ハイルブローナー『世俗の思想家たち』まとめ

ロバート・L・ハイルブローナー『入門経済思想史 世俗の思想家たち』まとめ。
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H.Takano @midwhite

スミスは『道徳感情論』の中で「この世の全ての苦労と騒ぎは、貪欲と野心の、富、権力および卓越の追求の目的は、何であるのか」と問うた。彼は『国富論』で答えた。全て卑しむべき富と栄光の争奪は、その究極の正当な根拠を一般人の福祉に持つ、と。(ハイルブローナー『世俗の思想家たち』2001)

2012-07-03 23:50:08
H.Takano @midwhite

スミスにとっては社会は一つの家族だったが、リカードにとっては内部分裂したキャンプだった。なぜなら『国富論』以後40年、イギリスは新興の産業家と貴族階級の大地主という二つの敵対的陣営に分かれ、熾烈に対立していたからである。(ハイルブローナー『世俗の思想家たち』2001)

2012-07-04 00:08:31
H.Takano @midwhite

資本家たちは食糧価格が高すぎると主張して大地主たちを怒らせた。人口が急速に減少していく予測に反した人口増加が、小麦の値段を四倍にまで押し上げた。先取の商人は小麦や穀類を海外から輸入し始め、地主は自らのビジネスの危機に狼狽した。(ハイルブローナー『世俗の思想家たち』2001)

2012-07-04 00:18:03
H.Takano @midwhite

リカードは1815年に「地主の利益は常に他のあらゆる階級の利益に反している」と書き、それは市場システム内での決定的な政治闘争と認識されるに至った。今や社会はマルサス的な沼で溺死しないとしても、リカード的な潰滅の危機に瀕していた。(ハイルブローナー『世俗の思想家たち』2001)

2012-07-04 00:27:49
H.Takano @midwhite

マルサスとリカードはことごとに議論を戦わせた。マルサスが『経済学原論』を出版した時、リカードはその瑕疵を指摘するために220ページに渡るノートを書き留めたし、マルサスはリカードの視点に内在する誤謬を故意に著書の中で暴露している。(ハイルブローナー『世俗の思想家たち』2001)

2012-07-04 00:41:50
H.Takano @midwhite

マルサスは『人口論』の中で、人口の等比級数的な増加に対して食糧生産は幾何級数的にしか伸びず、結果的に人類は大規模な飢餓に陥るだろうと主張し、多くの進歩主義者を反動主義者に変容せしめ、また30年間に渡って絶え間なく批判され続けた。(ハイルブローナー『世俗の思想家たち』2001)

2012-07-04 13:23:15
H.Takano @midwhite

リカードによれば、賃金は労働の価格であり、利子は資本の価格であったが、地代は単なる土地の価格ではなく、非常に特殊な収益だった。即ち彼は、地代は肥沃な土地とそうでない土地の生産性の差から生まれるとする「差額地代」説を提唱した。(ハイルブローナー『世俗の思想家たち』2001)

2012-07-04 13:30:50
H.Takano @midwhite

スミスの予見した社会では、資本家の増産によって上昇した賃金に浮かれた労働者は子どもを増やして再び賃金を低下させ、労働者が増加した分の食糧を増産すべく耕作地が新たに取得される。リカードによればこの社会構造における唯一の受益者は地主だ。(ハイルブローナー『世俗の思想家たち』2001)

2012-07-04 13:53:08
H.Takano @midwhite

というのも、労働者の増加による食糧価格の上昇に対応して、食糧を増産すべく新たに土地を耕作地にしても、その耕作地が今まで使われていた耕作地よりも肥沃であることはあり得ないからである。高騰する食糧価格の恩恵を受けるのは従来の地主である。(ハイルブローナー『世俗の思想家たち』2001)

2012-07-04 14:00:39
H.Takano @midwhite

つまり、スミスの描いた世界に土地が肥沃なものとそうでないものに分かれることを組み入れると、リカードの描く世界になる。そこでは食糧価格の高騰に労働者も資本家も苦しみ、従来の肥沃な土地を所有していた地主だけが収益率の上昇に喜ぶ。(ハイルブローナー『世俗の思想家たち』2001)

2012-07-04 14:02:45
H.Takano @midwhite

であれば、リカードが穀物条例と戦い、イギリスに安価な穀物をもたらす自由貿易の利益を説いたことは、何ら不思議ではない。そして新興の資本家階級がリカードの説明の中に、自らの必要に合致した理論を見出したことも極めて自然なことであった。(ハイルブローナー『世俗の思想家たち』2001)

2012-07-04 14:12:45
H.Takano @midwhite

しかし、実際にはリカードの想像した悲惨な社会は到来しなかった。というのも、産業家たちは最終的に安価な食糧の輸入を勝ち取ったからである。同様に、マルサスが予見したような、国の資源を枯渇させるほどの急激な人口成長も実際には起きなかった。(ハイルブローナー『世俗の思想家たち』2001)

