ザ・マン・フー・カムズ・トゥ・スラム・ザ・リジグネイション #7

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

第二部「キョート殺伐都市」より:「ザ・マン・フー・カムズ・トゥ・スラム・ザ・リジグネイション」 #7

2012-06-01 22:43:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

キョート城内のおもなエレベーターは奴隷スモトリが稼働させる。人力で歯車を押して回す事で上昇・下降させるのだ。スモトリ抜きでも動かせるよう、電力による稼働システムも当然備えてはいるが、あくまでそれは非常時を想定している。人間を責め苛み機械の動力として用いる事が思想的に重要なのだ。1

2012-06-01 23:00:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

動力源である奴隷スモトリ、侍女めいて働くが人間の尊厳を認められぬ奴隷オイラン、能面を着用し城内を巡回するクローンヤクザ兵、額に烙印を受けたバンカシラ、あるいは城内の調度、装飾。何もかもが格差社会思想という強固な理想のもとで保持される異常抑圧の要塞。それこそがキョート城である。2

2012-06-01 23:11:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

シャドウウィーヴはいまだそうした抑圧システムに生理的な不気味さを感じる事を自ら抑えられずにいる。クローンヤクザと接する時の嫌悪、こうしてスモトリ人力のエレベーターで下降する際の不安感。彼は非ニンジャを軽蔑しニンジャとしての己を誇っていた。しかし、落ち着かぬものは落ち着かぬのだ。3

2012-06-01 23:17:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

廊下をすれ違う際、クローンヤクザ兵はきっちりとシャドウウィーヴに敬礼し、カタナを立てる。そのように教育されている。彼は目を伏せ、足早に通り過ぎる。彼が向かうのは「ビジター区」から強化ガラス一枚で隔てられた「踊るモンキーの区」だ。 4

2012-06-01 23:25:01
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強化ガラスは物理的には薄いが、ビジター区と踊るモンキーの区の隔絶は、精神的には天と地ほどにも遠い。ただの来訪者がビジター区を超えてキョート城の奥義に触れる事は許されないのだ。バイオ薔薇の庭園を左手に、強化ガラスの向こうのビジター区を右手に見ながら、彼は歩く。 5

2012-06-01 23:31:47
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やがて彼は庭園の端の小塔に辿り着く。入り口を警護するクローンヤクザ兵が跪く。それらを無視し、小塔の中へ。そして江戸戦争の絵巻壁画を横目に見ながら、螺旋階段を上がる。上がりきった先、小さな鉄扉がシャドウウィーヴの目の前に現れる。彼は鉄の輪に手をかけ、開いた。ユカノが顔を上げた。 6

2012-06-01 23:39:14
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美しい女性である。黒髪は長く、新月の夜の闇めいている。「……」彼女は青銅で表紙を補強されたイングランドのニンジャ史にまつわる古文書を閉じ、机に戻した。そしてシャドウウィーヴを見た。彼は彼女の瞳に宿る理力めいた謎を畏れた。「ドーモ。シャドウウィーヴです」彼はオジギした。 7

2012-06-01 23:44:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「お加減はそのう。いかがで」彼は何と声をかけるのが適切かわからず、愚者めいた言葉を発した。彼は恥じ、悔いた。無理も無し。彼の出自はハイスクール学生……貴族の流儀が染み付いた身分では到底無いのだから。しかもユカノのバストは豊満であり、彼は目のやり場を他に探さねばならなかった。 8

2012-06-01 23:50:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「加減も何も。私は病気では無いです」ユカノは冷たく言った。幽閉の身だというのに、そのアトモスフィアには強さが滲む。シャドー・コンからキョート城へ連行されて来た際はもっと覇気の無い様子であったが、あれはヒュプノ・ジツのせいもあろう。「そちらの用は何ですか」ユカノが訊いた。9

2012-06-01 23:57:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ああ。そうです。それだ」シャドウウィーヴは咳払いした。「貴殿を正式な獄に移します。ホウリュウ・テンプルの地下に。ここは空の下であるがゆえ、不届き者の危険を排除しきれない。ですから、より安全な場所に。獄とは言いますが大変快適な場所です、何不自由の無い……」「まさか今から?」 10

2012-06-02 00:04:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「え」「貴方一人で私を連れ歩くと言うのですか?」「え」シャドウウィーヴは言葉に詰まった。(そういうものか?まずいのだろうか?)ユカノが睨んだ。「まさかロードがそのように指示したのではないでしょうね?左様にシツレイな真似を」「あ……いや、ロードの指示という事は……多分無い……」11

2012-06-02 00:10:27
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「アイサツの作法も知らぬ低身分のニンジャ一人で、私を晒し者めかして城内を連れ回る、そういう事ですか?」「え」シャドウウィーヴはユカノを見た。剣呑な目で彼を凝視している。彼は再び目を逸らした。(何だ?本当にヒュプノが解けたとか、そういう問題なのか?本当に、前からこんな……?) 12

