山本七平botまとめ/「父と子の隠し合い体制」がもたらす科学否定の”神がかり”/~公害問題を科学的に処理できない理由とは~

山本七平著『「空気」の研究』/「水=通常性」の研究/141頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

1】前にものべたように、私は今まで、しばしば「公害問題」を取り上げた。これはもちろん「公害」を取り上げたわけではない。私は、科学上の分析値とそれが人体に及ぼす影響については、発言権のない”非科学的人間”である。<『「空気」の研究』

2012-06-22 23:58:31
山本七平bot @yamamoto7hei

2】その私がこれに関心をもったのは、「公害」よりむしろ公害に触発されたさまざまの問題、一言でいえば、以上の情況倫理・集団倫理に科学上のデータがどう作用しどう結果するかという点であった。

2012-06-23 00:21:03
山本七平bot @yamamoto7hei

3】科学上のデータは、こういう社会では最終的には扱えなくなり、最後には科学否定の神がかりが発生するはずで、私は日本軍の中でやや”科学的”であった砲兵の一員として、いやというほどそれを見せつけられて来たので、同じ状態を呈するのではないかと、興味があったわけである。

2012-06-23 00:58:19
山本七平bot @yamamoto7hei

4】何よりも面白いのはまず「資本の論理」と「市民の論理」という言葉が出て来たことであった。たとえばイタイイタイ病の場合、最も大切な問題は厳密な原因探究に基づく正確な診断であり、次にそれに基づく正しい治療であり、同時に新たな患者が発生することを防ぐ的確な処置である。

2012-06-23 01:21:09
山本七平bot @yamamoto7hei

5】問題の中心はここにありここ以外にない筈であって、これを踏み外せば患者は正しい治療が受けられず、従って治癒は望めず、また新たな患者の発生も防げないだけでなくあらゆる無駄な努力・無駄な投資を行ないながら何の結果も得られない筈である。それは太平洋戦争に等しい経過と結末を見るであろう

2012-06-23 01:58:19
山本七平bot @yamamoto7hei

6】といっても、そのことはある時点のある医師の診断や治療法に誤りがあっても、それが原因ではないのである。新事態への誤断は当然のこと、別に不思議ではない。誤断がなければむしろ奇跡である。

2012-06-23 02:21:43
山本七平bot @yamamoto7hei

7】これはあらゆる問題でいえることで、私自身、戦前の結核患者だが、今にして思えば、当時はずいぶん無駄な治療も受けていたのだと思う。だがそれがさまざまな面で改善され、医学の進歩の導入とともに治癒に向ったのだから「無駄」は決して無駄とはいえない。

2012-06-23 02:58:29
山本七平bot @yamamoto7hei

8】だがイタイイタイ病は、外国の鉱山では発生せず、日本にしかないものだそうだから、外国の「自由な研究の成果」を導入するわけにいかず、その治療法も将来への予防も、日本だけで解決しなければならないという点で、特色ある問題である。一体これは、どのようになるのであろうか?

2012-06-23 03:21:00
山本七平bot @yamamoto7hei

9】治療・予防・防疫等について、絶えず誤りを修正するという形で、年々歳々の進歩が望めるのであろうか。もしそれが望めそうもないとするなら、その理由はどこにあるであろうか?

2012-06-23 03:58:07
山本七平bot @yamamoto7hei

9】それはおそらく、医学にも科学にもなく、集団倫理と情況倫理、いわば「父と子が互いに隠すのが直きこと」の倫理にあるといわねばならない。「資本の論理」とは、おそらく次のような意味なのであろう。

2012-06-23 04:21:05
山本七平bot @yamamoto7hei

10】「父は子のため隠し、子は父のため隠す、直きことその中にありだから、カドミウムについても、ピーナッツについても、社員は会社のために隠し、会社は社員のために隠す。正義と真実はその中にありのはず。そうでなければ、相互の信頼に基づく会社という組織が成り立っているはずはない。

2012-06-23 04:58:17
山本七平bot @yamamoto7hei

11】成り立っていること自体が、彼らが”事実”を隠している証拠である。従って事実を提示すれば、彼らは論理的に情況を創出・設定し、その情況に対応するものとして、自己を正しいとするであろう。

