山本七平botまとめ/「アントニーの詐術③」/~シェークスピアが赤裸々に描いた”扇動の原則”とは?~

山本七平著『ある異常体験者の偏見』/アントニーの詐術/83頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

1】…一体「扇動」とは何であろうか。 扇動は何も軍隊だけでなく、日本だけでなく、また現代だけのことでもない。 「扇動」は外部から見ていると、何かの拍子に、何かが口火となって、全く偶発的にワッと人が動き出すように見えるが、内実はそうではない。<『ある異常体験者の偏見』

2014-05-25 14:22:41
山本七平bot @yamamoto7hei

2】「扇動」には扇動の原則があり、扇動の方法論があって、この通りにしさえすれば誰でも命令なくして人を動かし時には死地に飛び込ます事ができるのである。 これは非常に恐ろしい力をもつ一種の誘導術であって、その術を完全に心得て自由自在に使えるのがいわば…叱咤・扇動型…の指揮官である。

2014-05-25 14:24:14
山本七平bot @yamamoto7hei

3】原則は非常に簡単で、 まず一種の集団ヒステリーを起させ、そのヒステリーで人びとを盲目にさせ、同時にそのヒステリーから生ずるエネルギーがある対象に向うように誘導するのである。 これがいわば基本的な原則である。

2014-05-25 14:25:12
山本七平bot @yamamoto7hei

4】ということはまず集団ヒステリーを起さす必要があるわけで、従ってこのヒステリーを自由自在に起さす方法が、その方法論である。 この方法論はシェークスピアの『ジュリアス・シーザー』に実に明確に示されているので、私が説明するよりもそれを読んでいただいた方が的確なわけだが(続

2014-05-25 14:26:15
山本七平bot @yamamoto7hei

5】続>実は私は戦争中でなく、戦後にフィリピンの「戦犯容疑者収容所」で『シーザー』の筋書き通りの事が起るのを見、 つくづく天才とは偉大なもので、短い台詞によくもこれだけの事を書きえたものだと感嘆し、ここで初めて扇動なるものの実体を見、(続

2014-05-25 14:27:26
山本七平bot @yamamoto7hei

6】続>それを逆に軍隊経験にあてはめて 「あ、あれも本質的には扇動だったのだな」 と感じたのがこれを知る機縁になったわけだから、まずその時の事を記して、命令同様の効果をもつ「扇動=軍人的断言法」の迂説的話法に進みたい。

2014-05-25 14:28:22
山本七平bot @yamamoto7hei

7】まず何よりも私を驚かしたのは『シーザー』に出てくる扇動された者の次の言葉である。 (市民の一人)「名前は?正直にいえ!」 (シナ)「名前か、シナだ、本名だ。」 (市民の一人)「プチ殺せ、八つ裂きにしろ、此奴はあの一味、徒党の一人だぞ。」 (シナ)「私は詩人のシナだ、別人だ。」

2014-05-25 14:30:28
山本七平bot @yamamoto7hei

8】(市民の一人)「ヘボ詩人か、やっちまえ、へボ詩人を八つ裂きにしろ。」 (シナ)「ちがう、私はあの徒党のシナじゃない。」 (市民の一人)「どうたっていい、名前がシナだ……」 (市民の一人)「 やっちまえ、やっちまえ……」

2014-05-25 14:31:15
山本七平bot @yamamoto7hei

9】こんな事は芝居の世界でしか起らないと人は思うかも知れない… しかし 「お前は日本の軍人だな、ヤマモト!憲兵のヤマモトだな…絞首台にぶら下げろ!」 「違います、私は砲兵のヤマモトです、憲兵ではありません」 「憲兵も砲兵もあるもんか、お前はあのヤマモトだ、やっちまえ…」

2014-05-25 14:33:36
山本七平bot @yamamoto7hei

10】といったような事が、現実に私の目の前で起ったのである。 …これがあまりに『シーザー』のこの描写に似ているので私は『シーザー』を思い出した訳である。 新聞を見ると、形は変っても、今も全く同じ型の事が行われているように私は思う。 一体、どうやるとこういう現象が起こるのか。

2014-05-25 14:35:03
山本七平bot @yamamoto7hei

11】扇動というと人は 「ヤッチマエー」 「ヤッツケロー」 「タタキノメセエー」 という言葉、すなわち今の台詞のような言葉をすぐ連想し、それが扇動であるかのような錯覚を抱くが、 実はこれは「扇動された者の叫び」であって「扇動する側の論理」(?)ではない。

