジア史』)を紹介している。これにはとても勇気づけられる。(ではインドはどうなのだろうか。)

2012-06-01 21:46:06
Shumpei Kumon @kshumpei

中国化⑩ 中国と西洋と日本(とそしてイスラーム)の近代文明には、共通の特徴と同時に、差異もあるだろう。共通の特徴としては、何をあげればいいだろうか。たとえば、未来指向や進歩主義がそれだろうか。

2012-06-01 21:46:25
Shumpei Kumon @kshumpei

中国化⑪ 他方、差異を表すための分類軸にはどんなものがあるだろうか。専制(集権)対民主(分権)、個人主義対集団主義、特殊主義対普遍主義などがあげられそうだが、そこからどんな「比較近代文明論」が可能になるだろうか。

2012-06-01 21:46:44
Shumpei Kumon @kshumpei

中国化⑫ だが、与那覇さんの見方だと、世界の近代文明は、西洋も日本も、結局すべて「中国化」する。西洋近代文明の特徴とされる人権の尊重や議会制民主主義などは、近代化の後発地域だった西洋に残存した「貴族の特権」にすぎない。だからいちはやく貴族を排除した中国的近代には無用の特徴だ。

2012-06-01 21:47:03
Shumpei Kumon @kshumpei

中国化⑬ 日本的近代文明の集団主義(イエ・ムラ)に基づくさまざまな特権や保証も、「貴族の特権」の代替物にすぎないので、いずれ消滅する。そして世界はひとしなみに中国化するというのが、与那覇さんのビジョンだ。しかし本当にそうだろうか。

2012-06-01 21:47:21
Shumpei Kumon @kshumpei

中国化⑭ 私には、近代文明のいくつかのタイプが、互いに相互乗り入れ(コエミュレート)しつつも、基本的にはみずからのタイプの特徴を残して共存し続けると考える方が、より現実的に思えるのだが。

2012-06-01 21:48:40
Shumpei Kumon @kshumpei

中国化⑮ もちろんその過程で、与那覇さんのいうおかしな「ブロン」――お互いの悪いところだけを残してしまう失敗例――が一時的にでてくるかもしれない。与那覇さんは、過去のそうした例をいくつもあげている。しかし、それらは早晩淘汰されるだろう。

2012-06-01 21:52:00
Shumpei Kumon @kshumpei

中国化⑯ だがその場合でも、もともとの自分のタイプの基本的特徴まで消滅してしまうことはなく、近代文明にはいくつかのタイプのものが共存し続けるのではないか。現在の情報社会化は、まさにそれを可能にするような物理的および社会的な技術基盤を用意していると信じたい。(ひとまず終り)

2012-06-01 21:52:41