オペレイション・レスキュー #1
「ハァーッ!……ハァーッ!」泥水を跳ね散らかしての強行軍……異形ニンジャの一団は全方向を厳しく警戒しながら、なおかつ最大限に速度を維持、道なき斜面を下ってゆく。先頭の編笠の男が繰り返しマチェーテを打ち振り、剣呑なバイオ野ばらの茂みを切り開く。キョートの雨は冷たい。 1
2012-06-14 13:28:05「大将……撒いたかよ!?」水銀色のニンジャが周囲を見回した。装束も、メンポも、その奥に見える顔も、すべて水銀色。雨粒を装束が受けるたび、表面に細かい波紋が浮かんでは消える。「あいつ無事かな」「死んだと思え。アテにはするな。不確定な希望をもとに行動した奴から死ぬ。それがナムだ」 2
2012-06-14 13:35:30「ハメられたんだぜ!絶対だ」ひょろりと長い手足を持つニンジャが不満げに唸った。メンポの奥でLEDめいて光る目は三つ。シュウシュウと息を吐く。「最初からハメられてやがったんだ。俺、そう思う。許せねえ」「後悔は死んでからだ、ハイドラ=サン」リーダー格の編笠ニンジャが厳かに言った。 3
2012-06-14 13:42:55編笠ニンジャは彼ら二人を手振りで留め、茂みの陰に身を潜めさせた。彼のニンジャ嗅覚は雨の中を接近して来る者たちの匂いを捉えている。その人数、10を越す。だが匂いは同じだ。つまりクローンヤクザである。加えて、匂いの違うものがひとつ混じっている。ニンジャだろう。 4
2012-06-14 13:52:54包囲網の展開速度は彼の予想を超えていた。彼は今まで数えきれぬほどのクローンヤクザを手にかけて来た。ヨロシサンのプラントは武装クローンヤクザによって護衛されているのが常だ。部下の生存に不可欠なバイオインゴット、あるいは武装、万札を手に入れる為、彼のクランは頻繁に施設を襲撃する。 5
2012-06-14 13:58:38神出鬼没、そして鬼のようなニンジャとしての戦闘能力を備えた彼とその部下に対し、クローンヤクザは烏合の衆に過ぎない。彼らは護衛クローンヤクザや研究員、作業員を素早く無慈悲に殺し、奪う。生態系ピラミッドめいた規定の行動……だが、この日は何もかもが違っていた。 6
2012-06-14 14:02:26(増援はまだか……第一騎兵師団……間に合わんな)彼はぬかるんだ斜面に匍匐し、思いを巡らす。敵部隊は確かにクローンヤクザ。だがその動きのキレ、判断力。別物だ。新型のクローン?その可能性は確かにある。だが、説明がつかぬ。戦闘能力の次元が違う。(ベトコンとは思えん……)7
2012-06-14 14:13:27「いいか」彼は呟いた。「包囲網を突破する必要がある。やり過ごすことはできん。こちらへ向かって来ている。敵は大変に精強だ。お前の分析は残念ながら当たっていると見た方がよいな」三つ目のハイドラに言った。「物資投下情報自体が敵軍の罠であったと見るのが自然だ」「畜生……!」 8
2012-06-14 14:20:56「期を見て我が隊は分散し、個別に下山する。合流地点は事前に指定したDポイント。30分刻みでE、F、G、Hとポイントを移す。わかったか」「ガッチャ」「ガッチャ」「……お出ましだ」彼は匍匐したまま、弓矢を構えた。 9
2012-06-14 14:28:55「ドーモ、フォレスト・サワタリ元研究員」声は前方の木々の中だ。名を呼ばれたフォレスト、すなわち編笠ニンジャは二人にまだ応戦せぬよう無言で指示し、声の方向を見やる。彼のニンジャ聴覚はドップラーセンサーめいて、声の方向を精細に特定する事が可能なのだ。……敵ニンジャは枝の上にいた。10
2012-06-14 14:36:55ニンジャは樹の幹に片手を添え、悠々と立つ……濃緑に金の渦巻き模様を刺繍されたニンジャ装束は、ただそれだけで恐るべき強者のアトモスフィアを漂わせる。その下の地面を次々に完全森林武装のクローンヤクザが進んで来る。ニンジャは言った。「私はヨロシサンのニンジャ。サブジュゲイターです」11
2012-06-14 14:42:32「3……2……」フォレストは呟いた。そしておもむろに彼は矢を放った……樹上のサブジュゲイターめがけ!ヒョウと風を切り、完璧な軌道で毒矢が飛ぶ!サブジュゲイターは幹に添えていた手を放し、無造作にその矢を掴み取った。眉間から矢尻の距離、わずか数センチ!だが彼は平然としていた! 12
