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藤原編集室 @fujiwara_ed
23年前、1989年の今日、宇野宗佑内閣が発足。リクルート事件で竹下首相が辞任し、事件と関係の薄い、クリーンなイメージの宇野氏が急遽担ぎ出されたのだが、この一報に国書刊行会(巣鴨)は俄かにいろめきたった。
藤原編集室 @fujiwara_ed
読書家で音楽や俳句の趣味をもち、文人政治家ともいわれた宇野氏には、自身のシベリア抑留体験を綴った著書『ダモイ・トウキョウ』(1948)があり、国書ではこれを〈シベリア抑留叢書〉の一巻として復刊していたのだ。
藤原編集室 @fujiwara_ed
新総理の本は売れる。同社では急ぎ新装版を制作して勝負に出た。
藤原編集室 @fujiwara_ed
しかし就任3日後に女性スキャンダルが噴出、宇野首相はわずか2ヶ月で辞任に追い込まれてしまう。あとに残ったのは行き場を失った在庫の山。皮算用は無惨についえたのであった。
藤原編集室 @fujiwara_ed
これが日本人が知っておくべき国書刊行会三大がっかり事件のひとつである。
藤原編集室 @fujiwara_ed
これは1976年のことだから、いまから36年も前の話。国書刊行会では「企画いらいじつに十六年!ついに実現した世界最高・最大の怪奇叢書!」を謳った《ドラキュラ叢書》全10巻を発刊した。《世界幻想文学大系》につづく海外文学企画第二弾である。
藤原編集室 @fujiwara_ed
その新聞広告を見たある旅行代理店が「ドラキュラ・ツアー」という企画をもってやってきた。ドラキュラ城のモデルとされるブラン城をはじめ、ルーマニア各地をめぐるパック・ツァーである。
藤原編集室 @fujiwara_ed
当時共産圏のルーマニアには日本からの観光客はほとんどなく、また「ドラキュラ」を観光の目玉とする発想もなかった。(ドラキュラ=ヴラド公の史実を探ったマクナリー&フロレスク『ドラキュラ伝説』の邦訳が78年)
藤原編集室 @fujiwara_ed
代理店の口先三寸に、新し物好きの社長はひとこと、「やりましょう」。
藤原編集室 @fujiwara_ed
かくして国書名物、出版情報をぎっちり詰め込んだ全5段の新聞広告の一画に、「ドラキュラ・ツアー参加者募集!」の文字がデカデカと躍ることになった。
藤原編集室 @fujiwara_ed
しかし、盛り上がる社内の期待をよそに、読者の反応はほとんどなく、そのまま募集期限がきてしまう。申込みはわずか一名。惨敗である。
藤原編集室 @fujiwara_ed
こういう場合、ツアー不成立にすることもできるのだが、それでは面子が立たないとでも思ったのか、会社では不足分を社員で補うという手に打ってでた。要するに、社員旅行みたいなものだが、もちろんツアー代は各自の自腹である。(それにしても、一人だけまじった一般のお客さんは、どう思っただろう)
藤原編集室 @fujiwara_ed
これを日本人が知っておくべき国書刊行会三大がっかり事件その二に認定したい。 (さすがにこれは入社前の事件。むかし、社の古老から聞いた話である)
藤原編集室 @fujiwara_ed
ついうっかり「国書刊行会三大がっかり事件」などとつぶやいてしまったために、「がっかり」を三つひねりださねばならなくなってしまった。自業自得である。しかし、最後のひとつが仲々むずかしい。
藤原編集室 @fujiwara_ed
もちろん「がっかり」が種切れな訳ではない。国書にかぎらず、会社というものは「がっかり」のかたまりみたいなものである。本が売れなくてがっかり、お願いした先生が全然仕事をしてくれなくてがっかり、苦労して見つけた作家を後から来た大手にさらわれてがっかり、なんてのはよくあること。
藤原編集室 @fujiwara_ed
また、いくら面白くても、口に出すのは憚られる、シャレにならないネタもある。世の中には言っていいことと、言うと面白いことがある、とはいうものの、調子にのって迂闊なことを口走って、志村坂上のミスターXから虎の穴の刺客を差し向けられては大変である。
藤原編集室 @fujiwara_ed
社員旅行で行ったソ連時代のウラジオストックで、軍港をカメラでパシャパシャやってた業務部員が、スパイに間違えられて拘留されそうになった話とか、
藤原編集室 @fujiwara_ed
