斉藤清二先生による「『あ!萌え』の構造」 その2

斎藤清二先生 @SaitoSeiji による連続ツイート、「『あ!萌え』の構造」のまとめです。最初のまとめが長くなってきたので、分割してみました。 その1 http://togetter.com/li/297098
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斎藤清二 @SaitoSeiji

東京~富山にもどる特急「はくたか」に乗車中なう。この時間を利用して、「『あ!萌え』の構造」の続きを連続ツイートします。

2012-06-10 22:18:22
斎藤清二 @SaitoSeiji

①「萌え」という現象が、人間にどういう影響を与えるかという点について更に考察を続けたい。次に取り上げたいのは、「萌え」現象の「苦痛軽減作用」である。だいぶ以前の話になるが白血病などの重篤な血液疾患の診療を専門とする小児科の医師から、以下のようなことを聞いたことがある。

2012-06-10 22:20:33
斎藤清二 @SaitoSeiji

②小児の白血病の治療の進歩は著しく、最近では約80%が治癒する。そのような効果をもたらしている治療は、化学療法と、骨髄移植である。少し前までは、骨髄移植のためには、治療を受ける患者さんの骨髄機能を前もって完全に破壊しておく必要があった。

2012-06-10 22:42:48
斎藤清二 @SaitoSeiji

③そのための処置として、全身に致死量に近い大量の放射線を照射するということが必須であった(今では必ずしもそうではない)。つまり、自分自身の骨髄を死滅させないと、新しい骨髄を移植、生着させることができなかったのだ。

2012-06-10 22:43:47
斎藤清二 @SaitoSeiji

④この全身放射線照射は、急性の副作用があり、それはひどい吐き気や、船酔いに似た不快な症状だ(これを放射線宿酔という)。しかし、照射の処置が終わるまでには通常数時間かかり、その間照射装置の下で処置を受ける子供はじっとしてなければならない。

2012-06-10 22:44:50
斎藤清二 @SaitoSeiji

⑤大人でも強烈な船酔いに似た症状に耐えながらじっとしているのは困難であるのに、子供にそんなことができるわけがない。いくら言って聞かせたところで、どうしても身体をじっとさせていることはできない。

2012-06-10 22:45:57
斎藤清二 @SaitoSeiji

⑥そこで、苦痛を軽減するために、鎮静剤を投与するということになるのだが、呼吸抑制を来さない範囲で、できるだけ強い鎮静剤を使っても苦痛を完全にとることができず、全身照射の際には、子供をじっとさせて置くことがとても難しかった。

2012-06-10 22:50:47
斎藤清二 @SaitoSeiji

⑦ところが、ある施設である医師が、こういうことを考えた、「薬で苦痛をとるよりも、子供が熱中するようなことを与えれば、子供は苦痛を忘れてじっとしているのではないか?」。そこでその医師は、レントゲン照射室にビデオとテレビを持ち込んで「大長編ドラえもん」のビデオを流した。

2012-06-10 22:55:21
斎藤清二 @SaitoSeiji

⑧そうすると、驚いたことに、子供はじーっと「大長編ドラえもん」のビデオに熱中し、照射中全く動かずに画面を見続けたのだ。どんなに強い鎮静剤でも取り除くことのできない苦痛を、見事に「大長編ドラえもん」は取り除いたのだ。

2012-06-10 22:57:01
斎藤清二 @SaitoSeiji

⑨これは、何を意味しているのかということである。「大長編ドラえもん」は多くの子供を魅惑する。これは事実であると思われる。もちろん、ビデオさえみせれば、どんなビデオであっても良いというわけでは全然ない。子供にも好みはあるはずだ。

2012-06-10 22:58:43
斎藤清二 @SaitoSeiji

⑩しかし「大長編ドラえもん」はほとんど全ての子供に絶大なる「苦痛抑制効果」を発揮したのだ。もちろん、科学的に厳密なスタデイが行われたわけではないが、このエピソードに強い説得力を感じるのは私だけではないだろう。

2012-06-10 22:59:42
斎藤清二 @SaitoSeiji

⑪私の仮説はこうである。「大長編ドラえもん」は多くの子供(大人にさえも)に対して「魅惑される=萌え」現象を体験させる。このことを通じて「苦痛が抑制」される。これはありきたりの薬剤よりも強力である。だから「萌え」の効果は一種の「万能薬=エリクサー」であると言える。

2012-06-10 23:02:35
斎藤清二 @SaitoSeiji

⑫しかしもちろん、この現象は良いことばかりではない。苦痛をとる薬剤一般(その最も強力なものは麻薬である)と同じように、「萌え」現象にも危険性があることは間違いがない。それは、依存とか中毒とか言われる現象なのだが、それについては、さらに次の機会に考察を進めることにしたい・・・。

