茂木健一郎氏 @kenichiromogi 【千両みかん、たばこの火】連続ツイート

2012.6/20 茂木健一郎氏:連続ツイート630回 【千両みかん、たばこの火】 …古典落語には、いろいろなものがあるけれども、私が特に好きなものは、ナンセンス系なのかもしれない。私たちの社会の中で前提とされている「価値観」をゆるがし、もう一度最初から考えなおさせる。ナンセンスの無重力空間を、私たちは時に必要としている。そうじゃないと堅苦しくなる…
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茂木健一郎 @kenichiromogi

連続ツイート第630回をお届けします。文章は、その場で即興で書いています。本日は、台風一過、気分を変えて。

2012-06-20 06:55:08
茂木健一郎 @kenichiromogi

せた(1)古典落語には、いろいろなものがあるけれども、私が特に好きなものは、ナンセンス系なのかもしれない。私たちの社会の中で前提とされている「価値観」をゆるがし、もう一度最初から考えなおさせる。ナンセンスの無重力空間を、私たちは時に必要としている。そうじゃないと堅苦しくなる。

2012-06-20 06:56:38
茂木健一郎 @kenichiromogi

せた(2)ナンセンス落語の筆頭は、「千両みかん」だろう。大店の若旦那が病にたおれる。「やわらかくて、ふっくらとした」というから恋患いかと思ったら、「みかんが食べたい」という。番頭さん、お安いご用と引き受けたが、よく考えたら暑い夏の盛り。当時はみかんなどあるはずがない。

2012-06-20 06:57:59
茂木健一郎 @kenichiromogi

せた(3)若旦那が死んだら、お前も主殺しで死刑だと旦那に脅された番頭さん、必死になって大阪中を駆け回って、やっとみかん問屋で一個のみかんを見つける。ところが、千両だという。看板商品を切らさぬようにたくさん囲ってあって、そのうちたった一個腐らなかったやつだから、それだけするという。

2012-06-20 06:59:39
茂木健一郎 @kenichiromogi

せた(4)番頭さんは腰を抜かすが、旦那は「息子の命が助かるなら安い!」と千両バーンと出す。若旦那は「おいしい美味しい」とみかんを食べ元気を取り戻す。「ありがとう。みかんが、ここにまだ3房ある。お前と、父、母で1房ずつ食べておくれ。」そこで番頭さんは、はたと考える。

2012-06-20 07:01:33
茂木健一郎 @kenichiromogi

せた(5)「けちな旦那が、子どものためならたった10房のみかんに千両出す。来年私がのれん分けしてもらうのは、せいぜい100両だ。まてよ、ここに300両分のみかんがある。ええい、あとは野となれやまとなれだ」と、番頭さんはみかん3房を持って逃げ出す。実にすばらしい幕切れではないか。

2012-06-20 07:03:15
茂木健一郎 @kenichiromogi

せた(6)番頭さんの勘違いを笑うのは簡単である。みかん一個が1000両だというのは、夏の暑い盛りにみかんを食べたいと無理難題を言う、大店の若旦那がいて始めて成立する価格。しかし、そもそも価値とは何か。お金とは何か、ナンセンスだからこそ、『千両みかん』は考えさせる。

2012-06-20 07:04:25
茂木健一郎 @kenichiromogi

せた(7)『千両みかん』と並ぶ壮大なナンセンス噺が『たばこの火』。高級料亭でお金を貸してくれという質素な客を断る。実は大旦那。もし貸していたら、何倍にもお礼になって戻ってきたのに、と後で知り悔しがる。今度その客が来たらいくらでも貸せるようにと、大阪中のお金を集めて、用意しておく。

2012-06-20 07:06:39
茂木健一郎 @kenichiromogi

せた(8)やがてやってきたそのお客。お店の人は張り切って「いくらご用立ていたしましょう? 千両ですか? 一万両ですか?」と尋ねると、だんなは、涼しい顔で、「いや、たばこの火をちょっと貸してほしいのじゃ」。人間の欲を相対化する、すばらしいオチ。さわやかな風が吹く。

2012-06-20 07:08:19
茂木健一郎 @kenichiromogi

せた(9)ナンセンス噺としては、もう一つ、『はてなの茶碗』という名作がある。注目すべきは、『千両みかん』にせよ、『たばこの火』にしても、『はてなの茶碗』にしても、すべて上方落語。今日の吉本に通じるユーモアのセンスがそこに。堅苦しくなりがちな東京に対する、大阪のパワーがそこにある。

2012-06-20 07:10:30
茂木健一郎 @kenichiromogi

以上、連続ツイート第630回『千両みかん、たばこの火』でした。

2012-06-20 07:11:03