魔術本企画のからみで海外の某人物から呪術戦を仕掛けられそうになった話なら(朝、出社すると「おまえの会社に呪いをかけてやる」(大意)という英文のFAXがきていたときはさすがに驚いた)、今となっては笑い話だが、これは「がっかり」じゃなくて「どっきり」だ。
藤原編集室 @fujiwara_ed
会社の電話番号とまちがえて自宅の番号を販促パンフに刷ってしまった先輩もいたが、これは「うっかり」。
藤原編集室 @fujiwara_ed
というわけで、最後のひとつは「がっかり」といっていいのかわからないが、ある日、国書刊行会に振りかかった奇妙な事件を。それは一本の電話から始まった。
藤原編集室 @fujiwara_ed
年配の男性客からの電話で、「御宅から直接本を買ったが、開けてみると頁に黴が生えていた。取り替えてもらいたい」というのである。
藤原編集室 @fujiwara_ed
電話を受けた営業部員はもちろん平謝り。至急、新しい本をお送りすること、お手元の本はお手数ですが着払いで返送してほしい、と伝えて電話を切ると、その足で隣接するビルの出庫倉庫へ行き、本を確認して発送の手配をした。
藤原編集室 @fujiwara_ed
これで一件落着、のはずだった。
藤原編集室 @fujiwara_ed
しかし、数日後、件の男性客から再び電話があった。「届いた本を開けてみたら、やっぱり黴が生えている。いったいどういうことか」さすがに今度は怒りを隠せない御様子。それが本当ならお怒りはごもっとも。しかし、そんなはずはない。
藤原編集室 @fujiwara_ed
再送した本は電話を受けた社員が、函から抜いて点検した上で送ったものだ。
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コメント

しゅう @hideki919 2012年6月7日
@fujiwara_ed 確かに汚れに見えますね
しゅう @hideki919 2012年6月7日
汚れにしか見えないw
ナょωレよ″丶)ょぅすレナ @rna 2012年6月7日
@fujiwara_ed 『ダモイ・トウキョウ』先日買わせていただきました。古書店で、ですが… 残念ながら新装版じゃないほうでした。
あらき @alakinskywalker 2012年6月7日
ドラキュラ叢書、もう少し装丁製本が高級ならよかっただろうに。まあ、高くなっても困るけど。買ったのは、イーデン・フィルポッツだけだったな。ドラキュラ・ツアーは知らなかった
地下猫 @tikani_nemuru_M 2012年6月7日
国書刊行会ではボーナスは現物支給が常態で、社員も文句を言わない、というのは都市伝説なのでしょうか? アタリマエすぎてがっかりでもなんでもないとゆー。
加藤AZUKI@「忌」怖い話卒哭怪談 @azukiglg 2012年6月7日
国書刊行会と言えば、かつて「超」怖い話の解説を朝松健先生から頂戴したとき、麻原彰光が新人ライターとして空中浮揚写真持ってきてた、というエピソードを拝聴したような。と思って裏を取ったら http://www.asyura.com/sora/bd12/msg/66_.html 原田学先生がインタビューされていた。
Yoshi_せんしゃぶ!連載中 @Yoshikun21c 2012年6月7日
硬そうな組織でも信じられないことがあるんだな
iga9984 @iga9984 2012年6月7日
もう少しオカルティックで危ない感じの集団かと思ってましたけど、普通の中小企業ですね。
竹本淳一 池袋ファミリー整体院 @takemotojunichi 2012年6月7日
@fujiwara_ed 懐かしい!別にどうってことない事件だったのにね
愛・蔵太(素人) @kuratan 2012年6月8日
そもそも国書刊行会という出版社を日本人の何%が知ってるのか? と思ったらすごいviewですね。「日本人が知っておくべき国書刊行会三大がっかり事件」
芦辺 拓 @ashibetaku 2012年6月8日
国書刊行会がっかり事件というよりガックリ事件は、明治時代に新群書類従のような貴重書を出版した国書刊行会とは全く別の社で、創業に当たり当時は活動をやめていた著名な出版社の名前をパクッただけと知ったとき、ですかね。
芦辺 拓 @ashibetaku 2012年6月8日
そりゃ、デニス・ホイートリー黒魔術小説傑作選(この企画自体はありがたいけど)で登場人物の名前が一定しないほどミスだらけで、「誤植刊行会」と言われるだけあるわと思いました。