2012-06-23 05:21:10
山本七平bot @yamamoto7hei

12】それが”資本の論理”従って、彼らの論理は一切信用できないと同時に、それによって成り立つ組織自体が悪であるから、企業は悪である」と言うことであろう。これは確かに一面の事実だから、こういう見方が出ることは当然で、この見方が出てはならないと言ってもそれは無理である。

2012-06-23 05:58:08
山本七平bot @yamamoto7hei

13】というのは、批判される側だけでなく、批判をする側も同じ原則で動いており、自らの原則に基づき、自らの体験によって、相手を判断しているからである。そのため、この論理はそのまま批判する者のうえに帰ってくる。

2012-06-23 06:21:01
山本七平bot @yamamoto7hei

14】「イ病の原因はおそらくカドミウムではない。だが、父は子のためそれを隠し、子は父のためそれを隠す。真実と正義とはその中にありだから、だれも”事実”はロにしない。従ってイ病の本当の原因は実はわかっていない。

2012-06-23 06:58:12
山本七平bot @yamamoto7hei

15】だが、それを言えば、相手は、その”真実”を事実だとするあらゆる情況を論理的に設定し、その設定を認めない者を非倫理的と糾弾してしまうであろうから、結局”事実”はわからない。

2012-06-23 07:21:09
山本七平bot @yamamoto7hei

16】現に、故児玉隆也氏が取材に行ったとき、まず最初にきかれたことが『あなたは、どちら側に立って取材するのか』と言うことであった。これは簡単にいえば、どの側と”父と子”の関係にあるのかということであろう」

2012-06-23 07:58:24
山本七平bot @yamamoto7hei

17】もちろん私は、カドミウムについては全く無知である。そして資料を集めれば集めるほど無知の度が深まるにすぎない。

2012-06-23 08:22:55
山本七平bot @yamamoto7hei

18】なぜそうなるかといえば、この二つの「論理」なるものを、それぞれの集団倫理の中に設定された情況に基づく”真実”と見なさざるを得ないからで、こうなるとすべての人は、何かへの「忠誠」を起点として、そこを出発点とせざるを得なくなるはず。

2012-06-23 08:58:17
山本七平bot @yamamoto7hei

19】簡単にいえば、「カドミウム」という言葉はもはや専門の金属学者以外のものにとっては、金属名ではなくて、その言葉をどう受けとるかで、その人間がどの集団の「父」に対して「子」であるかの、判定用リトマス試験紙となってしまうからである。

2012-06-23 09:21:22
山本七平bot @yamamoto7hei

20】従って私は金属学者の使うカドミウムと”カドミウム″ははっきりわけて考え、カドミウムヘの判断と”カドミウム″への判断は全く別の判断と考えている。勿論私は専門学者のカドミウムの説明はそのままうけとるが、”カドミウム”はもはやそれとは別の、同音異義語になっていると考える。

2012-06-23 09:58:28
山本七平bot @yamamoto7hei

21】従ってあらゆる発言は、相手から見れば”陰謀”となって不思議ではない。これが大変に面白く出ているのが、最近の朝日新聞への投書である。次に一部を引用する。【「自民党政調・環境部会は『イタイイタイ病、カドミウム原因説は認められない』という報告を出した。

2012-06-23 10:21:09
山本七平bot @yamamoto7hei

22】……ここに腐敗が表面化した保守体制を守るための深遠な陰謀が展開され始めたように感じられる……カドミウムは有害物質である。その存在自体が人間はじめ生物にとって有害なのである(これがすなわち”カドミウム”)

2012-06-23 10:58:31
山本七平bot @yamamoto7hei

23】……今回、このような問題が提起された理由にカドミウム原因説が科学的に実証されていない点があったようだが、科学は万能ではない。今日の科学では解明できないことを、科学的でないという言葉にすり替えてカドミウムをたれ流していた企業を弁護しているのは問題である。

2012-06-23 11:21:17
山本七平bot @yamamoto7hei

24】……私たちはこれらの問題すり替えを許さぬよう断固戦うべきである」】別に論評の必要はあるまい。集団倫理が行きつく一つの結論であって、科学的結果にまで”情況”が入ってきてしまうのである。

2012-06-23 11:58:20