リターン・ザ・ギフト #1
「おや、おや、どこから入ったのだか」背後から近づく足音に男は反応した。男は当然、その声と足音の主を振り向きざまに殺すつもりであった。男は両手足を投げ出す格好で長椅子にもたれ、一見、酔った浮浪者が夜を隠れ過ごそうとしている風なアトモスフィアである。あるいは行き倒れの者か。 1
2012-06-03 22:48:14「珍しい時間にいらした客人である事よ」背後から近づく声は落ち着き払っており、その落ち着きぶりは男を苛立たせる。ウシミツ・アワーの礼拝堂は、当然、闇に包まれている。だから男の正体がわからぬのだ。間近に見れば恐怖に叫び出す事だろう。男は息を殺し、相手が攻撃範囲へ入ってくるのを待つ。2
2012-06-03 22:56:04あと三歩。あと二歩。男のニンジャ聴力は死刑執行の刻を計る。あと一歩。まるで素人、無警戒の接近だ。更に一歩。手首に枷めいて嵌められた鉄輪、その先の鎖を男のカラテが伝い、バズソーのモーターに注ぎ込まれ、自ずから回転を開始する。シュイイイイイ!なんたる超常現象!男は跳ね起き…… 3
2012-06-03 23:01:15「イヤーッ!」振り向きざまにバズソーの鎖を放つ!「アイエエッ!」人影はひるみ、本能的に手を翳した……バズソーはその者のその腕ごと胸を水平に切断、さらにもう一方のバズソーが首を切断……しなかった。回転する円形の刃は老人の極近くを奔り抜け、別の長椅子を破壊し、飛び戻った。4
2012-06-03 23:07:23「なんで外したァ……」男は腐臭とともに問うた。己に向けられた言葉であった。それは月だった。男がまさに跳ね起きて振り向き様に攻撃を加えようとした瞬間。窓の外、雲間から月が顔を出し、堂内を照らしたのだ。ステンドグラスの啓示的な図画を。そして神父の老人を。実際、それが理由だった。 5
2012-06-03 23:13:01「懺悔に参ったか。切羽詰まったご様子だの」老人は息を吐き、長椅子を破壊したバズソーが飛び戻るさまを恐怖とともに見やった。そして男を見据えた。数秒の沈黙。月明かりは男の姿をも、はっきりとさらしていたであろう。「聖職者を殺すとバチが当たるぞ、お前さん。しかも審判の日にはちと早い」 6
2012-06-03 23:23:26男は全身を汚れた包帯で覆い、患者服めいたズボンをはいていた。包帯の巻かれ方は粗く、また、争いか何かの結果として破損したりほつれたりしていた。包帯の中からのぞくのは、腐敗した筋組織……老人は言った「告解なら、あっちの部屋だ。聴いてやるから入ンなさい」「ふざけるんじゃねェー……」 7
2012-06-03 23:32:35「とにかく落ち着きたまえ!落ち着きたまえ!」相手は後ずさった。両手を前に出し、せわしなく周囲を見渡す。「フブキ君!グール!ちょっと!こんな時に困るねェ!グール!来なさい!グール!」「……」男は訝しんだ。相手は老人ではない。リー・アラキだ。男は……ジェノサイドは、一歩踏み出す。 8
2012-06-03 23:39:38「イヤーッ!」呼びかけに応え、斜め上方からアンブッシュを仕掛けて来たニンジャあり!ジェノサイドは咄嗟にバズソーを振って撃墜を試みる。敵ニンジャはバズソーを腕で受け止め、反動で跳躍すると、リー・アラキを庇うように着地!そしてオジギ!「ドーモ、ジェノサイド=サン。グールです」 9
2012-06-03 23:43:53「ドーモ。ジェノサイド……」ジェノサイドは己の名前を一瞬確かめ、続けた。「ジェノサイドです。なんでテメェがここにいる」「それはこちらの台詞ですねェ」長身痩躯の男、リー・アラキは斜めに顔にかかった前髪を払いのけ、眼鏡を光らせた。「いや違う!正確には、なんたる幸運!と言いたい!」10
2012-06-03 23:47:48「幸運?」ジェノサイドはグールを一撃で殺し、返す刃でリー先生の両膝を切断する方向で、戦術検討した。「俺とお前じゃ、幸運の定義が違うか?」「ドーモ、グールです」グールが再びアイサツした。「イヒヒーッ!」リー先生は跳び退がり、「グールは二回アイサツしてしまうのです!申し訳ない!」11
2012-06-03 23:55:19ジェノサイドは状況を整理しようとした。ここは礼拝堂だ。確かにそうだ。長椅子を幾つかバズソーが破壊し、月明かりが高い天井の側の窓から差し込んでいる。だが相手は神父ではなくリー先生と手下のニンジャ。わかる。わかる。紛らわしいロケーションがおかしな記憶混濁を引き起こした。わかる。12