せんいち @Scheherasade 2012年6月8日
最後の黴の話、泡坂妻夫さんの『生者と死者』刊行当時の話が思い出されます。
Cal Que El Lulu-rain @senzaluna 2012年6月8日
読み進めてる内に、実は三大がっかりの三つめは「がっかりが二つしかない」ことなのだろうかとドキドキしましたが、ちゃんとあって安心いたしました。
林 雄司 @yaginome 2012年6月8日
むかしインタビューさせてもらいましたがすごかったです。 http://portal.nifty.com/2010/12/14/b/
たられば @tarareba722 2012年6月8日
「こんなに話題になってるのになんで国書刊行会の本は売れn(略」という話もあるが、話題にしている人の何割かは『今日の早川さん』のカンコさんファンだと睨んでいる。私は岩波さんが好きです。
asty @ybsmtrg 2012年6月8日
セレクションが素晴らしい。本好きの人は既に目を通しているまとめだろうけど。
葉月まゆみ🌧️【C96土さ41a】 @H_taityou 2012年6月9日
”マクナリー&フロレスク『ドラキュラ伝説』の邦訳が78年”これ以前にドラキュラ・ツアーの企画なんて先駆的すぎる。たった一人のツアー応募者はどんだけコアな人だったのか…、お話し聞いて見たい。
青の零号 @BitingAngle 2012年6月10日
カンコさんも岩波さんも胸が大きくて好きだけど、一番好きなのは無理めなラインナップを実現し続けてくれてる樽本さんだったりします。なので早いところ『第四の館』を!
phew @searchlie 2012年6月10日
最後の二色刷りは、確かにちょっと…
城島 活(ジョージマイケル) @buruchan 2012年6月13日
国書刊行会といえばガッカリ事件よりむしろ米の安物ペーパーバックホラーであるクトゥルー系統を『神話体系』とか崇め奉ってラブクラフトならともかく追随の同人誌レベル二次創作までハードカバー豪華装丁の数千円の高級書籍にし(それがシリーズ数十冊!)私を始めとする30年前当時の学生の財布を空にしてしまった罪は大きいと思う…。
城島 活(ジョージマイケル) @buruchan 2012年6月13日
しかも国書刊行会の豪華愛蔵版クトゥルー神話体系の、当時の物好きたちを驚愕させた企画『ネクロノミコン』の完全邦訳版収録!ってのがなんだか落書きレベルだったのを買って知った後の落胆感は半端じゃなかった…。
NiKe @fnord_jp 2012年6月19日
ヴァージル・フィンレイ画集を出した、というだけで許せる気がする。(あれ欲しかったなあ)
お助けマン虎太郎 @spa_inquisition 2012年7月15日
しまった、こんな秀逸なまとめがあったとは…w 世の中、おかしい人たちが多くて安心しました。
kawonasi @kawonasi4989 2012年7月17日
azukiglg リンク先の「八〇年代始めの頃、科学教育というものを巧妙に骨抜きにしようとする動きがあったんじゃないか」というのは昨今の放射脳さんをみてると、頷けるものがありますね。
Shigeru Saito @asatyanohansan 2012年7月18日
しかし、なんで国書刊行会という出版社が、レミントンやパナソニックのシェーバーを売っているのでしょうか????? かく言う私も、昔買ってしまいましたケド・・・
Shigeru Saito @asatyanohansan 2012年7月18日
エエッ!そうなんですか?!?!?ガックリ・・・ RT@ashibetaku: 国書刊行会がっかり事件というよりガックリ事件は、明治時代に新群書類従のような貴重書を出版した国書刊行会とは全く別の社で、創業に当たり当時は活動をやめていた著名な出版社の名前をパクッただけと知ったとき、ですかね。
超絶怒涛大魔王リケリケ @Rike_rike 2012年7月24日
この二色刷りのデザインはひどいなw
Akimbo @Akimbo 2012年8月5日
ごめん。このまとめを見るまで、「国書刊行会」って外交文書とか国家プロジェクトの記録とかを編集出版する外郭団体みたいなものかと思ってた。そう思っちゃう人多いと思う。国書刊行会三大がっかり事件のその3に「社名」でエントリさせてください。
