國分功一郎による『atプラス』第十号槌田劭「原発と「科学」の紹介と感想

國分功一郎 ‏@lethal_notion さんによる『atプラス』第十号(2011年11月発行)に掲載された槌田劭さんの「原発と「科学」」の紹介と感想。
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KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

今朝、ふとトイレで『atプラス』第十号を手にとったのだが、槌田劭さん(1935年生)という方の「原発と「科学」」という講演録を読んだ。この方を知らなかった自分を恥じた。伊方原発裁判で原告側住民の証人として裁判に臨んだ方である。

2012-06-15 09:10:05
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

伊方原発裁判で住民は、協力してくれる証人を求めて専門家の中を探し歩いたが、誰も強力してくれなかった。もちろん、国策に逆らう裁判に強力したら原発村から村八分にされて研究費が取れなくなるからである。困り果てた住民が槌田さんのところに来た。

2012-06-15 09:11:41
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

槌田さんは京大で教鞭を執る若い科学者だったが、専門は金属物理学であった。つまり原子力工学にはずぶの素人。住民の方からは「勉強したらちょっとは分かるでしょう」と言われたらしい。それで引き受けてしまったと。

2012-06-15 09:13:14
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

槌田さんの他に10人ほどの証人が原告側に立ち、国もそれに対抗して10余りの学者を立ててきた。槌田さんに差し向けられたのは三島良績という学者で国際原子力学会の理事を務めた人物。その道の権威に、駆け出しの若手助教授が戦いを挑んだ。

2012-06-15 09:15:02
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

国は最初自信満々だった。だから法廷でも真っ向勝負してきた。しかし原子力裁判で真っ向勝負するというやり方は伊方裁判で終わりになる。なぜなら、国側は伊方の経験から、真っ向勝負すると不利だということに気付くからである。

2012-06-15 09:16:01
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

たとえば炉心燃料に起こり得る危険性について槌田さんが質問すると、その道の権威である三島さんはしどろもどろの逃げが続出。証言調書には「三島 ××××」と書かれているらしい。対し、素人である槌田さんにはそのようなことはなかった。

2012-06-15 09:17:20
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

担当した弁護士は「こんなに面白い裁判はない!」と言っていたらしい。普通の裁判は微妙な事実で決まっていく。しかし伊方裁判では住民側が圧倒的に優勢だった。もちろん「国策だから、本当に勝てるのだろうか…」という不安もあったそうだが…。

2012-06-15 09:18:39
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

そんな雰囲気での証人調べが終わる。後は判決を待つのみ。その段階で驚くべきことが起こる。裁判官の総入れ替えが行われたのである。証人調べをした裁判官が全員差し替えられ、判決を書かなかった。どちらに分があるかは一目瞭然であったから国は不利と判断し、最高裁の人事で人を入れ換えたのである。

2012-06-15 09:21:03
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

更に国は、公害問題で札付きの不公正判決を繰り返してきた人物を裁判官に据えた。これにはさすがに住民が異議申し立てをしてその人物は入れ換えられる。しかし裁判官総入れ替えは変わらなかった。

2012-06-15 09:21:57
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

1978年4月に判決。「国側の主張を認定する」。住民敗訴。

2012-06-15 09:22:40
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

槌田さんは判決を聞いた日、汽船で関西に戻る途中、一睡もできなかったという。そして——「仕方なしにずっと船の手すりにもたれて、彼方へと流れる黒い海木を見ていました。その時に、「僕はもう科学者を辞めよう」と思いました」。槌田さんは京大を辞めて、京都精華大美術学部の教員になる。

2012-06-15 09:25:12
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

「原子力というのは民主主義社会そのものを破壊するものです」(槌田劭)。これが大袈裟な言い方ではないことが伊方裁判の経緯をみると分かる。国は無理矢理原発を作ろうとする。住民は当然反対する。国はいかなる手段を使ってでもこの目的を貫徹する。民主主義なんて関係ない。

2012-06-15 09:27:13
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

槌田劭さんの次の言葉も大切だと思った。「私は反原発・脱原発の運動も不安や不信感に基づいて行われるべきではないと考えています。そういう動機に基づく限りは、運動はけっして長続きしないでしょう」。いまは「不安や不信感」はいかんともしがたい。しかしそれに変わるものを探さなければならない。

2012-06-15 09:29:13
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

この前、中沢新一さんと話をした時に、中沢さんは、我々はまだ原発に対置すべきものが何なのかをまだ分かっていないと言っていた。それをきちんと探し当て、槌田劭さんの言う「不安や不信感」に取って替えねばならないのではないか。

2012-06-15 09:30:34
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

それは哲学の役目でもある。俺はいまハイデッガーと、彼のフュシス(自然)の研究に強い関心をもっているけれど、それもそのため。確かに「不安や不信感」はもうどうしようもなく強い。けれど、それだけじゃダメだ。もっと積極的な理念がなければならない。

2012-06-15 09:32:10
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

今年の正月だったか、伊方原発裁判のNHK特集があって、俺はそれを見て裁判官総入れ替えの話は知っていた。それにしても本当にすごいことをするものだ。そして、今も同じである。

2012-06-15 09:33:43
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

以上、ちょっと前の発行ですが、『atプラス』第十号(2011年11月発行)に掲載された槌田劭さんの「原発と「科学」」を読んでの感想とその紹介でした。

2012-06-15 09:35:00