『死霊解脱物語聞書』読中妄想感想文(下)

昨日トゥギャった〈『死霊解脱物語聞書』読中妄想感想文〉(←これを(上)ってことにする)の続編。本編を読み気がある人に取ってネタバレし過ぎることになるので切り分けることにした。なので以下ネタばれ大会です。
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TAKASHINA,Tsunehiro @J_for_Joker

下巻に入って早々、また累が菊にとりつく。これで3回目。1回目から2回目は1カ月あったけど、今回は10日くらい。名主・年寄の対応も「またかよ」的になっていておかしい。そりゃそうだ。感動の最終回で盛り上がった1カ月後にパート2、2週間後にパート3じゃ、さすがにね。『死霊解脱物語聞書』

2012-07-12 21:14:23
TAKASHINA,Tsunehiro @J_for_Joker

累が言うには、っていうかもう累を演じる気もないらしく、累のメッセージを預かる菊が言うには「まだ石仏できてないし、嘘ついたな」というのだ。実際にはその2日後に完成するスケジュールなのに。名主・年寄も「本物の霊ならスケジュールわかれ」的に言い捨て即引き上げる。『死霊解脱物語聞書』

2012-07-12 21:15:30
TAKASHINA,Tsunehiro @J_for_Joker

ここまででちょっと気になること。初回は菊の父(累の夫)与右衛門と怪談調の会話の中身があり、菊の夫の金五郎も名前が出てきたが2回目、3回目とセリフどころか名前も出て来ない。あまりにも軽い扱いが逆に目を引く。『死霊解脱物語聞書』

2012-07-12 21:42:25
TAKASHINA,Tsunehiro @J_for_Joker

さていよいよエクソシスト祐天の登場。「行く行く」と言ったかと思うと「師匠に恥かかすとマズいからやめ!」と前言撤回。次の瞬間には自分の力を試したくてうずうずして「やっぱ放っておいても寺に迷惑かかるし行くか」とコロコロ変わるせわしない男。野心家には違いない。『死霊解脱物語聞書』

2012-07-12 22:09:46
TAKASHINA,Tsunehiro @J_for_Joker

学僧として学んだマントラを次から次に繰り出すが面白い程効果がない。やり尽したところで祐天、モードを切り替えることにした。恐らく菊の反応を見ていて「もっとダイレクトにやらんとダメだなこの女は」と判断したのだろう。この辺の切り換えやハッタリは祐天の方が菊より上。『死霊解脱物語聞書』

2012-07-12 22:15:37
TAKASHINA,Tsunehiro @J_for_Joker

「やはり狐狸妖怪の仕業だ」と決めつけ「菊を殺しておれも死ぬ」とハッタリをかまし、最後は髪を引っつかんで直接行動。機転の利く菊に考える余裕すら与えず畳み掛けて攻撃し、まんまと自分のペースをつくる。でも菊の往生際の悪さも見て取る。パフォーマー同士の駆け引きだ。『死霊解脱物語聞書』

2012-07-12 22:19:39
TAKASHINA,Tsunehiro @J_for_Joker

いかん。寝落ちしてしまった。

2012-07-13 05:34:24
TAKASHINA,Tsunehiro @J_for_Joker

さて死霊解脱に成功した祐天は興奮して眠れずよく未明には勝利の現場をかみしめに訪れ、ぱっとひらめく。放っておくとこの女はまたやる。解脱の効果を持続するには蝶よ花よと大事にしてやるに限る。名主・年寄にも言いつけ、寺の出納係にも言うと住職の壇通も乗ってきた。『死霊解脱物語聞書』

2012-07-13 06:10:21
TAKASHINA,Tsunehiro @J_for_Joker

恐らく祐天は個人のパフォーマンスの効果を維持したかったレベルだが、さすがに住職の壇通は一枚上手で、この一連のできごとを弘経寺の、いや浄土宗のありがたさを伝える広報の素材に活用しようと思いついたのだ。真にコワいのは死霊ではなくエラい人という話にも読める。『死霊解脱物語聞書』

2012-07-13 06:12:54
TAKASHINA,Tsunehiro @J_for_Joker

ここで残寿がわかりやすいまとめを行っている。つまりこれら一連のできごとは現世でのことの因果、来世での応報、読経と念仏の比較、報恩論など大事な話を含んでいてしかも死霊は浄土宗のおかげでみごと成仏し往生した、というプロパガンダとして使えるというのである。『死霊解脱物語聞書』

2012-07-13 06:39:15
TAKASHINA,Tsunehiro @J_for_Joker

この話がヒットしたのは、こうやって残寿がしゃしゃり出て「まとめ」みたいなことを言って読者を安心させておいてからさらに展開があるところだろう。はい。出ました。累、四たびの登場です。それも弘経寺の大事な式典に合わせて。衣類や食べもので買収されるタマではなかった!『死霊解脱物語聞書』

2012-07-13 06:45:49
TAKASHINA,Tsunehiro @J_for_Joker

目論見がはずれた祐天は一瞬虚をつかれたものの、浄土宗のPRキャンペーンを台無しにされてはなるものかと気を取り直して現場に駆けつける。さあ、そこは大騒ぎ。村の人口を遥かに越える見物の群衆が与右衛門の家を十重二十重に取り巻いている。クライマックスは近い!『死霊解脱物語聞書』

