PWR格納容器に(フィルターつき)ベントは必要か

大飯3号機再稼動反対理由のひとつとして、安全対策が充分かという懸念、特に格納容器へのフィルター付きベントの未設置に不安の声がある。一方で、PWR格納容器は充分大きくそもそもベント装置はない。この辺りを技術的に勉強したかったところ、よい連続Twがあったので収録。Tw者は原子炉技術者の方と思われる。
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Flying Zebra @f_zebra

格納容器ベントについてざっくりと説明します。字数節約のため以降@は付けませんので、何らかの方法で拾って下さい。 @takeshi_kine

2012-07-03 22:17:18
Flying Zebra @f_zebra

原子炉の設計想定事故は冷却水喪失事故で、Loss Of Coolant Accidentの頭文字を取ってLOCAと呼ばれます。原因は電源喪失や配管破断など様々ですが、LOCAが起こればそれ以降の進展や対処方法はおおむね共通です。

2012-07-03 22:18:44
Flying Zebra @f_zebra

LOCAでは、冷却水と共に大量の蒸気が原子炉容器から格納容器に出てきます。格納容器内のスプレーで蒸気を凝縮して圧力の上昇を抑制することになっていますが、電源喪失など何らかの理由で失敗すると格納容器の圧力が上昇します。

2012-07-03 22:20:08
Flying Zebra @f_zebra

BWRは格納容器の容積が小さいため、比較的すぐに設計圧力に達してしまいます。格納容器が破壊すると制御されない核分裂生成物(FP:fission products)の放出が起きてしまうので、次善の策としてベントを通してタイミングと量をコントロールしながら蒸気を放出して圧力を下げます

2012-07-03 22:21:18
Flying Zebra @f_zebra

この際、ベントにFPを補足するフィルターが設置されていれば、放出される量を減らすことができます。フランスが採用しているサンドフィルターで1/10、ドイツのスクラバーと金属繊維フィルターを使った装置は1/1000(ただしヨウ素は1/10)まで低減できるとされています。

2012-07-03 22:22:31
Flying Zebra @f_zebra

PWRの場合、格納容器は巨大な容積を持ち、原子炉建屋のほぼ全てが格納容器です。スプレーもありますが、まずは大容積で圧力上昇を吸収します。この大容積は「働かない」という事態があり得ないため、一切の安全系設備が働かなくても圧力上昇は限定的となります。

2012-07-03 22:24:12
Flying Zebra @f_zebra

アイスコンデンサ式格納容器の場合は格納容器内に砕いた氷を貯めていて、LOCA時にはその氷で蒸気を凝縮します。一般的なドライ式に比べて格納容器の体積、設計圧力を小さくできるメリットがありますが、あまり一般的ではなく、国内では大飯の1、2号だけがこの形式です。

2012-07-03 22:25:27
Flying Zebra @f_zebra

PWRの格納容器と外部遮へい壁(原子炉建屋の外壁)の間にはアニュラスと呼ばれる空間がありますが、ここはフィルター付きのポンプで常時負圧に保たれていて、格納容器の配管貫通部などからFPの漏洩があっても外部には出さないようになっています。

2012-07-03 22:26:25
Flying Zebra @f_zebra

BWRのうち、MarkⅠ格納容器については過酷事故のフェーズⅠ、つまり炉心損傷後、FP放出に至るまでのアクシデントマネジメントとして全ての国でベント装置の設置が検討されています。PWRはこのフェーズではベントの有無は関係なく、この目的のベントはありません。

2012-07-03 22:28:19
Flying Zebra @f_zebra

フランス、ドイツ、スウェーデンではPWRを含む全ての軽水炉にフィルタードベントが設置または検討されていますが、これはフェーズⅡ、つまりFP放出が起こった後の緩和対策です。アメリカでは、BWRについてベントのみでは効果が小さいと判断し、注水機能の強化と併せて検討しています。

2012-07-03 22:29:17
Flying Zebra @f_zebra

事故シーケンスを具体的に検討してみると、最後には格納容器破壊が避けられずにベントをバイパスしてFPが放出されるケースが多く、アメリカがBWRでフィルタードベントの効果を疑問視しているのはこのためです。PWRでは検討項目にすら挙げていません。

2012-07-03 22:30:37
Flying Zebra @f_zebra

直接関係があるかどうか分かりませんが、アメリカはFEMA(連邦緊急事態管理庁)が主導して非常時に住民を避難させる手段や具体的な検討、訓練が充実していて、強制的な避難によるリスクを比較的正確に予測し、管理できる体制が整っています。

2012-07-03 22:31:42
Flying Zebra @f_zebra

対してヨーロッパ、特に寒冷地では、冬期に住民を強制避難させることになれば子供や高齢者を中心に避難そのものによる被害が大きくなり、そのリスクの正確な予測も困難です。そのため、強制避難のリスクを大きめに評価する傾向があります。

2012-07-03 22:32:42
Flying Zebra @f_zebra

@mockmoon2000 仮にフィルター付きベント装置があり、電源喪失時に確実に作動させる論理回路が組まれていれば、FPの放出を低減できた可能性は高いと思います。

2012-07-03 22:37:08
Flying Zebra @f_zebra

日本は政府も国民もリスクと真面目に向き合って考える事を嫌がり、うやむやにしたり、実体のないゼロリスクを要求したりする傾向があります。リスクの存在をまずは受容し、トータルのリスクを下げる議論と対峙しない限り合理的な結論は得られないでしょう。

2012-07-03 22:37:33
Flying Zebra @f_zebra

フィルタードベントの話に戻すと、PWRでFPの放出を伴うシビアアクシデントが起こり得ないわけではありませんが、格納容器にフィルタードベント装置があっても放出されるFPの量を低減する効果はほぼ期待できません。ヨーロッパで設置されているのは、多分に政治的な理由によるものと考えます。

2012-07-03 22:39:29
Flying Zebra @f_zebra

繰り返しになりますが、リスクは決してゼロにはなりません。原子力をやめて他の手段で電力を得ても、やはりリスクはあります。電力の供給そのものを少なくすれば、更に大きなリスクがあります。リスクがないことをもって「安心」したいというのは、残念ながらできない相談です。

2012-07-03 22:40:25
Flying Zebra @f_zebra

@mockmoon2000 今回の事故では、直流電源も失われたため弁を作動させる手段が極端に限られていました。現場の運転員は、精一杯早くベントするよう努力と工夫を重ねたと思います。彼らの冷静な判断力には賞賛を惜しみません。対策本部は混乱しまくってましたが。

2012-07-03 22:45:10