2012-06-14 14:50:21「「「イヤーッ!」」」茂みから同時にフォレスト達が飛び出す!BRATATAT!四方から浴びせられるアサルトライフル弾。驚くほど潜伏位置の特定と攻撃が早い!早すぎる!「イヤーッ!」フォレストはククリナイフ二刀流を振り回し回転、弾丸を切り裂くと、片手のナイフを投擲!「グワーッ!」13
2012-06-14 14:56:10ナムサン!瞬殺アンブッシュならず!クローンヤクザ兵は身をかわし、肩口でナイフを受けて致命傷を回避した。驚くべき反応速度だ!しかし、ひるんだところへさらに、水銀色のニンジャが飛びかかっていた。振り上げた右腕の肘から先は変形し鋭利な刃に!「イヤーッ!」振り下ろす!「アバーッ!」14
2012-06-14 15:00:51鎌状に変形した刃はクローンヤクザ兵の喉を裂き、脊髄を貫通して殺した。BRATATATAT!浴びせられる銃弾へ左手を翳すと、その手は盾状に変形し銃弾を受ける!「イヤーッ!」銃撃ヤクザを横からアンブッシュしたのはハイドラ!空中回し蹴りで首を刎ね飛ばす!「アバーッ!」 15
2012-06-14 15:05:56「イヤーッ!」「グワーッ!」さらにフォレストは手近のクローンヤクザにもう一方のククリナイフを投擲、銃持つ手首を切断!そしてオジギ!「ドーモ、フォレスト・サワタリです」残る二人もオジギ!「ドーモ。ディスターブドです」と水銀ニンジャ。「ドーモ。ハイドラです」とハイドラ。 16
2012-06-14 15:08:34「貴方はヨロシサンの恥部です。これまで放置されてきたのは単なる社の都合と知りなさい」いまだ樹上のサブジュゲイターは三人を見下ろし言い放った。「今回、社の都合により貴方を抹殺する。それだけの事です。これまで長いバカンスを楽しんだ事でしょう」 17
2012-06-14 15:16:52「自由!」 フォレストは言った。「ヨロシサンの犬にはわかるまい。サヴァイヴァー・ドージョーは自由の為に不断に闘争する。すなわちサヴァイヴァルだ!」「哀れな」サブジュゲイターは言った。「貴方の妄念は典型的な憑依ニンジャソウルの拒否反応。貴方を筆頭に、貴方のペットも不良品ばかり」18
2012-06-14 15:28:55「ペット?なめるな!」ハイドラが叫び返した。そこへクローンヤクザがアサルトライフル掃射!BRATATAT!「イヤーッ!」ハイドラは跳躍!樹を蹴って再跳躍! サブジュゲイターは親指を下向けるバッドサインを突きつけた。「役立たずなりに、有意義な戦闘データを残して死んで頂きたい」19
2012-06-14 15:36:24「イヤーッ!」ハイドラは銃撃ヤクザを飛び蹴り強襲!銃撃ヤクザは素早く銃を盾にして直撃回避!「イヤーッ!」ハイドラは空中で一回転して逆の脚で蹴る!「アバーッ!」銃撃ヤクザは首骨を折られて死亡!BANG!「グワーッ!」別のショットガンヤクザが発砲!ハイドラの蹴り足が吹き飛ぶ! 20
2012-06-14 15:42:05「イヤーッ!」ショットガンヤクザの死角からフォレストが竹槍を構え突進!「アバーッ!?」脇腹に突き刺さった槍が反対側の首を突き破って飛び出す!即死!「イヤーッ!」フォレストは樹上のサブジュゲイターめがけ、力強く竹槍を振る!刺さった死体が槍から剥がされ飛ぶ! 21
2012-06-14 15:46:30「イヤーッ!」サブジュゲイターは両手で飛来死体を弾き返す。死体はバラバラに砕かれクローン血液の雨を降らせながら地面に散乱!「……?」サブジュゲイターが眉根を寄せる。フォレストが矢を放った。死体を投げつけた直後、既に彼は弓矢を構えていたのだ!ヒョウと音を立て毒矢が飛ぶ! 22
2012-06-14 15:51:20「グワーッ!」避ける時間無し!サブジュゲイターは鎖骨に毒矢を受けてよろめく。彼は舌打ちし、バック転して地面に着地した。その時だ!包囲するクローンヤクザ達が一斉に電気ショックめいて痙攣したのだ。「「「アバーッ!?」」」「復帰せよ!」サブジュゲイターが己のこめかみに指を当て叫ぶ!23
2012-06-14 15:57:09すぐにクローンヤクザ達は何らかの異常をやり過ごし統制を取り戻した。だがその瞬間をディスターブド、片脚跳躍したハイドラともに見逃さなかった。「イヤーッ!」ディスターブドが両手をギロチンめかせて回転!「アバーッ!」「アバーッ!」クローンヤクザ二人がまとめて胴体切断死! 24
2012-06-14 15:59:46