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山本七平bot @yamamoto7hei
1】一民族の社会構造とそれに対応している精神構造は、様々な要因をうけつつ、長い年月をかけて醸成されたものだ。それ自体大変に複雑だが、大きく分ければ、血縁社会と地縁社会とに分けられるであろう。<『日本資本主義の精神』
山本七平bot @yamamoto7hei
2】さて、多くの人々が、日本を血縁社会と誤解している。NHKテレビの私との対談で、社会学者の小室直樹氏が「日本は血縁社会ではない。」と言った事が、逆に視聴者を驚かした。
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3】日本の場合は、擬制の血縁社会というべきだろう。言うまでもないが、擬制の血縁は、一種の「血縁イデオロギー」であり、血縁ではない。血縁ではないが故に「擬制」であり、血縁の如くに作用する為一種のイデオロギーになるわけだ。
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4】日本では、この擬制がごく当然のこととされ、それを誰も不思議と思わないので、逆に、本来の意味の血縁社会というものがわからなくなっている。
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5】日本において、血縁社会の原則を明確に法制化しているのは、明治における皇室典範だけだといわれる。即ち皇位継承は男系の男子に限り、その継承順位は血縁の順位であって、擬制は一切認められていない。
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6】簡単にいえば、天皇家の養子になる事は勿論、婿養子となる事も、またそれらによって皇位を継承することも、一切不可能なのである。
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7】そして、純然たる血縁社会とはこの原則が社会の全てを律し、その原則で歴史が形成されている社会である。その意味でアラブ人の社会は確かに血縁であり、華僑もそうだといわれるが、日本は昔からそうではない。血縁のように見られるものに非血縁的要素が入ってくる事を誰も不思議に思わない。
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8】豊臣秀吉は摂関家の一つである近衛龍山の養子となって関白の位を継承したが、この藤原氏の名門と尾張の百姓の息子の間には、何の血縁関係も存在しない。~略~さらに昔に遡れば、鎌倉幕府は既に、源氏一門という血縁集団を中心に構成されたものではない。
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9】これと対照的な平家には「平家物語」に見る限り、確かな血縁集団の面影が見られる。だが、一門が血縁集団として同一歩調をとり、共に西の海に沈んだ事を高山樗牛がいかに賛美したとて、これは、消え去った者とそのエトスヘの哀悼にすぎない。
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10】さて、一族即ち血縁を基とせず、坂東という地盤を基にして幕府を創設し、その根拠地鎌倉から動こうとしなかった。とすると日本はここで地縁社会に転換したのであろうか。そうとは言えないのだ。地縁社会というのは、氏素姓に関係なく、地縁だけによって「新種族」を生み出す社会だからである。
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11】鎌倉幕府を支えた人々が「新種族」であるとはとても言えない。これが明確に見られるのは、初代キリスト教期の口ーマであり、その現代版は恐らくアメリカであろう。ローマ人は、初代キリスト教徒を「第三の種族」と呼び、その伝播を「伝染病」にたとえた。
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12】それは、ある地区に教会(エレクシア)―原意は「民会」―ができると、そこから奇妙な病気が蔓延し、それに感染するとギリシア人、ローマ人、アジア人、アフリカ人等々の頭が少々おかしくなり、それぞれの氏素姓即ち血統的系譜が一切消えて、クリスティアノス(キリスト人)という教会中心の(続
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13】続>地縁による新種族、即ち「第三の種族」が生じてしまうからだ。このクリスティアノスこそ、クリスチャンの語源である。いわば「主にある兄弟姉妹」という形の、地縁だけによる共同体が形成されるのである。勿論、これはローマの特色でもあり、キリスト教発生の地ユダヤの特色ではない。
山本七平bot @yamamoto7hei
14】ユダヤ人はセム族であり、厳格な血縁社会を守っている。彼らだけはその血統的系譜の意識が消えず、その為最初期には彼らの会堂がキリスト教の拠点であったにも関わらず、それを中心とした地縁集団の新種族、即ち「第三の種族」にはなれず、その為に、教会から排除されていくのである。
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15】この事は新約聖書にも反映され、冒頭の「マタイ福音書」にはイエスの系図が掲げられているのに、これが「ヘブライ人への手紙」即ちこの種のユダヤ人に向かって書かれた書となると、キリストは「氏なく名なく系図なきメルキセデクの如き大祭司」とされ、血統的系譜は否定されてしまう。
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16】メルキセデクとはアブラハムを祝福した人物として旧約聖書に登場するが、面白い事に、両者は血縁でなく、その邂逅は一種の地縁によるのである。地縁社会とは、その他の共同体に対して一定の義務を果たせば、その民意(教会)の一員と認められ、その権利を行使できる社会である。
山本七平bot @yamamoto7hei
17】それはあくまでも「第三の種族」の創出であり、血統的系譜に基づく特権は主張できない。従ってイエス・キリストといえども「無系図」と主張され、あったところでその意義は認めないのである。
山本七平bot @yamamoto7hei
18】さて、これが進むと「ギリシア人もユダヤ人もなく……」だけでなく「その共同体の中では貴族も奴隷もなく……」になってしまう。だがここまでくると、ローマ人にとってはスキャンダルである。
山本七平bot @yamamoto7hei
19】彼らは、教会堂の中で、貴族と奴隷が同じ席に隣り合ってすわり、奴隷出身の司祭から祝福をうけるといった状態を許容できなかった。それが、ローマにおけるキリスト教弾圧の原因となったのだ。
山本七平bot @yamamoto7hei
20】さて、現在のアメリカは、ほぼこの地縁社会の原則によっている。王族であれ平民であれ、その出身がいずれの国であれ、アメリカという空間で生きる者は「アメリカ人」という「第三の種族」になるのが原則である。
山本七平bot @yamamoto7hei
21】日本人の親同士の子供であっても、その空間で生まれればアメリカ人であり、長期滞在すれば徴兵令書がくる。実際に自分あての徴兵令書がきて驚いた日本人を知っているが、これは「第三の種族」化した社会では当たり前の事なのである。
山本七平bot @yamamoto7hei
22】前述した鎌倉幕府には、このような「第三の種族」的要素は皆無である。そして、現在の日本人にも、その要素は全くない。もしこの種の原則があったら「第三の種族カマクラ人」が、当然に天皇制廃止へと進んだであろう。
山本七平bot @yamamoto7hei
23】古い話や外国の事はこれくらいにして、現代の日本に移ろう。血縁集団か地縁集団か判別がつかないものに明治の藩閥がある。この藩閥に対して自由民権運動があったのだが、その内実を見ていくと、これは一種の対抗藩閥なのである。では、この二種類の藩閥は何を基本とした集団なのであろうか。
山本七平bot @yamamoto7hei
24】地縁集団は「地」を喪失すれば消滅するか、機能を失う。だが血縁集団はそうではない。前述のような経緯で、ユダヤ人は第三の種族から排除されたが、その血縁社会は国土を喪失しても消えなかった。消えなくて当然であろう。
山本七平bot @yamamoto7hei
25】同様に藩閥は藩がなくなっても機能し、派閥という形でそれが継承されて、今なお機能しているが、勿論これは血縁集団とはいえない。第一、山県有朋がいかに長州閥を支配していたとて、それを子供が相続できるわけではない。血縁順位による「閥位継承権」などは、はじめから問題にならない。
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