2012-06-04 00:00:32当然ジェノサイドの包帯の上にはカソックコートにウエスタンハット。礼拝堂のステンドグラスもあの夜のあの図画とはまるで違う。七枚の翼を生やし後光に照らされるニンジャの姿だ。(馬鹿げてやがる)ジェノサイドは毒づく。キョート辺境古城内の礼拝堂。ネオサイタマではない。わかる。 13
2012-06-04 00:05:56「会いたかった、本当に会いたかった!ジェノサイド=サン!」リー先生はグールの後ろから興奮気味に言った。「お前は依然として最高傑作!そう言わざるをえないねェ!その事実は実際憎くもある!私の研究がまだまだ至らぬ事の証左……」彼はぜいぜいと息を吐いた。「戻りなさい!我がもとへ!」 14
2012-06-04 00:13:10「イヤーッ!」グールがジェノサイドめがけ走る!リー先生は長椅子の影にカサカサと走り込み、身を隠した。「嗚呼、いけないぞ!ジェノサイドは大事なんだ、グール!わかれ!」「ドーモ、ジェノサイド=サン。グールです」「三回目!何たる事か!ククーッ!」リー先生は長椅子を噛んだ。16
2012-06-04 00:20:08「ジェノサイド!グールも大事なのだ、貴方も殺してはダメ……」「ゼツ!」二本の鎖つきバズソーが凶悪な軌道でグールに襲いかかる!「メツ!」「イヤーッ!」グールは前方の床へ身を投げ出し、急激な匍匐前進で刃を躱しつつ接近!「イヤーッ!」うつ伏せ状態から跳躍、ジェノサイドに掴みかかる!17
2012-06-04 00:26:55ジェノサイドはしかし、何の不都合も無し!彼は手首でバズソー鎖を操るのだ。拳は自由!「イヤーッ!」「グワーッ!」ネクロカラテ正拳突きがグールの胴体を直撃!「イヤーッ!」「グワーッ!」もう一撃!グールは吹き飛ぶ! 18
2012-06-04 00:34:35「アーッ!これはいけない!勝負あった!イヒヒーッ!」リー先生が長椅子の陰から狂おしく叫んだ。「ゼツ!メツ!」ジェノサイドの両腕がしなり、バズソー鎖が再度旋回……起き上がるグールを左右から襲う!「アババババババーッ!」バズソーの一方がグールの腰を!一方がグールの首を!切断! 19
2012-06-04 00:44:13「サヨナラ!」グールがジゴクめいて叫ぶと、そのネクロボディは爆発四散した!ジェノサイドはリー先生に何か言おうとした。その時だ!死角方向から飛び来たった巨大な手錠めいた形状の拘束具が、ジェノサイドの胴体をガッキと銜え込んだのだ!「グワーッ!?」 20
2012-06-04 00:46:59「何だァ歯ごたえの無い!」ジェノサイドの後方の闇から姿を現したのは、全身に鉄の輪を装着した恐ろしげなニンジャ。拘束具の投擲主だ。「ドーモ、リストレイントです」そしてもう一人、長身の女!「ドーモ、フブキ・ナハタです。先生いけませんわ、お一人で」「グールもいたのだ!死んだがねェ」21
2012-06-04 00:54:58「イヤーッ!」ジェノサイドはそちらへバズソー鎖で攻撃しようとした。だがその時には更なる拘束具が飛来し、ジェノサイドの上腕と胸をまとめてしまった。「グワーッ!」「もう一丁!イヤーッ!」「グワーッ!」両足首を拘束!ジェノサイドはなす術無く仰向けに倒れた!「グワーッ!」 22
2012-06-04 00:58:34「ウオオーッ!」ジェノサイドがもがいた。だが、いかんともし難し!リー先生が素早く長椅子の陰から飛び出す。「理想的対処だ!素晴しいねェー!」リストレイントは腕を組む「所詮ゾンビはゾンビ。生身の手練には手も脚も出んのさ!」「その意見はあまりにも一面的ゆえ、採用しないねェ!」23
2012-06-04 01:04:56フブキが壁の装置を操作し、礼拝堂の照明を起動させた。デコルテを強調するラバー白衣、鮮烈なオレンジのショートボブが照らされる。彼女は無意味に自分の豊満な胸を揉みしだきながらジェノサイドに近づく。歩くたび深いスリットから白い太腿がこぼれる。「何がどうなっていらっしゃるンですの?」24
2012-06-04 01:14:59「こっちの台詞だ」ジェノサイドが唸った。「なぜここにテメェらがいる」リー先生は眼鏡を直した。「フーム……先程長椅子の陰で全ての可能性を検討しましたが、お前の目的と私の目当ては同じでしょう。……ジェイキ・ミズノ博士の秘密研究だ」「……」ジェノサイドは沈黙した。 25
2012-06-04 01:26:42