2012-06-02 00:15:59
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「その、すぐ確認して……その……」「せめて侍女をよこしたらいかがです。貴方一人ではガサツに過ぎますね」ユカノは溜め息をついてみせた。そして小窓の外の空を見やった。もうシャドウウィーヴを見ない。「そんな事……いや、でも、とにかく確認を……するので」ユカノは答えない。 13

2012-06-02 00:22:54
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そのとき、懐から青く光る正12面体のドロイドが飛び出し、クルクルと宙を飛んだ。「重点!」「え」シャドウウィーヴは狼狽した。「おい、やめ……」「起床重点!予定時刻重点!」「アアッ!」シャドウウィーヴはモーターチビを素早く掴み取り、電源を切った。「申し訳ありません!」 14

2012-06-02 00:28:08
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ナムサン!アラームの切り忘れだ!シャドウウィーヴは背中に脂汗をかいた。ここまでブザマをさらせば、ケジメもあり得る!「申し訳ありません、これは……」ユカノはしかし、くすりと笑ったのだ。苦笑めいてはいたが。彼は頭を下げた。「とにかく、どうにかします」「それは何ですか?」「え」15

2012-06-02 00:32:29
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ユカノはモーターチビを指差した。シャドウウィーヴはわらにもすがる思いでそれを差し出した。「ドロイドです、その……多機能で、小さい」「カワイイですね」「アッハイ、カワイイですよ、本当です」彼は電源を入れ直した。青く光り、「重点!」と合成音声が叫んだ。16

2012-06-02 00:36:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼は畳み掛けた。「よかったら、諸々手配する間、それを楽しんで頂いて結構ですから。そのう、取り急ぎ、ご不快の無いように整えて、すぐに戻って参りますから」「わかりました」ユカノは頷いた。「ありがとう。よしなに」「ハイ!」シャドウウィーヴは急いで部屋を飛び出した。 17

2012-06-02 00:38:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

再び狭い個室に一人残されると、ユカノは椅子にもたれ深く息を吐いた。「あの小僧面白いな」声は窓の外から聴こえた。窓枠が少しズレており、声が届く。「もう行ったか?」「……」ユカノは耳を澄ませた。「はい。降りましたね」そして窓を振り返る。逆さにぶらさがる声の主が窓の外から見返した。18

2012-06-02 00:43:37
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「アイツとは前に一度やり合った事があるんだ。まァどうでもいいな」ディテクティヴ……タカギ・ガンドーは、窓の外にぶらさがったまま呟いた。「それは使えるぜ。多分な。ちょっと待ってろ」彼は懐をさぐり、似た形の正12面体ドロイドを取り出す。「俺も持ってるんだ、それを」 19

2012-06-02 00:47:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

逆さにぶらさがったまま、彼は手持ちのドロイドからLANケーブルを引き出す。ユカノはそれを窓の隙間から受け取り、受け取ったばかりのモーターチビに直結する。「お見合いだ」ガンドーは言った。ガンドーのものは赤い光、ユカノのものは青い光。それらがシンクロして点滅を開始する。 20

2012-06-02 00:52:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ヌンヌンヌンヌンヌン……」「しかしアンタ、堂に入ったもんだぜ」ガンドーが言った。「腹が据わってンのか」「腹が据わっています」ユカノは冗談めかして言った。「なんだか色々、腹が立って来て」「ははッ!」ガンドーは逆さにぶらさがったまま、噴き出した。「そいつはいい、そりゃそうだ」 21

2012-06-02 00:57:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

キャバァーン!「「リンク重点な!」」合成音声が和した。「ブルズアイ!」ガンドーは自分のドロイドを受け取り、逆さにぶらさがったまま、確かめた。「これで遠隔操作が重点されて……いけるぜ!あの小僧さまさまだ。やれやれ」ガンドーはそれを再び懐に突っ込んだ。 22

2012-06-02 01:05:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「いいか。アンタの側にそいつを置ければ最高だ。それが無理でも十分役に立つ。キョート城の警備はちょっと並じゃねえ。ビジターエリアを離れると半端ねえ。今も相当無理して来たんだ、これでもな。ダンディだから顔に出さんのだ」ユカノは笑った。「ありがとう」「なァに。よろしく頼むぜ」23

2012-06-02 01:08:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「はい」「窓越しのままで済まんな!このままつれて帰れりゃ最高にイカしてたんだが」逆さにぶら下がったまま、ガンドーはニヤリと笑った。窓の大きさはガンドーの頭程度だ。「とにかく、この俺とアイツを信じてろ。バカな真似はさせねェからな」ユカノは頷いた。もう一度言った。「ありがとう」 24

2012-06-02 01:13:50