リターン・ザ・ギフト #2
ドドダド、ドドダド、ドドダド、ドドダド、ゴゴガガガガガガ、ゴゴガガガガガガ、ゴゴガガガガガガ、ゴゴガガガガガガ、「オウイェー、背中は白いぜェー、オウイエーイエー、頭がおかしい女だぜェー」キョート辺境のギラつく太陽を受けるチョッパーバイクは鋼のクーゲルめいて凶暴だ。 1
2012-06-05 10:55:56ドドダド、ドドダド、ドドダド、ドドダド、ゴゴガガガガガガ、ゴゴガガガガガガ、ゴゴガガガガガガ、ゴゴガガガガガガ、「オウイェー、豊満だしハイだぜェー、オウイエーイエー、死ぬのも面倒臭えぜェー」バイクは爆音のストーナーロックを鳴り響かせ、乗り手も大声でシンガロングする。 2
2012-06-05 11:11:24チョッパーバイクのリア部には鎖がつながれ、それが車輪付きの鉄製カンオケを牽引している。カンオケには白く粗末なペイントで七枚の葉とクロスボーンの意匠、「ハッパ」というカタカナがショドーされている。乗り手はズタズタのロングコートを風にはためかせ、頭には山高帽を目深に被る。異様だ。 3
2012-06-05 11:19:14山高帽から真っ白なストレートの頭髪が流れ、その顔には……ナムサン、黒い包帯が乱雑に巻きつけられている。包帯の隙間からのぞくのは……ナ、ナムサン……ソクシンブツめいて焦げ茶に乾いた死者の顔ではないのか?「オウイェー、実際安いぜェー、オウイェーイエー、くたばっちまうぜェー……」 4
2012-06-05 11:26:17歌いながら、バイクはもはや道路すら無い荒れ地を走り進む。禍々しいスパイクタイヤ。車体には二本のノボリ旗が立ち、一方には「神ハヤイ」もう一方には「エルドリッチ」と威圧的書体で書かれている。背中のホルダーにクロスで背負うは、黒光りする二丁のソードオフショットガン。絶対に危険だ。 5
2012-06-05 11:54:04ぞんざいなギターソロがスモーキーに鳴り響き、曲が終わった。丁度そのタイミングで、男はチョッパーバイクをドリフトさせ、停止した。「ハァー」半開きの口から煙を吹き出す。男は前方に並べられたバリケードを見ていた。すぐに、全方位から装甲バギーが集まってきて、彼を包囲した。 6
2012-06-05 12:01:58「よォし、お前!そのままホールドアップしなさい」装甲バギーの窓から上半身を乗り出した男が命令した。裸の上半身にリベットつきベルトを巻きつけ、顔にはホッケーマスクを被っている。彼は手にしたマグナム銃の撃鉄を起こし、チョッパーバイクの男に向けた。コワイ!「通行税払いなさい」 7
2012-06-05 12:08:21「ハァー……」男は山高帽のツバの下から睨み返した。「通行税ナンデ?」「ここは俺たちグレート・キョート・デスデリバー団のテリトリーよ」ホッケーマスクは他の装甲バギーを示した。剣呑な男達が皆、銃をチョッパーバイクの男に向けた。「そのカンオケと持ち金全部。あとガソリンを半分置いてけ」8
2012-06-05 12:12:32「そうかァー」チョッパーバイクの男は言った。「俺はエルドリッチです」「名前なんて聞いてねェーんだよ!ホールドアップしろ!」ホッケーマスクが叫んだ。「三秒以内だ!その後撃つ。今から数えるぞ。三、」BANG!ホッケーマスク男の頭が噴き飛んだ。即死!噴水めいた鮮血! 9
2012-06-05 12:19:00何が起きた?当然、エルドリッチと名乗ったこの異様な男がやったのだ。彼は背中にクロスで負っていたソードオフ・ショットガンを二丁構えていた。抜き撃ちしたのだ!「アイエエエエ!?」山賊の一人が拳銃を取り落とし失禁した。「ボス!?」「カンオケは俺のベッドだ。だからァー、やらねェー」10
2012-06-05 12:24:46そう言い終わると同時にエルドリッチは左手のショットガンを発射!BANG!「アバーッ!」山賊が一人即死!「う、撃ち殺……」BANGBANG!エルドリッチはさらに両手同時発砲し二人殺すと、バイクから跳躍!「イヤーッ!」「アイエエエ撃て!撃て!」 11
2012-06-05 12:33:57エルドリッチは銃弾を躱しながら、太陽を遮るように飛ぶ!ズタズタのコートがはためき、その下のニンジャ装束が見え隠れする。彼は飛びながら二連式ソードオフショットガンを背中へ戻し、キリモミ回転した。「イヤーッ!」回転の中から何かが飛び出す!鎖だ!その先端部には分銅! 12