2012-06-10 23:05:15
斎藤清二 @SaitoSeiji

貴重な追加報告ありがとうございます @Matsushiman 忘れもしない。私がはじめてドラえもんを読んだのは、風邪で寝ていた私に母が買ってきてくれたものである。はじめて読んだ漫画に大笑いし、その日のうちに私の風邪はどこかへいってしまった

2012-06-10 23:09:01
斎藤清二 @SaitoSeiji

しばらく間があきましたが、「『あ!萌え』の構造」の連続ツイートを再開したいと思います。テーマは「萌え現象」に伴いやすい問題としての、「依存」「中毒」などと呼ばれる現象をどう考えるかということです。

2012-06-24 21:35:39
斎藤清二 @SaitoSeiji

①「萌え」という現象には強力な苦痛軽減効果があるということについて、前回まで述べてきた。一般に苦痛軽減効果のある現象(薬物、嗜好品、その他)には、「乱用」とか「嗜癖」とか「中毒」とか呼ばれる問題が必ず付随してくる。

2012-06-24 21:36:43
斎藤清二 @SaitoSeiji

②このような問題がどうして起こるかについて、それなりの適切な説明と対処法が明確にされないと、せっかくの苦痛軽減効果を有効に生かすことができないだろう。この問題はかなり難しく、複雑な要因を含んでいるので、何回かにわけて、ゆっくりと論じてみたいと思う。

2012-06-24 21:37:46
斎藤清二 @SaitoSeiji

③そもそも「乱用」とか「中毒」とか「嗜癖」とか「依存」とか呼ばれる現象はどう定義されるか、ということが最初に問題になるが、これについては必ずしも定説があるわけではない。しかし、次に述べるいくつかの要素を含む現象であるとすること、はほぼ合意されているだろう。

2012-06-24 21:39:09
斎藤清二 @SaitoSeiji

④ 1)ある現象を求める行動を自由意志でやめることが難しい。2)ある現象を求める行動が、頻度、量などにおいて、次第にエスカレートする傾向がある。3)そのために当事者の一般的な生活や日常にかなりの程度の不都合が生じる。4)最終的に当事者の人生に破壊的な影響を及ぼす。

2012-06-24 21:39:59
斎藤清二 @SaitoSeiji

⑤上記のうちの、3)、4)は程度の問題であり、おそらく「中毒」「乱用」のコアは、1)と2)にあるように思われる。すなわち、「意思によるコントロールの難しさ」と「エスカレートする傾向」の二つである。この特徴は「萌え」現象の持つ性質にぴったりあてはまる。

2012-06-24 21:41:02
斎藤清二 @SaitoSeiji

⑥もし、「萌え現象への没頭」が生じても、3)4)に至らないのであれば、おそらく臨床的にはなんら問題にはならない。だから、1)2)は容認して、3)4)に至らないように工夫すればよいということになる(たぶん)。

2012-06-24 21:42:35
斎藤清二 @SaitoSeiji

⑦ 3)4)に至りやすい現象の代表としては「麻薬」「覚醒剤」などの違法薬物、「アルコール」「タバコ」などの嗜好品があり、身体的、物理的な非可逆性の害を与える点に特徴がある。経済的破綻や社会的役割を破壊する点で3)4)に至りやすい現象のとしては「ギャンブル」が代表格であろう。

2012-06-24 21:44:31
斎藤清二 @SaitoSeiji

⑧ 上記のものに比べると比較的マイルドで、中間的な現象としては「買い物(依存)」とか「仕事(中毒)」とかがある。また違法性のない薬物の場合は微妙で、「下剤」や「健康食品」などは、時として重大な乱用をもたらす場合もあるが、それほどの社会的不都合を起こさないこともあるだろう。

2012-06-24 21:47:03
斎藤清二 @SaitoSeiji

⑨これらものに比べると、「萌え」としてくくられるような現象(AFP=actually fascinating phenomenon)は、物理的な害や経済的な害が全くないというわけではないが、ある許容範囲内に入っていることが多く、比較的危険性の少ないものであると言えるだろう。

2012-06-24 21:48:44
斎藤清二 @SaitoSeiji

⑩「萌え現象」は、物理的、身体的に非可逆的な害を人間に与えるわけではないから、薬物やアルコールなどへの依存にくらべるとずっとましなものである。意志によるコントロールの難しさとエスカレートしやすさをうまくマネジメントするコツについて、さらに考えて行きたいと思うが、ここで一休み。

2012-06-24 21:56:14