私的備忘録・迷い家について

迷い家は個人的に参照する機会が多いのでメモ代わりにまとめを作成しておきます。元は『ほうかご百物語』3巻まとめ用。
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文献を基にしたメモ

アルム=バンド @Bredtn_1et

今日も引き続いて遠野地方関係を行きます。『ほうかご百物語』3巻より、「迷い家」。参考文献は[1]『遠野物語』(柳田 国男著、大和書房、1972)、[2]『〔口語訳〕遠野物語』(綾藤 総一郎監修、佐藤 誠輔訳、株式会社河出書房、1993年第4版)、

2012-07-01 11:51:50
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[3]『遠野物語小事典』(野村 純一/渋谷 勲/菊池 照雄/米屋 陽一編、株式会社ぎょうせい、H.4)、[4]「全国妖怪語辞典」『日本民俗文化資料集成 8 妖怪』(谷川 健一編纂、三一書房、1988)、[5]『定本 柳田國男集 第五巻』(柳田 國男著、筑摩書房、1962)。

2012-07-01 11:51:52
アルム=バンド @Bredtn_1et

まずは迷い家の伝承のあらすじをざっと以下に記す。それをしないと始まらないので。

2012-07-01 11:52:08
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ある女が蕗を採るために家の門の前の小川に沿って山へ入った。いつの間にかかなり山奥まで入っており、さらに進むと立派な黒い門を持つ家に辿り着いた。その家の広い庭には紅白の花が咲き誇り、鶏が遊んでいた。牛小屋には多くの牛が、馬屋には多くの馬がいた。

2012-07-01 11:52:37
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玄関から家に入ると広間には朱や黒の立派なお膳やお椀がたくさんあった。奥の座敷の火鉢には鉄瓶の湯が沸いている。しかし、一向に人影が見えない。これはもしや山男の家ではないかと恐ろしくなった女は慌てて家に戻っていった。

2012-07-01 11:52:42
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その後あくる日、女が家の門の前の川で洗い物をしていると、赤い立派なお椀が流れてきた。このお椀を拾った女はこれを食器ではなく、米や麦を計る器として使おうと考えてケセネギツの中に隠した。食器として使うと、きたないと怒られてしまうと考えたためだ。

2012-07-01 11:53:00
アルム=バンド @Bredtn_1et

ところでこのお椀でケセネギツの米や麦を計ると、いつまで経っても米や麦がなくならなかったという。やがてこの家は幸運に恵まれ、今のような大金持ちになった。遠野では山中のこのような不思議な家をマヨヒガという。

2012-07-01 11:53:13
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マヨヒガに辿り着いた者は、必ずその家の中の道具や家畜、何でも良いので持ち帰るべきだという。なぜならば、その人に授けようと思ってマヨヒガは姿を現すからだ。この女は無欲であったため、お椀の方から勝手に流れてきたのだろう[1][2][3][4]、というものである。

2012-07-01 11:53:17
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柳田國男は、迷い家の伝承は隠れ里から膳椀を借りる椀貸し伝説と同じ系統の話だと指摘し[2][3][5]、

2012-07-01 11:53:32
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「遠野物語に伝へられたマヨヒガの膳椀に至っては、其中でも著しく古意を存して居るもので、隠里の思想に附加するに更に増殖又は無尽蔵の思想を表現する長者伝説の分子を以てして居る。[5]」とその見解を述べている。

2012-07-01 11:53:35
アルム=バンド @Bredtn_1et

なお、『遠野物語』で語られた迷い家の伝承はもう一つ存在する。

2012-07-01 11:58:30
アルム=バンド @Bredtn_1et

白望山の麓にある金沢村は上閉伊郡の中でも特に山奥で、人の往来が少ないところである。六、七年前に金沢村から栃内村山崎の某家では娘婿を貰った。この婿が実家に行こうとして道に迷い、マヨヒガに行き当たった。

2012-07-01 11:58:49
アルム=バンド @Bredtn_1et

家の様子や牛馬鶏が多いことや紅白の花が咲いていることなど、全て上記の話の通りであった。同じように玄関から入ると、膳椀を取り出す部屋があり、座敷には鉄瓶の湯が沸いており、今まさに茶を入れようとしているだった。耳を澄ませると便所などの辺りに人の気配があるように思えた。

2012-07-01 11:59:01
アルム=バンド @Bredtn_1et

最初は呆然としていたが、次第に恐ろしくなって逃げ帰ろうとしたが、道を外れて栃内村とは反対側の小国村に出てしまった。小国村ではマヨヒガの話を信じる者はいなかったが、

2012-07-01 11:59:17
アルム=バンド @Bredtn_1et

栃内村山崎では「それがマヨヒガだ」「すぐに行って膳椀の類を持ってきて長者になるんだ」と言って婿を案内役にして山に入って入念に探すも、結局それらしいものは見付からずに引き返す羽目になった。また、その婿が長者になったという話も聞かなかった[1][2][3]、という。

2012-07-01 11:59:19
アルム=バンド @Bredtn_1et

どちらの話も、遠野の人々が、容易には入って行けない山奥に一種の桃源郷といったものが存在すると考えていたことを窺わせる。また、この桃源郷は選ばれた無欲の者しか恩恵に預かれない、としていたことも分かる。

2012-07-01 12:00:15
アルム=バンド @Bredtn_1et

(余談だが、遠野の伝承の中にはここが隠れ里だ、とする伝承も見受けられるため、ここでは所謂隠れ里伝説の舞台である「隠れ里」との混同を避けるために隠れ里の呼称は避けた)

2012-07-01 12:00:18
アルム=バンド @Bredtn_1et

以上が、遠野物語に語られる迷い家の伝承のあらましである。

2012-07-01 12:00:25

ほうかご百物語3巻との比較

アルム=バンド @Bredtn_1et

ということで、以下『ほうかご百物語』3巻との比較。

2012-07-01 12:00:51
アルム=バンド @Bredtn_1et

和室で囲炉裏やら土間があって、ついさっきまで編み物をしていたような痕跡がある。

2012-07-01 12:01:00
アルム=バンド @Bredtn_1et

まず広大な和室になっているのは、この後いろいろとやることになるからご都合ということにしておいて良いかな。強いて挙げるならば迷い家は一種の異空間なわけなので、空間的な制約は取り払われるという解釈も可能かなー、と。

2012-07-01 12:01:02
アルム=バンド @Bredtn_1et

次に、伝承の中では編み物に関する言及はないけど、鉄瓶でお湯を沸かして今まさにお茶を入れようとしているタイミングである、という具合に「生活臭をぷんぷんと醸し出している」という点では類似。

2012-07-01 12:01:11
アルム=バンド @Bredtn_1et

一方で人の気配が一切感じられないのも伝承(前者のパターン)と同じ。あとは先輩が端的に説明している通りでございます。流石先輩。

2012-07-01 12:01:17