2012-06-05 12:43:45「アバーッ!?」山賊の一人が分銅に頭を割られ即死!山賊達は狂ったように銃を撃つが当たらぬ!「アバッ!」むしろ誤射で一人が死亡!「カタナだ!」口々に指示しあい、山賊がカタナを抜き放つ!そこへ飛来する分銅!「アバーッ!」即死!さらに鎖はその隣の山賊に巻きつく!「グワーッ!?」 13
2012-06-05 12:58:02「イヤーッ!」エルドリッチが鎖を引くと、グルグル巻きの山賊は跳ね飛んでエルドリッチの手元へ引き寄せられた。鎖は手元で鎌武器の柄尻に繋がっている。エルドリッチはその鎌で、ナムサン!「イヤーッ!」「アバーッ!」頭から胴体までバックリと裂いた!恐るべき膂力!つまりニンジャ! 14
2012-06-05 13:01:45「ハーッ」エルドリッチは背後を振り返る。「アイエエッ!?」斬りかかろうとしていた山賊がたじろいだ。奥にさらに三人。「アイエーイエー!」彼らはバギーの中へ逃げ込もうとした。「イヤーッ!」エルドリッチは手近の一人に分銅を投げ、頭を砕いて殺害!奥の三人に飛びかかる!「イヤーッ!」 15
2012-06-05 13:22:06「アイエエエ、アバーッ!」着地しながら振り下ろした鎌が三人のうち一人を横に裂いて殺害!「イヤーッ!」エルドリッチはそのまま横回転!「アイエエエ、アバーッ!」右隣の一人を横に裂いて殺害!「イヤーッ!」エルドリッチはそのまま横回転!「アイエエ、アバーッ!」殺害!コンボ三倍点! 16
2012-06-05 13:26:55「ハッハァー……」エルドリッチは山賊達の凄まじい死骸の中に立ち、満足げに唸った。不気味な青黒い舌で口の周りを舐めた。「ヘルプ!ヘルプ!」装甲バギーの一台がガタガタと揺れた。「ヘールプ!」 17
2012-06-05 13:33:01「ヘルプ!奴らに捕まったんです!縛られてるんだ、助けてくれ!」エルドリッチはそちらへ歩いた。ドアを剥がすと、後部シートには肥った中年男性だ。「助けて!」エルドリッチはショットガンをリロードし、BANG!「アバーッ!」無雑作に撃ち殺した。「……面倒くせェー」 18
2012-06-05 13:33:25エルドリッチはバイクにつながれたカンオケを開いた。中に死体は無い。かわりに、フートンめいて、ハッパが敷き詰められている。エルドリッチはカンオケのふちに腰掛け、そのハッパで器用にジョイントを作った。「火ィー……あったァー」コートのポケットからマッチを取り、ハッパに点火した。 19
2012-06-05 13:41:43「スゥー……ハァー……ハァーハァー」酸鼻な惨殺死体に囲まれながら、彼は煙を吸引し、リラックスした。遠くの地平に霞むものを見やる。丘の上に建てられた城。「ジェノサイド……」太陽が照りつける。彼は吸いカスをもぐもぐと食べると、おもむろにカンオケの中へ転がり込み、蓋を閉め、寝た。 20
2012-06-05 13:48:40……その12時間後!まさにその古城の礼拝堂において、リストレイントの拘束具投擲を受け、リー先生に囚われたのが、ジェノサイドというわけなのだ!大小の鉄製拘束具で捕縛されたジェノサイドは、そのまま台車に寝かされ、今、リー先生の一行とともに、古城の闇を進んでゆくのだった。 22
2012-06-05 14:20:10「全く、後先考えないこと甚だしいものだネェ」先に立って進むリー先生が言った。「意識の混濁も相当進んでいる。確かに限界だねェこれは。私がいたから良かったものの」「全くですわ」「全くだ。ゾンビーってのはロクでも無いもんだぜ、先生」「その論評は論拠不十分故に採用しないねェ……」23
2012-06-05 14:38:30リー先生、フブキ、リストレイントが交わす奇怪な会話を、仰向けで運ばれるジェノサイドは朦朧としながら遠くに聴いている。彼の意識に薄ぼんやりと被さるのは、あの教会での出来事だ。だが、神父の言葉、面影、そういったものは、飛蚊症めいて捉え難く、するりと彼の意識から零れ落ちてしまう。24
2012-06-05 14:44:29