2012-07-13 06:48:42
TAKASHINA,Tsunehiro @J_for_Joker

おっと違った。累ではなかった! 確かに菊の様子は今までに百倍するような、宙に舞い上がり、目玉は飛び出しての、のたうちまわり大会、しかも何のメッセージもなく無言での七転八倒。様子が違うと思っていたらなんと、別口の登場だ。面白い。面白すぎる。『死霊解脱物語聞書』

2012-07-13 06:55:43
TAKASHINA,Tsunehiro @J_for_Joker

さて見えてきた。菊にこんなシナリオが書けるのか、入れ知恵をした者がいるかわからないが、言いたいことはこうだ。女、子ども、不具者、醜いもの、要するに弱者が問答無用で殺されるような価値観の社会がある。死霊は彼らの言葉にならぬ思いをかかえた哀れな存在だ。『死霊解脱物語聞書』

2012-07-13 07:11:29
TAKASHINA,Tsunehiro @J_for_Joker

累が醜く生まれたのにも理由があって、それは抵抗もできず実の母に殺された幼い男の子の話、金持ちに嫁ぐため実の子を手にかけた弱い女の話など、いつの時代にも聞くような無惨で哀れな物語。祐天も名主・年寄もその場に居合わせた群衆も涙して憐れむ以外何もできない。『死霊解脱物語聞書』

2012-07-13 07:22:04
TAKASHINA,Tsunehiro @J_for_Joker

感服するのは、最終的にこの「涙して憐れむ以外何もできない」設定を導き出したことだ。ある意味その場に居合わせた者はそういう価値観の社会の担い手として全員が加害者であり、全員が有罪なのだ。彼らは無惨に殺された幼子の成仏・昇天を祈り願う他何もできない。『死霊解脱物語聞書』

2012-07-13 07:24:20
TAKASHINA,Tsunehiro @J_for_Joker

それは恐らくこの聞き書きをまとめた残寿にとっても同じことで、さらには本書を読む読者にも同じこと。江戸時代だけではない。今の時代とて親の都合で無惨に命を散らす幼児は絶えず、目先の安楽のために我が子を手にかける弱い親はいくらでもいる。江戸時代だけの話ではない。『死霊解脱物語聞書』

2012-07-13 07:26:38
TAKASHINA,Tsunehiro @J_for_Joker

だからクライマックスのこのシーンは、「泣いて憐れむ以外何もできない」立場からすると大きな救済となるのだ。これは子どもが救われた話ではない。理不尽な世の中を構成する有罪の共犯者たち(つまり我々)の心を救うための幻想、つかの間のカタルシスなのだ。『死霊解脱物語聞書』

2012-07-13 07:29:05
TAKASHINA,Tsunehiro @J_for_Joker

累とは、菊とは何ものかという興味で読み始めた本書だが、途中から事件を自分の手柄にしようとする野心家祐天、プロパガンダとして利用しようとする弘経寺壇通が、菊本人や名主・年寄の弱点を突きながら駆け引きで大団円に持ち込む政治ストーリーに変貌した印象がある。『死霊解脱物語聞書』

2012-07-13 07:44:52
TAKASHINA,Tsunehiro @J_for_Joker

エンディング、菊は出家したいといい、祐天はこれを止める。ストーリー上は祐天が諄々とさとしてやめさせたみたいだが、どう見ても祐天は性差別丸出しの屁理屈でねじ伏せた形だ。民間にあって代々語り継がせたいという祐天の意図、もしくは寺内にスターは1人で十分ということか。『死霊解脱物語聞書』

2012-07-13 08:00:15
TAKASHINA,Tsunehiro @J_for_Joker

義父からの虐待を受け多重人格者となった菊が、無意識下で義父への復讐を果たそうとした第一の事件、栄光よ再びで起こした第二の事件まで上巻は村内の話。下巻に入るや祐天・弘経寺を巻き込んでにわかに位相が変化する。祐天主導の第三の事件、何者かが大団円を書いた第四の事件。『死霊解脱物語聞書』

2012-07-13 08:08:15
TAKASHINA,Tsunehiro @J_for_Joker

クライマックス、この世に極楽を現出せしめた与右衛門の屋敷は、その場に居合わせた近郷近在の者たちによって語り伝えられ、菊はあの世に行って帰り二人の死霊を救った救世主として崇められたに違いない。ひょっとしたら出家を願う振りをして断って欲しかったのは菊本人かも。『死霊解脱物語聞書』

2012-07-13 08:11:55
TAKASHINA,Tsunehiro @J_for_Joker

さてこうなるとこの事件は最初から最後まで菊という古今東西唯一無比のシナリオライターが書いた下総きってのスーパーアイドルになるための方便だった可能性が出て来る(最初はそこまで考えてなかっただろうけど)。プロパガンダに利用しようとした祐天・壇通より一枚上手だった?『死霊解脱物語聞書』

2012-07-13 08:15:05
TAKASHINA,Tsunehiro @J_for_Joker

『死霊解脱物語聞書』(小二田誠二解題・解説/白澤社)読了。おしまいの「解説」で、印刷された本の形を取った本編が、読者にとってどのようにリアリティーを獲得するのかが分析されていてこれまたいろいろ考えさせられた。この本、リライトして「ちょっといい話」にできるか挑戦したい。

2012-07-13 10:00:31