美術と格闘技

6月22日朝に村上隆さんが、前日の堀浩哉さん(多摩美大)との会話として投稿されていた、現代美術と格闘技(特にプロレス)とのつながりに関する話。 面白かったのでまとめました。 あえて、ほかの方からの反応は入れていません。
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takashi murakami @takashipom

昨日の多摩美にて、堀浩哉先生のゼミ講義&鼎談が終わった。堀先生は美大批判をどう受け止めるかで、ご自身の迎撃体制を整えていたようだが、僕的には若い学生に、エゴの肥大のみの現状への警笛と、今後のアートシーンの展望をお話した。「内輪」にのみお話するような、他では話さない特ネタを話した。

2012-06-22 06:39:03
takashi murakami @takashipom

それはさておき、多摩美について直ぐに、堀浩哉先生から彼の昔の記事のコピーを差し出された。「LR」という美術業界の個人誌のコピーで、僕と椹木野衣さんへの批判が展開されていた記事であった。批判のポイントは、ザックリ言えば「おまえらのプロレス、格闘技への視点は間違っている。元より〜

2012-06-22 06:42:01
takashi murakami @takashipom

〜史実も不正確だし、<ガチ>という言葉の用法も間違ってる。そういう人間たちが美術とプロレスに橋を掛けてくれるな。迷惑だ」という内容だった。時、格闘技隆盛時「K-1」や「PRIDE」が世の中で爆発し始めた頃で、僕は櫻庭&ホイスグレイシー戦に心酔していて、いたるところで

2012-06-22 06:45:54
takashi murakami @takashipom

格闘技⇄美術、という文脈で語っており、しかしながら、語れる人間は稀有で、写真家のホンマタカシさんぐらいしかいなかった時代。で、堀浩哉さんの批判。そもそも知らなかったのだが、堀さんは、匿名でスポニチにプロレス記事を書く非常勤のライターをやっていたとのこと。

2012-06-22 06:51:42
takashi murakami @takashipom

1972年、アントニオ猪木が新日本プロレスと旗揚げしたその日から、異種格闘技戦は全て実戦を現場で見たという強者。「俺の弟子が80年台になって紙のプロレス的な文章を書き始めたんだが、当時は文脈でプロレスを観る者など皆無だった、

2012-06-22 06:55:49
takashi murakami @takashipom

いや、いたと思うよ、だが、公には村松友視を待つまではいなかった」とは堀先生。え〜?ほんとぉ〜?と思うような聞いたことにない史実を語りはじめた@講演が終わっての飲み会での話。

2012-06-22 06:57:54
takashi murakami @takashipom

そもそも、堀浩哉さんは「美共闘」というムーブメントを起こした作家。正直、あんまし関係ないなぁ〜ぐらいにしか考えていなかった。が、時系列的に言うと「もの派=李禹煥とか関根伸夫とか」→「ポストもの派=岡崎乾二郎」の間を埋める場所にいたという事。

2012-06-22 07:02:13
takashi murakami @takashipom

つまり「もの派」「美共闘」「ポストもの派」という流れだったという。で、その「美共闘」の作家、堀浩哉さんの作品といえば、脱臼した抽象表現主義のグダグダな絵、、、にもならない、絵の残骸、のような感じ http://t.co/gYxirFaF で、

2012-06-22 07:05:11
takashi murakami @takashipom

ある意味僕が眉をひそめる戦後の現代美術病、つまりアメリカの抽象表現主義のフォームを借りて、日本を描こうとする、言ってみれば外人がオタク絵を模倣して、自国の問題を語ろうといっても、そりゃ無理だよ、的なアプローチに見える作法。なので、そりゃ西欧での文脈解説なんか無理だよ〜と思ってた。

2012-06-22 07:15:43
takashi murakami @takashipom

が、いろいろ話を聞いていると、なんか、そういう訳でもない。争点は「政治的闘争」と「プロレス論」にあるのだ。

2012-06-22 07:17:29
takashi murakami @takashipom

結論はもう少し先なので、少々付き合ってほしのだが、日本美術業界は、ほんま、不勉強で世間知らずな阿呆しかおらん世界。故に、現代美術の最も高尚なもの=「抽象表現主義」「クレメント・グリーンバーグ」の一神教に頼った展開をやってりゃ、これまた阿呆な太鼓持ちの文章書き屋が誉めそやし

2012-06-22 07:20:48
takashi murakami @takashipom

な〜んちゃって抽象画を書いてりゃ褒められる時代もあった。で、その一派だとしかメンション出来なかった。が昨日聞いた堀浩哉さんの話を統合してゆくと、驚くべき違った風景が見えてきたのだ。何を言いたいかといえば、

