茂木健一郎(@kenichiromogi)さんの連続ツイート第650回「絵画の、かけがえのなさについて」
- toshihiro36
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滞在中のアイルランド、ダブリンは、今午前6時23分です。連続ツイート第650回をお届けします。文章はその場で即興で書いています。本日は、昨日のフェルメールに触発されて!
2012-07-10 14:24:12かか(1)小学館から出ている「『モナ・リザ』に並んだ少年: 西洋絵画の巨匠たち」 http://t.co/7lJnO3aJ は、西洋絵画の名作について連載したものをまとめたもの。図版もたくさんあって、とても良い本なので、ぜひお読みください!ところでこのタイトルですが、
2012-07-10 14:26:03かか(2)まえがきだか、あとがきに書いた、小学生の時に日本に「モナリザ」が来て、上野で何時間も並んで見たという経験に基づいています。あの時、母親と一緒に博物館の周りをぐるぐる何重にも巡って待って、いよいよモナリザが近づいてくると、「止まらないでください」と言われて数秒で終わった。
2012-07-10 14:27:31かか(3)今日、ルーブルに行けば、もっとゆっくり「モナリザ」を見ることができる。しかし、私は、あの時、上野で何時間もぐるぐる待って、たった数秒だけ「止まらないでください」「押さないでください」と言われながら見た「モナリザ」の気配が、なぜか忘れられないでいるのです。
2012-07-10 14:28:39かか(4)私の親友の郡司ペギオ幸夫(神戸大学)が、ある時、「一人の命のかけがえのなさは、国宝のかけがえのなさに似ている」と言ったことがあって、それを私はずっと覚えているのですが、「モナリザ」のかけがえのなさは、一人の命のかけがえのなさに、確かに似ているように思います。
2012-07-10 14:29:54かか(5)亡くなった吉田秀和さんに、海の見えるレストランでお目にかかったとき、目の前にいるその方の気配に、確かに「モナリザ」と同じものを感じていた。そして、人格というものは、私たちを構成している分子の時空間パターンのユニークさの中にあって、決して還元できないものである。
2012-07-10 14:31:01かか(6)その絵が、この世に存在することで、空気が変わってしまうように、私たち人間もまた、一人ひとりが存在することで、周囲の空気が変わってしまいます。目の前の人に向き合うときの魂の態度は、きっと、「モナリザ」に向き合う時の態度に似ている。だからこそ、絵は福音となるのでしょう。
2012-07-10 14:32:24かか(7)昨日、私は、アイルランド国立美術館に、フェルメールの「手紙を書く女」に会いに行きました。実は、渋谷の文化村でも最近会っていたのだけれども、今度は彼女の自宅で会うことになった。人が、その居場所で雰囲気を変えるように、フェルメールのこの名画も、違ったたたずまいの中にあった。
2012-07-10 14:33:38かか(8)時の流れは、誰にも押しとどめることができない。この世にいる人は、やがて、すべていなくなってしまう。それを思えば、いがみあったり、敵対することは愚かなことだと思います。そして、絵画は、やがては消えてしまう人のユニークさの似姿を与えてくれるから、大切なものなのでしょう。
2012-07-10 14:34:49かか(9)ダブリンで知り合ったMBAの学生さんたちや、アイスクリーム屋にいるへんなもみあげの青年や、セラピーをしている旅行者とギネスを飲みながら、見たばかりのフェルメールの残照の中にあって、人間というユニークさに向き合っていました。あの夕べはもうないけど、フェルメールは残ります。
2012-07-10 14:36:30