近代の乞食について

@bukrd405

『乞食裏譚』(昭和４年)　・・・明治初年には、隅田川端で乞食の使ふ子供の市が立つたと言ふ話ですが、流石に今日では、其の奇蹟的な方法は残っておりません。当時其の光景を目撃したと言ふ人の話によると、今日行はれてゐる物品販売の市と、殆ど同じ方法であつたと言ふことです。

@bukrd405

数十人の乞食達が、「一銭」とか「二銭」とかと言つたように、だんだんとせつて行つたものだそうです。今日行はれてゐる子供の貸借契約が、当時の面影をしのぶもので、而かも、子供の貸与で細々ながらも生活してゐる者があります。

@bukrd405

だから彼等にとつて、子供は唯一の財産であり、宝であります。「今日はどこそこの縁日だから上玉にしようかな」と言つたように、彼等には彼等としての標準があります。其の標準はどこで定めるかと言ひますに、第一がよく泣く子で、第二が痩せ衰へてお辞儀をよくする子で、第三が普通の子で、

@bukrd405

(承前)第四が太つた可愛い子です。「今日は日曜だから中玉で結構だ」とか、又は「いや、金がないから下にして置かう」とか言つて借り出すのです。・・・では大金を出して子供を借り出した乞食は、それだけの効果があるかと言ひますに、実は驚く程の効果があるのです。

@bukrd405

わけても子供を失つた親御達に、ぶつつからうものなら、一人で意外なる収入があるそうです。

@bukrd405

『乞食裏譚』(昭和４年)　・・・ここでは更に、銀ぶらの不良少年と、浅草の不良少年との差異を述べることにいたします。即ち銀ぶらの不良少年たちは、銀座らしい華やかさと、モダン式なけばけばしさがあり、しかも彼等の犯罪は、主として現代人にふさはしい、しかも、

@bukrd405

(承前)こせこせした陰険な巧妙さがあります。処が浅草の不良少年は、銀ぶら不良少年に比べて、ばんからであり、露骨であり、しかも、其の犯罪が、比較的小さく、露骨に表示されております。

@bukrd405

『乞食裏譚』(石角春之助、昭和４年)　・・・私は何時でも家畜病院とか、犬猫病院とかの看板を見ると、定つたように彼等乞食の末路を思ひ出し、世の無情を嘆かずにはゐられません。・・・畜生でさへも患へば入院する。怪我すれば治療を受ける。・・・しかし、人間はどうであらう。

@bukrd405

少くとも彼等乞食は、患つても尚且つ入院することが出来ません。・・・現に彼等の多くが、公園の片隅にのたれ死をしてゐます。これ程残酷なことが、又とありませうか。人間と生れながら臨床にのぞみ、一服の薬を与へる者もなく、しかも、末期の水さへも貰へない彼等は、一体人間と言ひ得られませうか。

@bukrd405

・・・殊に人家へ出ると、無情な人達は侵入をひどく嫌ひます。公園におれば当局から文句が出ます。彼等は一体どこで、どうして死ねばいゝのでせうか。そうです。息を引きとるまで、絶えず虐まれ、暴行を加へられ、命からがら逃げまどはなければならないのです。

@bukrd405

・・・処が浅草が復興し、だんだんと美しくなつて行くに従ひ、彼等不潔なる者を浅草の地から追ひ出さうとしております。行き処のない彼等を一体どこへやらうと言ふのです。追はれても尚行き処のない者は、帰つて来るより途がありますまい。追ふには追ふだけの準備をしてかゝらねばなりません。

@bukrd405

・・・昔から乞食の嬶天下と相場が定つてゐるように、全く彼等の社会では、女は仲々幅が利きます。それも無理からぬことです。あの社会では女の方が衆人から同情され、男よりも却つて貰ひが多いからです。殊に女が子供でも連れてゐると、男の数倍を稼ぐと言ひますから、威張られても止むを得ない訳です

@bukrd405

それにどう言ふものか、女の乞食よりも男の方が多いので、従つて女の払底を来たしております。況んや彼等にとって子が宝であるように、其の子供を産む女は、それ以上に宝であります。

@bukrd405

@jonathanohn ありがとうございます。ソースはhttp://t.co/1y6fOxHH 『近代民衆の記録　4　流民』です。