2012-06-22 07:24:32
takashi murakami @takashipom

日本の美術界において堀さんの知ってる「プロレス的コンテクスト」は全く理解されず、「政治的闘争」の意味など、全く聞く耳がなかった。で、堀さんの芸術とは何か?と問えば「アントニオ猪木というプロレス界の特異点」を脱構築させたモノ、と言えるのだ。しかし、プロレスのボキャブラリー、歴史観、

2012-06-22 07:26:49
takashi murakami @takashipom

を共有せねば理解できないし、元より「プロレスとは何か?」という文脈が、今まで冷静に俯瞰できない時代でもあった。故に、文脈の道筋が絡まりすぎて見えづらくなっていたのだ。

2012-06-22 07:31:01
takashi murakami @takashipom

今、日本の戦後、誕生したプロレスは一度終わった。プロレスから派生した格闘技も終わった。つまり、歴史化可能な時代に入った。その現在、 堀浩哉の唱える「政治的闘争=美共闘」「アントニオ猪木という特異点」という概念は、実態を形成可能な時代に入ってきたのかもしれない。

2012-06-22 07:33:39
takashi murakami @takashipom

「アントニオ猪木とは、力道山にブラジルから呼び出され、ボコボコにいじめられ、プロレスエリート ジャイアント馬場の影となり、四面楚歌で新日本を立ち上げた、その立ち位置、爆発力を現場で東スポの無名ライターの位置から見てきたリアリズムを、誰に言ったってわかる訳ない」

2012-06-22 07:40:25
takashi murakami @takashipom

「アントニオ猪木はウィリー戦で、リング下でボコボコにされたんだ。つまりそれは極真との<政治闘争>であり、越境してゆく時には<殺される>というリスクが常に伴う。パキスタンでのペールワン戦だって、あそこで腕を折って逃げるしかなかったんだ。引き分けにするしかなかった!」

2012-06-22 07:42:29
takashi murakami @takashipom

「格闘技があるだろ。あれはルールがある。勝敗が明確だ。じゃあプロレスはどうかといえば勝敗じゃない。でも猪木は違うんだよ。全く違う。特異点であり、常にルール侵犯を繰り返す<政治闘争>を繰り返した異常者、異能人なんだ!だから、僕は美術界でも異能人足りえるにはどうしたらいいのか、、、

2012-06-22 07:45:32
takashi murakami @takashipom

西欧の美術は格闘技的だ。村上くんの言いたいことややってることはわかる。勝敗の着く世界だ。でも、僕が目指した世界はそうじゃないんだ。猪木の持っていた戦後のリアリズム、脱臼した美意識、それを敗戦国のリアルとして、抽象表現主義のフォームを借りてやらねばならない、そう思ってきたんだよ」

2012-06-22 07:48:40
takashi murakami @takashipom

「戦後の日本では絵画は成立しない。しかし、絵画は成立させねばならない。僕はモノを造ることを否定していたにもかかわらず、造ることを選んだんだ」

2012-06-22 07:53:14
takashi murakami @takashipom

http://t.co/IY1tDh6f この作品を見て欲しい。一言で言えば汚いストロークの抽象表現主義もどきだ。だが、猪木的脱構築のフィルターを通してみると、1つ1つが合点がゆく。

2012-06-22 07:55:26
takashi murakami @takashipom

http://t.co/IY1tDh6f 上の作品。画面が黒いエリアと白いエリアに上下で二分している。そこに赤いストロークが唐突に入ってきている。絵画的な気持ちよさでもない、抽象表現主義的な構成でもない。だから「わからない」モノだったが、赤い線は猪木的絵画の特異点を、、、

2012-06-22 07:57:03
takashi murakami @takashipom

イラストレートされた説明画としてみると、堀さんのプロレス文法がじわじわと浮き上がってくる。絵であって絵ではない。そして猪木的特異点を悲願する思いを赤に託している。絵画になりきらない、この世に誕生しきれない、水子的絵画への鎮魂、と見ると、ぐぐぐぐ〜っと意味価値が立ち上がってくる。

2012-06-22 08:01:31
takashi murakami @takashipom

堀さんの熱弁には確信があり、自信がある。その裏腹に作品にはそういう骨子がない。しかし、その骨子を抜いた作風に堀さんの真意があり、猪木的特異点の救世主降臨を願う哀しい絵画の鎮魂を見立てると、涙がじわりと浮かんでくる、日本の戦後史の実態のドキュメントにも見えてくるのだ。

2012-06-22 08:04:40
takashi murakami @takashipom

以上。多摩美教授、堀浩哉さんとの出会いで得た、驚くべき含蓄のあるお話を6時30分頃から、8時過ぎまで90分間に渡って書き散らしました。書いてたら、堀さんの展覧会とかやりたくなってきたなぁ〜。。。と久々に美大生に戻ったような、日本式現代美術の読解の興奮の瞬間でした。おしまい!

2012-06-22 08:07:40