武藤礼恵@通常営業 @rei_muto 2012年8月10日
朝松健『黒衣伝説』と霊的著作権と逆宇宙ハンターの2巻だったか3巻のアレとか思い出した。
外山 未知 @MichiToyama 2012年8月19日
このオチはひどいwww国書刊行会さん発行の書籍は垂涎の書が多いけど、高いし場所食うのでなかなか手がでないんですよねー(;´Д`)いや部数考えると納得の価格ではありつつ、財布絶対値的にorz魔女たちの世紀シリーズはじめオカルト系シリーズは揃えたいのがいっぱい……
lhankor_mhy @lhankor_mhy 2012年8月24日
4つ目のがっかりフラグが立ったようですが。→クリーンエネルギー:出版社の国書刊行会が温泉発電事業に- 毎日jp(毎日新聞) http://mainichi.jp/select/news/20120824k0000e040172000c.html
こくとう💎お人形になりたい @Jean_Coc_Teau 2012年8月30日
国書刊行会は何故か私好みの本が多い謎の出版社なイメージがあったな
のびーた @nobyta_ 2012年10月31日
そういえば国書刊行会が仮面ライダー響鬼の本出したときは驚いたなぁ。そういう本出すイメージが無かったから
図子慧 @zusshy 2012年11月6日
心当たりのある本が多すぎて、思わず心臓のあたりをかきむしりたく。厨二だったころの愛読書が。。yaginome むかしインタビューさせてもらいましたがすごかったです。 http://portal.nifty.com/2010/12/14/b/
tu-ta @duruta 2013年1月1日
国書刊行会って面白すぎRT @KokushoKankokai: 社員概ね3分の1ほどがそんな感じです。 RT @yuuraku 国会図書館と間違えて国書刊行会へ入ってしまってそのままオドロオドロの人になった者はいないのか。
朝宮ひとみ @HitomiDaisybell 2013年2月4日
Akimbo (・ω・)。o(社名を知った当初は、~白書を出す会社だと思っていました。そして一年たたないうちにイメージが某暗黒神話体系に塗りつぶされたのでありました。
雑破業 @zappago 2013年2月21日
ドラキュラ・ツアーが成功していれば、国書観光会になっていた可能性もw
T.K. fukushimaタグ付けよう @aizujin_k 2013年3月4日
え、そうなんですか。今まであの、偉ーい会社だとおもって・・・これがっかり№1でしょ。ashibetaku 明治時代に新群書類従のような貴重書を出版した国書刊行会とは全く別の社で、創業に当たり当時は活動をやめていた著名な出版社の名前をパクッただけと知ったとき、ですかね。
水鳴 倫紅(みなき りんく) @linc_for_music 2013年4月9日
……良いですね! ↑様が、本当の事を言っていらっしゃるかはおいておいて素直に面白いです。
小野仁 @yukikazemaru 2013年4月14日
「国書刊行会」を「国会図書館」と勘違いして見にきた。ていうか、社員にもそういう人が多いんかいw大変に面白かったのでよしとするww
冷たい熱湯 @Tuny1028 2013年5月23日
国書刊行会! そういうイベントもあるのか、そう思った時期が私にもありました…ついさっきまで。
沢渡 曜@本のいぬ @nora_inu99 2013年8月27日
ニャル子さんのおかげでラヴクラフトが生徒に人気。『バベルの図書館』は新版より旧版の方が美しいので、旧版を古本で買いました。でも積ん読。
さぱー @saper_studio 2013年9月22日
面白いね 他の話もまとめて記事にして欲しい
あなゆに @anotherunity 2013年11月19日
このまとめを見るまでずっと「図」書刊行会だと思ってた‥がっかりなのは自分だったという
s_matashiro @glasscatfish 2014年1月22日
国書刊行会と言えば、学生時代暗黒舞踏をやっていた先輩が受けて落とされていた。確か。で、某超大手メーカーにすんなり就職。日本の暗黒面にとっては損失だったんじゃないのか・・・
𤴐𤳳畾㽞 @JeyaratnamW 2017年1月13日
コメント欄における二階堂奥歯の検索結果:ゼロ件。
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