【夏の夜】突破短編。

佐紀、ミタカ、貴史、傑、晴香の夏祭り。
0
ミタカ @C_Mitaka

今日、期末テストが終わった。みんな一気に夏休みモードになる。でも短縮授業が一週間あるからまだ学校は終わらない。一週間ぶりの部活は楽しかった。疲れたけど。楽しくない日も多いけれど、久しぶりに後輩たちと会えて楽しくなかったなんてことはない。でも今日はそれだけじゃないんだ。

2012-07-10 21:14:09
ミタカ @C_Mitaka

携帯が光って受信メールを知らせる。『予定通り石段の前しゅうごーう(*`ω´ *)』ミタカくんからのメールだ。ぱちりと携帯を閉じて、私は電車に飛び乗った。今日は学校からふたつ目の駅にある小さな神社の縁日だ。

2012-07-10 21:17:43
ミタカ @C_Mitaka

ホームから階段を駆け上がる。改札を抜けて横断歩道を渡って、駅前の時計をみれば7:23分。ギリギリ間に合いそうだ。教科書やノート、そして楽譜がぎっしり詰まった重い鞄を肩に掛け直して走った。

2012-07-10 21:19:38
ミタカ @C_Mitaka

神社の手前から夜店が並んでいる。ベビーカステラ、たこ焼き、フランクフルト、お面、からあげ、スーパーボールすくい、とうもろこし。いろんな声や音が飛び交ってガチャガチャうるさい。私はよく目立つ、あの黄色い頭を探した。

2012-07-10 21:21:38
ミタカ @C_Mitaka

いた!青い携帯を耳に当てている。握りしめた携帯が振動する。人を掻き分けてやっとそばにたどり着いた。 「あ、来た!」 ミタカくんは笑って携帯をしまう。 「時間ぴったりでしょ?」 「さっすが佐紀ちゃんだね」 紺色の浴衣を来た晴香も笑って言う。でしょ?と私も笑った。 「浴衣いいなあ」

2012-07-10 21:24:47
ミタカ @C_Mitaka

「去年と一緒だけどね。こういう時にしっかりきとかないともったいないし」 「ミタカくんは甚平かー。お祭りっぽい」 白黒のセーラー服の自分の格好を見下ろしてなんだか浮いている気がした。 「楽だな、これー! 佐紀は部活お疲れ」 「ごめんね、部活あるからって遅い時間にしてもらって…」

2012-07-10 21:27:49
ミタカ @C_Mitaka

「いいよいいよ。どうせ花火は8時半からだしさ。お、二人が戻ってきた」 おーい、と晴香が手を振る方には傑くんと貴史がいた。 「佐紀じゃん、着いてたんだ」 「うん、さっき着いた」 「じゃこれやるよ」 傑は持っていたラムネうちの一本を差し出す。 「貴史、それ俺の!」

2012-07-10 21:31:04
ミタカ @C_Mitaka

「コーラって言ったのミタカなんだ。しかも瓶のとか注文つけてる」 「だってせっかくお祭りだからそれっぽいのがいいじゃん、ありがとな」 「じゃ、行こう。佐紀ちゃんなに食べる?」 「俺は綿飴!」 「甘くないのがいいな。お腹すいたし、焼きそばとか!」

2012-07-10 21:33:07
ミタカ @C_Mitaka

焼きそばとたこ焼きとあとフランクフルトを食べて、デザートにかき氷。私はレモン味。晴香はメロンで傑がいちご、貴史とミタカがブルーハワイ。変な色になった舌と唇をみて笑った。それからミタカくんは宣言通りに綿あめを食べた(袋はプリキュアだった)。

2012-07-10 21:37:01
ミタカ @C_Mitaka

金魚すくいで奮闘して、射的で貴史の意外な才能を発見した。ミタカくんは袋いっぱいにスーパーボールをすくって、すくい過ぎてもうすくわないでくれって言われてた。

2012-07-10 21:37:59
ミタカ @C_Mitaka

じゃんけんで負けた人が罰ゲームで変なお面かぶらされた、私は珍しく負けなかった。いつもは負けるんだけど。なんかのキャラクターのお面をかぶらされた貴史が居心地悪そうにしている。射的の景品だった水鉄砲を何故か傑くんが持っていて、水のかけあいみたいになってる。 「そろそろ時間だよ」