2012-07-04 14:18:22
H.Takano @midwhite

しかし、かの穀物条例が未だに廃止されていなければ、リカードの理論は非常に説得力を持ち続けていただろう。現在の社会は、産業生活の速度が我々をマルサス的な状態から救い、そのことによってリカード的なジレンマを免れているに過ぎないのである。(ハイルブローナー『世俗の思想家たち』2001)

2012-07-04 14:28:08
H.Takano @midwhite

また、マルサスは別に「一般過剰供給」、即ち買い手の無い商品の洪水があり得ることを心配したが、リカードにとってそれは論理的に不可能な現象だった。イギリスがかつて経験した不況は、それぞれ銀行の破産や戦争など特殊な原因が見出されていた。(ハイルブローナー『世俗の思想家たち』2001)

2012-07-04 14:38:35
H.Takano @midwhite

この議論においてリカードの意見を補強したのはセイだった。彼は第一に商品に対する「欲望」は無限であると信じ、また第二に全ての商品の生産費用は同時に誰かの所得であり、全ての商品は生産された時点で購買力の存在が保証されていると考えた。(ハイルブローナー『世俗の思想家たち』2001)

2012-07-04 14:41:48
H.Takano @midwhite

この二つの単純な命題は、生産された商品は全て必ず消費されるとする「セイの法則」を導いた。マルサスはそれに対して、貯蓄という行動が財に対する需要を供給よりも少なくしてしまう可能性を指摘したが、リカードは著陸を全て将来の消費と看破した。(ハイルブローナー『世俗の思想家たち』2001)

2012-07-04 14:45:17
H.Takano @midwhite

エンゲルスは父親の営む繊維業に従事すべくマンチェスターにやってきた。その快い街路や別荘の並ぶ街の裏、工場主が事務所へ赴く際に見なくても済むような位置に、希望なく残酷な人生に背を向けて親子共々が麻薬に浸る呆然とした人々が隠されていた。(ハイルブローナー『世俗の思想家たち』2001)

2012-07-04 17:12:40
H.Takano @midwhite

エンゲルスはマンチェスターを踏査し、見たままを『1844年における英国労働階級の状態』に書き記した。ある時その惨状を友人の紳士に語ると友人は静かに聞き入った後に言った。「だがしかし、そこで儲かる金ときたら大したものだよ。じゃ失敬。」(ハイルブローナー『世俗の思想家たち』2001)

2012-07-04 17:17:00
H.Takano @midwhite

マルクスがブリュッセルで活動を始めて間もなく、ヴァイトリングというドイツ人の革命家が訪ねてきた。彼の両足にはプロシアの監獄での鉄鎖の傷が残り、長い間ドイツの労働者のために無私にして勇敢な努力捧げてきた経歴を持っていた。(ハイルブローナー『世俗の思想家たち』2001)

2012-07-04 18:11:48
H.Takano @midwhite

ヴァイトリングはマルクスと正義や同胞愛、連帯を語るべく来訪したが、彼は社会主義の科学的原理について情け容赦ない反問を受けた。満足に答えられない彼に対し、マルクスは叫んだ。「無知が人のためになった試しは無い。」こうして接見は終わった。(ハイルブローナー『世俗の思想家たち』2001)

2012-07-04 18:15:42
H.Takano @midwhite

マルクスは『資本論』の完結に18年を要している。2,500ページが、読み通す努力を厭わぬ豪胆な人を待ち受けている。のある部分はごくちっぽけな技術的問題の為に数学的な精緻を極め、別な部分には情熱と憤怒が渦巻いている。(ハイルブローナー『世俗の思想家たち』2001)

2012-07-04 18:59:59
H.Takano @midwhite

マルクスは全ての経済学者の著作を読破した経済学者であり、情熱的な几帳面さを持ったドイツ的衒学者であり、資本は「頭から足先まで、ひとつひとつの毛穴から血と汗をしたたらせながら」この世に産み落とされたと告げる情緒的な批評家でもある。(ハイルブローナー『世俗の思想家たち』2001)

2012-07-04 19:02:31
H.Takano @midwhite

エジワースは経済学が数量を扱うためにそれが数学に変換可能である点に魅せられた。その変換は初期の経済学者たちが目指した世界の正当化、説明、非難、展望といった行為の放棄と引き換えに、鮮やかな正確さと見事な厳密さを持った世界を生み出した。(ハイルブローナー『世俗の思想家たち』2001)

2012-07-04 21:17:17
H.Takano @midwhite

経済学者の異端児バスティアは、公共の福祉と個人の副詞が衝突するという経済システムの逆説を指摘した。我々は個人的利益に基づく自動調整メカニズムが、自動的とは程遠い政治構造によって常に悪用されている時に、それを信用することができるのか。(ハイルブローナー『世俗の思想家たち』2001)

2012-07-04 22:01:47
H.Takano @midwhite

経済学の異端者ヘンリー・ジョージは、産業家の利潤を洞察力と工夫の才能から得られる報酬であるとして正当化したが、地代が何ら洞察力や工夫に基づかず、社会に対して全くサービスを提供しない点で非難し、地代を吸収する思い単一課税を主張した。(ハイルブローナー『世俗の思想家たち』2001)

2012-07-04 22:40:07