カナカナカナ……と、ひぐらしの鳴く声が降り注ぐ夕暮れ時。幼稚園生活最後の夏休みを過ごしていた少女――東北きりたんは、一人、自宅の縁側に座って、茜色に染まる空を見上げていました。
2012-07-04 20:46:12一人でいるはずのきりたんの言葉に、誰かが応えます。近くにイタコ姉さまはいませんし、幻聴を聞くような時間帯でもありません。なにより、自分の呟いた言葉に返事が返ってきたことに、きりたん自身がまったく驚いていません。――まるで、それが自然な姿とでも言うように。
2012-07-04 20:46:46「たんちゃん」。まだ小さなきりたんの口が、そう紡ぎます。彼女の視線は、相変わらず夕焼けの空に注がれていて――当然ですが、その先に人影はありません。
2012-07-04 20:47:14きりたんの問いかけに、不思議な声の人――たんちゃんが息を呑みます。たぶん女の子であろう彼女は、しかし、すぐに態度を取りつくろうと、一つ、大きな溜息をついて、『――そうですね』と、笑いました。
2012-07-04 20:47:42――だって、すごくふしぎ。わたしは、きりたんぽじゃないもの。きりたんぽって、切れてるからきりたんぽなんだよ。きょう、ずかんでみたの。
2012-07-04 20:47:50そう言うと、きりたんは自分の背中にある二本のきりたんぽ――いえ、「切れて」いないのですから、「たんぽ」と呼ぶべきでしょう――を、プルプルと震わせました。みずみずしいその「たんぽ」は、彼女の背丈の2倍以上あります。――それに、先端に穴も開いていません。
2012-07-04 20:48:02彼女の背中の二本の「たんぽ」は、うっすらと発光しています。――そう。「たんちゃん」とは、彼女の背中に宿ったきりたんぽの精の声だったのです。
2012-07-04 20:48:10ぼーっと空を見上げていたきりたんの頭。その両脇を、後方から、「何か」がものすごい速度で掠めていきました。驚いたきりたんでしたが、慌ててその正体を確認すると――なんと、包丁です。
2012-07-04 20:48:44二本の「包丁」は鋼の切っ先を前方に向けたまま、きりたんの目の前で静止して、ゆっくりとバックし――彼女の漆黒の髪の中に、がしゃん、と、納まりました。包丁の先には、わずかではありますが、きりたんぽの肉片が付着していて――彼女の顔が、真っ青になります。
2012-07-04 20:48:57頭の異物感。そして「切られてしまった」たんちゃんのことを気にかけていると、再び、たんちゃんの声がしました。いつもと変わらない、優しい声です。
2012-07-04 20:49:38包丁によって真っ二つになったたんちゃんは、上側の部分に意思が残っているようでした。ある意味で「自由になった」彼女は、発光しながら、ふよふよと、きりたんの前に浮遊してきます。 http://t.co/4ViJsawF
2012-07-04 20:50:37