ランデブーのVバー接近の解説

スペースニュースダイジェスト Vol.45 http://news.space-podcast.net/article/56776946.html で、中国の天宮1号と神舟9号のランデブーに関する話題がありました。ランデブーの最終接近には、速度(velocity)方向の前後から接近を行う「V-bar」方式と、半径(radius/radial)方向の上下から接近を行う「R-bar」方式があります。神舟は後方からのVバー接近で、中継のCGでは上向きにスラスターを噴射している様子も再現されていたそうです。Vバー接近では前後から接近するのに、なぜ上下のスラスターを噴射するのか、直感的にわかりにくいと思うので解説しましょう。
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平山🛰 @H_Hirayama

#PSND ランデブーのVバー接近で、後ろから近づく場合に、小刻みに上向きの噴射(下向きの推力)を与える理由について。解説します。

2012-07-06 12:22:02

ここでは宇宙工学者以外にも理解してもらいやすいよう、一般の物理学の慣例でXYZ座標をとって解説します。X軸が水平で右向きです。

ちなみに宇宙工学ではランデブー問題は「RSW座標系」を使うことが多いです。RSW系では、X軸が半径方向R、Y軸が進行方向S、Z軸が軌道面法線つまり角速度ベクトル方向W。そしてグラフは進行方向を左に描きます。北半球から見下ろしたイメージなのだと思います。きく7号やHTVのランデブー解説図もそうなっていると思うので、このまとめの図と見比べるときは左右逆に考えてください。

平山🛰 @H_Hirayama

宇宙船がステーションと同じ軌道を同じ速度で少し遅れて飛行する場合、ステーションから見ると後方に止まって見えます。ここをスタート地点とします。進行方向をX、上をZとしましょう。

2012-07-06 12:22:15
平山🛰 @H_Hirayama

後の説明のため、一例として宇宙船に前方斜め下向きの初速度Vx=+1m/s,Vz=-1m/sを与えた場合の、ステーションから見た相対運動を解説します。(現実より速いですが、きりのよい数字で)

2012-07-06 12:22:24
平山🛰 @H_Hirayama

前向き速度による遠心力増加が大きいため、下向き速度成分に勝って、高度が上昇し始めます。 http://t.co/1N3zEE0H

2012-07-06 12:22:34
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平山🛰 @H_Hirayama

高度が上がるとこんどは、角運動量保存(ケプラーの第2法則)のため速度が落ちます。 http://t.co/xANdF394

2012-07-06 12:22:45
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平山🛰 @H_Hirayama

この、上昇して速度が落ちる効果のほうが、最初に与えた前向き速度より大きいので、全体として-X方向へ後退する運動になります。以後この曲線を繰り返し。この形を覚えておいてください。 http://t.co/Bh9ysL8D

2012-07-06 12:22:56
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平山🛰 @H_Hirayama

さて、軌道の形の対称性を考えると、下向きスタートから上昇に転じて、元の高度(ステーションの軌道高度)を横切るとき、速度は斜め上向きVx=+1m/s,Vz=+1m/sになっています。 http://t.co/7ZzqpSlp

2012-07-06 12:23:10
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平山🛰 @H_Hirayama

もしここで上向きの噴射(下向きの推力)で速度変化ΔVz=-2m/sを与えると、Vxはそのままで、Vz=-1m/sつまり、スタートの条件と同じになります。するとこんな軌道。 http://t.co/rGwZU8TJ

2012-07-06 12:23:23
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訂正「減点」→「原点」

平山🛰 @H_Hirayama

あの曲線軌道は全体的に後退していますが、ステーション軌道より低い、前進している弧の部分をつなぎ合わせてゆくのです。ステーションを座標減点で描き直してみます。これが後方からのVバー接近。 http://t.co/l10DjGWB

2012-07-06 12:23:44
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平山🛰 @H_Hirayama

前方からのVバー接近は点対称に考えてください。

2012-07-06 12:23:52
平山🛰 @H_Hirayama

この方式の優れている点は、もしも不具合が起こって、ΔVzが与えられなかったとき。自然に遠ざかる軌道に入るので、ステーションに対して安全なのです。 http://t.co/2Gkcr6Eb

2012-07-06 12:24:10
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平山🛰 @H_Hirayama

下向きの推力は間欠的な噴射で与えますが、平均的に推力Fだとしましょう。ステーションの軌道半径R、速度V。宇宙船の質量m、相対速度vで接近するとすると、下向きに重力と推力、上向きに遠心力が釣り合うので、 http://t.co/ClXw2eGy

2012-07-06 12:27:16
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平山🛰 @H_Hirayama

いまの解説で使ったシミュレータはJavaで自作。ここからダウンロードできます。 http://t.co/yy8tZ8X6

2012-07-06 12:33:02

参考文献

河野功, 杢野正明, 鈴木孝, 小山浩, 功刀信
ETS-VII 自動ランデブ接近軌道の設計
日本航空宇宙学会論文集, Vol. 49 (2001) No. 575, pp. 432-437
http://dx.doi.org/10.2322/jjsass.49.432

松永三郎(東京工業大学)
宇宙機の相対運動(ヒル方程式、CW方程式の導出)
http://lss.mes.titech.ac.jp/~matunaga/Hill-Equation.pdf

リンク Wikipedia ヒルの方程式 ヒルの方程式(Hill's equations あるいは Clohessy-Wiltshire equations)とは、衛星軌道を動く質点のそばを動く別の質点との相対運動を表す式であり、宇宙ステーションのような人工衛星とのランデブーのための基礎方程式となる。 単純化のため、円軌道に限定する。軌道上の質点(ターゲット)に、ターゲットとともに動く座標原点をおき、軌道中心から軌道の直径の外向きに x軸をとる。(すなわち、地球を回る人工衛星ならば、 つねに地表側が下となるような座標系とする。)また軌道運動の進行

↑ ウィキペディアに「ヒルの方程式」がありました。
CW解が無かったので加筆してあげました。

リンク PC Online 地上の常識では非常識に思える、宇宙の常識 前回、「映画の描く宇宙と、現実の宇宙は違う」という話を書いた。そして、映画の描く宇宙は地上に生きる私たちの常識に合わせたものだ、ということも。 このことは逆に言えば、宇宙では、地上の常識では非常識に思えることが常識となるということだ。