- naholograph
- 3191
- 1
- 0
- 0
地図 を てにいれた!
仕立屋のおはなし
この季節、仕立屋は忙しい。『和装』の注文が多いのだ。さてと夕方までには全ての注文を終わらせなくちゃ。氷涼祭か。私にとっては切なくて愛しくて。おっと、いけない。昔のことを思い出しそうになって頭を振った。考えちゃダメ。忙しさに感謝する。もうすぐ、氷涼祭が始まる。#空想の街 #仕立屋
2012-07-13 00:03:16この時期意外と多い注文は白いドレス。死んだ恋人と結婚式の真似事なんて可愛らしいじゃない?永遠の愛を誓って、満足したら、時間切れでお別れ。その後の遠距離恋愛、耐えられるかられないかはあなた次第です、みたいな。私は注文票を見直す。物語が落ちてないかしら。#空想の街 #仕立屋
2012-07-13 00:28:55やっぱりね。こういう店に頼むお客様だもの。伝票から漂う物語の匂い。うちは少しお高めのお店。けれどもお客様の細かな希望や欲望にお答えできちゃう店だから。お婆ちゃんに、男の子。揃いで2枚注文。前にウェディングドレス頼んでくれた子のお直しなんかもある。ミステリー。#空想の街 #仕立屋
2012-07-13 06:52:34老婆の場合
チャイムが鳴る。老婆が一人。「品物受け取りに参りました」ドレスのお客様だ。丹頂の羽から紡いだ糸で織られた布から作られた上品なドレス。老婆は笑う。「おかしいでしょ?こんなお婆ちゃんが」いいえ、と笑いかえすけれど、知りたい。聞きたい。気になるじゃない。#空想の街 #仕立屋
2012-07-13 15:10:53「お時間があればお茶でもいかがですか?」私の言葉に老婆は笑う。「恋の話でもしましょうか」さすが熟練の女子。わかってらっしゃる。「最高のお茶を淹れますね」白い湯気の向こう、老婆が窓の外をそっと見てる。人生の先輩からのお話。どんな物語が始まるのかしら。#空想の街 #仕立屋
2012-07-13 15:15:24「私の旦那様は記憶が零れる病気だったの」ゆっくりと老婆は語り出した。 氷涼祭は毎年、帰ってくるあの人と街を歩く。白いドレスの子達を見ると、あの人は言うの。お前をそろそろ嫁に貰わないとなって。あの人の記憶は曖昧で、私との結婚前まで零れてしまった様だった。#空想の街 #仕立屋 #老婆
2012-07-13 16:09:20毎年毎年、あの人は言うの。お前を嫁に貰わないと。あの人に新しい記憶を植え付けること、不可能だって思っていたから私は最初から諦めてた。だからその場で頷いて、ただただ笑うだけだった。そんな風に、何年も何年も過ぎていったわ。#空想の街 #仕立屋 #老婆
2012-07-13 16:16:08そしたら去年の氷涼祭。私に指輪が届いたの。勿論あの人からだった。あの人は、自分が頼んでいたことさえも忘れてしまっていたけれど、どうにかこうにか頑張って、私に指輪を届けたの。嬉しかった。とっても。忘れられちゃうからって何もしなかった私は、自分を恥じたの。#空想の街 #仕立屋 #老婆
2012-07-13 16:22:30私が覚えていられるのだから、それで十分だったのよね。それに、覚えて貰えなくとも、なかったことにはならないことに気づいたの。そこまで一気に話すと、老婆は紅茶に口をつけた。「あらおいしい」微笑む老婆はまるで少女みたいに可愛らしく、なんだか嬉しくなったんだ。#空想の街 #仕立屋 #老婆
2012-07-13 16:29:04「だから今年はこっちからって、決意のドレスなんですね?」問うと老婆は頷く。「決意というか誠意かしら?」頬が赤い。誠意なんかじゃない、これは愛だ。「旦那様を白いドレスで迎えてそのまま結婚式!そんな素敵なことされたら死の国になんか帰れなくなりそう」#空想の街 #仕立屋 #老婆
2012-07-13 16:36:30「嫌だわあなた勘違いしてる」へ?「あの人生きてるわよ」「でも確か氷涼祭りに帰ってくるって」「入院してる病院からこの日は帰されるの」「生きてるなら氷涼祭じゃなくても」「この日なら白いドレスの子が多いから、こんなお婆ちゃんでも少しは恥ずかしくないでしょ?」#空想の街 #仕立屋 #老婆
2012-07-13 16:46:36それに貴方みたいに、あの人が死者だと勘違いしてロマンチックな空想に浸ってくれる人もいるみたいだしね。老婆はそう続けた。真実だって十分ロマンチックじゃないって思う気持ちと、勝手に勘違いしてしてやられたっていう気持ちが混ざって、私は変な顔をしてたと思う。#空想の街 #仕立屋 #老婆
2012-07-13 16:54:17「素敵なお話有り難うございます」「それじゃ」大切そうにドレスを抱える彼女を見送る。あのドレスで愛する人とまた結ばれる。相手が覚えてなくたって彼女はきっと忘れない。あのドレスは幸せな記憶を作るだろう。作って欲しいな。そうすれば私の仕事は大成功だもの。#空想の街 #仕立屋 #老婆
2012-07-13 17:01:16お婆ちゃんとお孫さん
お友達の空想の街初参戦作品なので、
x_yuuri_xパートも全部まとめちゃいます
予報が出た!予報が出た!うきうきしながら空を見る。晴れ渡ってるわけじゃないけど、雨は降ってない。よし、よし!!準備しなきゃ。「ばあちゃーん!」孫が作った浴衣を着て、貴方を迎えに。「今年はちゃんと着れるかい?」「今年はほどけないよ、大丈夫!」 #空想の街
2012-07-13 08:40:47浴衣を来て、外に出る。今年の風船は、土星の形。星が好きだった貴方が笑う姿が目に浮かぶ。☆の形はありふれてるし、ね。「じぃちゃん、月も好きだった」孫の背中には、三日月の風船。二人揃って帯にくくりつけた。 #空想の街
2012-07-13 17:27:50あらら、こんなところに駄菓子屋さん。ずいぶん懐かしくなってちろりと覗く。騒がしいのが気になって外に出てみたけれど、原因を知る前に興味のあるものに目が向く正格は変わらないみたい。「こんにちは、お店やってますか?」#空想の街 #駄菓子屋 @atsuko0077
2012-07-13 17:58:21はいはい、どうぞ。遠慮なく見ていって下さいね。良かったら、お茶でも飲んで行って下さい。外は何かありました?私、何も知らなくて。 #空想の街 #駄菓子屋 @x_yuuri_x
2012-07-13 18:16:49まぁ、ありがとう。そう言って遠慮なく見せてもらう。本当懐かしい。あ、そうそう外ね。「ばぁちゃん。ちょっと見てくるよ!」言うや否や飛び出す孫。あぁもう。かわいい浴衣着てるのに…。ごめんなさいね、騒がしくて。#空想の街 #駄菓子屋 @atsuko0077
2012-07-13 18:27:50「可愛いお孫さん」口に出してみて、ふと寂しくなる。きっと娘には会えないだろう。孫が産まれたと便りを聞く事が有るだろうか。目の前のお客様がふと、羨ましくなる。「不思議なご縁ですね、私は、この街に呼ばれたのかも知れません」 #空想の街 #駄菓子屋 @x_yuuri_x
2012-07-13 18:46:48