2012-07-10 21:40:35
ミタカ @C_Mitaka

「マジかよ、行こうぜ」 もうすぐ花火があがる。 「貴史、神社の裏の階段を上がったらいい場所があるんだって言ってたよな?」 人が集まり始めてあたりはとてもうるさい。でかい鞄が人に引っかかって思うように進めない。 「うん、僕はいつもそこからみてた。多分人も多くないはず」

2012-07-10 21:43:44
ミタカ @C_Mitaka

「よーし、貴史に続け!」 傑くんが言ってわっとみんなで駆け出した。喧騒に負けないように大声で会話するのがなんだか気持ちいい。意味もなく高揚する。でも見失ってしまいそうだ。

2012-07-10 21:45:10
ミタカ @C_Mitaka

「佐紀、こっち」 はぐれそうになっているとミタカくんが私の手を引いていった。左手には水鉄砲を持っている。佐紀ちゃんと呼ぶ晴香の声がする。ミタカくんと無理やり人の流れを横切って、なんとか目的地にたどり着く。

2012-07-10 21:47:00
ミタカ @C_Mitaka

「よく見えるじゃん、さすがは貴史」 「ばあちゃんも小さい頃ここから花火見てたんだって」 「そうなんだね」 時間を確認すると29分。もう上がるよ、と言おうとした声は湧き上がった歓声に掻き消された。 どーん、と一発目が花開く。

2012-07-10 21:49:05
ミタカ @C_Mitaka

それから立て続けに何発も上がり、いろんな色が空に咲いた。きっといま、この辺りにいる人はみんな空を見上げているのだろう。神社から、あるいは家の窓から、バイト先から、学校から、会社から。

2012-07-10 21:50:59
ミタカ @C_Mitaka

ミタカくんがこっちをみて何かを言うけれどまた花火の音と重なる。悪戯っぽく笑ったミタカくんは至近距離から傑くんの首筋に水鉄砲で攻撃していた。びくっとした傑くんが振り返り文句をいう。その向こうで飽きれている貴史と写メを撮ろうと携帯を構える晴香。

2012-07-10 21:52:47
ミタカ @C_Mitaka

高校生最後の夏。私はまだ部活をやっていて、貴史は頭のいい大学を受験するといっていた。晴香は今度専門学校のオープンキャンパスに行くらしいし、ミタカくんはもしかしたらスポーツ推薦だとか。傑くんはまだ決めてないと笑いながら言っていたけど、これからきっとみんな忙しくなるんだろう。

2012-07-10 21:54:55
ミタカ @C_Mitaka

次にこうやって集まるのはいつだろう。花火の音を聞きながらそんなことを考える。いまこの瞬間をもっと楽しみたい。でも先のことも気になるんだ。

2012-07-10 21:56:50
ミタカ @C_Mitaka

来年の今頃にはそれぞれの進路に進んでいる。みんな同じ学校ではないだろう。当たり前だったことが当たり前じゃなくなって、いつかは連絡も途切れるかもしれない。わからない。

2012-07-10 21:58:15
ミタカ @C_Mitaka

でもできればまた五人でお祭りに来たい。わけもなくはしゃいで花火を見ていたい。口には出さないけど。

2012-07-10 21:59:08
ミタカ @C_Mitaka

花火が終わって人もずいぶん減って静かになった。とはいえまだ夜店はたくさんでている。私は鞄の中から水筒を出してお茶を飲んだ。もうぬるくなっていた。ミタカくんがりんご飴が食べたいと言うから探している途中だ。 「こっちの方でさっき見ただろー?」 「そう?僕はもっと入口の方で見たけど」

2012-07-10 22:02:09
ミタカ @C_Mitaka

「何軒かあるんじゃないの、りんご飴ならさ」 「探すとないもんだなーへんなの」 花火がおわり熱が冷めて行く。お祭りも終わりへ向かって行く。 「貴史は夏休み忙しいの?」 「どうかな。もしかしたら塾に夏期講習だけ行くかもしれない」 「塾かーやだな…。でも俺も行った方がいいのかな」

2012-07-10 22:04:51
ミタカ @C_Mitaka

「お前推薦じゃねーの?」 「推薦で行きたいけど部活辞めれないらしいしそれはめんどくさいかなーと思い始めたとこ。大学生っていったら遊んだりバイトしてみたいじゃーん」 「おお、ミタカくんが真面目なこと言ってる!」 晴香がわざとらしい声で驚いて見せる。 「俺はいつでも真面目だし!」

2012-07-10 22:07:10