2014-05-25 14:36:49
山本七平bot @yamamoto7hei

12】すなわち、結果であって原因ではないのである。 ここまでくればもう扇動者の任務は終ったわけで、そこでアントニーのように 「……動き出したな、……あとはお前の気まかせだ」 といって姿をかくす。

2014-05-25 14:38:09
山本七平bot @yamamoto7hei

13】というのは 扇動された者はあくまでも自分の意思で動いているつもりだから 「扇動されたな」 という危惧を群衆が少しでも抱けば、その熱気は一気にさめてしまうので、扇動者は姿を見せていてはならないからである。

2014-05-25 14:39:11
山本七平bot @yamamoto7hei

14】もっとも、指揮者の場合は、大体、この「二型(叱咤・扇動型)」が「一型(教祖型)」の仮面をかぶるという形で姿をかくすが……。 従って、 扇動された者をいくら見ても、扇動者は見つからないし「扇動する側の論理」もわからないし、扇動の実体もつかめない のである。

2014-05-25 14:40:24
山本七平bot @yamamoto7hei

15】扇動された者は騒々しいが、扇動の実体とはこれとは全く逆で実に静かなる論理なのである。 これは『シーザー』の有名なアントニーの演説を子細に読まれれば誰にでもわかる。 そこには絶叫や慷慨はない。

2014-05-25 14:41:12
山本七平bot @yamamoto7hei

16】彼は静かに遠慮深く登壇し、まずシーザーの死体を見せる。 そして最後をシーザーの「遺言書」で結ぶ。 いわば「事実」ではじめて「事実」で結ぶ。

2014-05-25 14:41:51
山本七平bot @yamamoto7hei

17】この二つの「事実」の間を、一見まことに「静かで遠慮深い問いかけ」を交えつつ、あくまでも自分は「事実」の披露に限定するという態度をとりつづけ、いわゆる意見や主張をのべることは一切しない。

2014-05-25 14:42:32
山本七平bot @yamamoto7hei

18】その論理の一部を紹介しよう。 カッコ内の私の敷衍は読んでも読まないでもいい。 「ブルータスさんは彼(シーザー)が野望を抱いていたといわれます。 ブルータスさんは人格高潔な方です(からこれは事実であって嘘ではないでしょう。)

2014-05-25 14:43:21
山本七平bot @yamamoto7hei

19】(しかしもしそうだとすると、まことに不思議なことに)シーザーは、多くの捕虜をローマにつれて来まして、その身代金は全部国庫に収めています(から果してそういえるでしょうか)」 という言い方である。

2014-05-25 14:44:08
山本七平bot @yamamoto7hei

20】カッコ内の敷衍は、恐らくその時に聴衆が頭に浮べたであろうと思われる言葉だが、アントニーは勿論これを口にしない。 彼が口にするのは「事実」だけで、この事実の並べ方で誘導しているわけである。 そしてこれに「問いかけ」をまぜる。

2014-05-25 14:45:02
山本七平bot @yamamoto7hei

21】すなわち 「こういうシーザーが本当に野望家に見えるでしょうか(みなさん、ちょっといっしょに考えてみましょう、そんなことかありうるでしょうか)」 とつづけ、次に新しい「事実」へと進む。 「貧民たちが泣き叫んだときシーザーも共に泣きました……」

2014-05-25 14:45:53
山本七平bot @yamamoto7hei

22】「といっても私はブルータスさんの言葉を反駁するためにこんなことを言っているのではありません。 私はただ現に私が知っている事実を述べていますだけで……」 といういい方を積みあげていく。

2014-05-25 14:46:49
山本七平bot @yamamoto7hei

23】いわば、死体と遺言書という目前の事実の間を、事実、事実、事実、事実とつなぎ、その間にたえず 「…でしょうか? …でありましょうか? …のことを考えてみましょう! …たとえそう見えたとしても…ではないでしょうか?」 という言葉でつなぐ。

2014-05-25 14:48:07
山本七平bot @yamamoto7hei

24】これをやっていくうちに次第次第に群衆のヒステリー状態は高まっていき、ついに臨界値に達し、連鎖反応を起して爆発する。 ヤッチマエー、 ぶら下げろー、 土下座させろー、 絞首台へひったてろー、 …ツッコメー・ワーッまで。 これを一応「アントニーの原則」と呼んでおこう。

2014-05-25 14:50:08
山本七平bot @yamamoto7hei

25】一体この論理のトリックはとこにあるか、 一見扇動とは無関係に見えるこれをやられるとなぜ集団ヒステリー状態になるか は後述するとして、最近のもので、ほぼ「アントニー」の原則通りと思われるものを調べてみよう。

2014-05-25 14:50:55