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森瀬繚先生の『アーサー王伝説「石に刺さった剣」についての薀蓄』

「アーサー王伝説「石に刺さった剣」の刺し方が思ってたのと違ってた件」というブログ記事に対する森瀬繚先生のツイートまとめです。
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「アーサー王伝説「石に刺さった剣」の刺し方が思ってたのと違ってた件 現在位置を確認します。/ウェブリブログ」

http://55096962.at.webry.info/201203/article_9.html

石に突き刺さった剣、というモチーフは、最初からアーサー王伝説に存在したものではない。

マビノギオンにも、アーサー王伝説を歴史として書いたジェフリー・オブ・モンマスの著書にも、宮廷文学として仕立てたクレティアン・ド・トロワの物語にも、石に刺さった剣は登場しない。
それは13世紀頃の写本からはじめて組み込まれるようになり、15世紀のトーマス・マロリーの「アーサー王の死」まで受け継がれていく。

というわけで「石に刺さった剣」の描写なのだが、13世紀の写本のイラストがなんか思ってたのと違ってた。

森瀬 繚@6/17『宇宙(そら)の彼方の色』発売予定 @Molice

さて、何やら話題になっているこいつについて、例によって薀蓄る。アーサー王を巡る解説で時々見かける話のような気もするけれど。 http://t.co/ld5KvYl3

2012-07-15 10:41:01
森瀬 繚@6/17『宇宙(そら)の彼方の色』発売予定 @Molice

カリブルヌス、あるいはカリバーンと呼ばれるアーサー王の剣の初出は、モンマスのジェフリーによる12世紀の『ブリタニア列王史』。アヴァロンで鍛えられたとされている。アイルランド伝説、ウェールズ伝説との関連性については割愛。

2012-07-15 10:42:38
森瀬 繚@6/17『宇宙(そら)の彼方の色』発売予定 @Molice

さて、アーサーがその王位継承権を証明したという「石の中の剣」にまつわるエピソードの初出は、フランスの詩人ロベール・ド・ボロンの『メルラン』。手元の英訳本から関連の描写を引っ張り出すと、「大きな四角い石のブロックと鉄床が現れ、鉄床には石がはめられていた」。英訳ではFixedである。

2012-07-15 10:47:58
森瀬 繚@6/17『宇宙(そら)の彼方の色』発売予定 @Molice

違う。『メルラン』ではまってたのは石じゃなくて剣だろう。ばかじゃないの? ばかなの? と、.@moliceとかいう奴に呆れ果てた目を向けて詰るのだった。

2012-07-15 13:12:01
森瀬 繚@6/17『宇宙(そら)の彼方の色』発売予定 @Molice

ここで、是非ともフランス語原文を参照しておきたいのだけれど、さーて、どこかに転がっていませんかね--とりあえず、後回しにする。

2012-07-15 10:50:01
森瀬 繚@6/17『宇宙(そら)の彼方の色』発売予定 @Molice

ロベール・ド・ボロンの『メルラン』は、ランスロ=聖杯サイクルと呼ばれるアーサー物語群の一編で、聖杯の由来からこれと深く関わっていく騎士ランスロ(ランスロット)の数奇な運命、そしてアーサー王の死と王国の破壊が描かれる。後に、一続きの物語として手を加えられ、後期流布本サイクルを形成。

2012-07-15 10:54:35
森瀬 繚@6/17『宇宙(そら)の彼方の色』発売予定 @Molice

トマス・マロリーの『アーサー王の死』を読んでいて、文中に「フランスの本によれば」という具合にエピソード出典が頻出するのをご存知かと思う。この「フランスの本」のひとつ、というか大部分に該当するのがランスロ=聖杯サイクルで、同書第1巻第5章で描かれる石の剣の出現シーンはほぼそのまま。

2012-07-15 10:56:28
森瀬 繚@6/17『宇宙(そら)の彼方の色』発売予定 @Molice

ここで、気にしておかなければならないことがひとつあって--『メルラン』に登場した「石の中の剣」は、文中に名前が言及されていない。カリブルヌス、あるいはエクスカリバーと結びつけたのは読者の側で、ランスロ=聖杯サイクルの『メルラン続伝』の作者は、この剣をエクスカリバーとした。

2012-07-15 11:00:49
森瀬 繚@6/17『宇宙(そら)の彼方の色』発売予定 @Molice

付け加えると、この『メルラン続伝』の後期流布本版では、エクスカリバーの出自について「湖の貴婦人にもらった」とも書いているらしい。らしいというのは、まだ読めていないもので。このエクスカリバーの出自についての矛盾は、そのままマロリーの『アーサー王の死』に受け継がれている。

2012-07-15 11:03:42
森瀬 繚@6/17『宇宙(そら)の彼方の色』発売予定 @Molice

Tweetに間が空いてるのは、ひーこら言いながら原文を参照しつつ書いているからです。

2012-07-15 11:05:50
森瀬 繚@6/17『宇宙(そら)の彼方の色』発売予定 @Molice

'a great stone four square, like unto a marble stone; and in midst thereof was like an anvil of steel a foot on high, '

2012-07-15 11:09:13
森瀬 繚@6/17『宇宙(そら)の彼方の色』発売予定 @Molice

'and therein stuck a fair sword naked by the point'--「大理石のような、大きな四角い石(が現れた)。その真ん中には、くるぶしほどの高さの鉄のかなとこのようなものがあって、抜き身の美しい剣が切っ先を下にして突き立てられていた」

2012-07-15 11:12:07
森瀬 繚@6/17『宇宙(そら)の彼方の色』発売予定 @Molice

種本である『メルラン』の方になかった要素として、「切っ先を下に」云々のほかにも、fair sword naked(抜き身の美しい剣)などの形容が加わっていることに目が行きます。マロリーは、視覚的にかっちょいい描写になるよう手を加えているという事実。

2012-07-15 11:16:05
森瀬 繚@6/17『宇宙(そら)の彼方の色』発売予定 @Molice

のみならず、『メルラン』においては明確に「かなとこにはまっている/固定されている」となっている記述が、「かなとこのようなもの」とぼやかしてあるのもポイントです。13世紀頃の絵画において、剣がかなとこの窪みに挟まれたように描かれていたのは、当時の実際の鍛冶風景の反映でしょう。

2012-07-15 11:18:05
森瀬 繚@6/17『宇宙(そら)の彼方の色』発売予定 @Molice

「かなとこに剣がはまってる」と聞いて、当時の人々が自然に思い浮かべたのが、あの描写であったということです。マロリーはその連想を避けるべく、「かなとこのようなものに切っ先を下にして突き立っている」と、かなとこをわざわざぼやかして書いている。

2012-07-15 11:19:38
森瀬 繚@6/17『宇宙(そら)の彼方の色』発売予定 @Molice

説明が抜けてましたが、先ほど引用した英文が、マロリー『アーサー王の死』のものです。16世紀版。

2012-07-15 11:21:33
森瀬 繚@6/17『宇宙(そら)の彼方の色』発売予定 @Molice

とりあえず、書けることはこんな感じですかね。ランスロ=聖杯サイクルについては、末尾の「聖杯の探索」「アーサーの死」のみ翻訳されていて、残りについては今のところ英訳版頼りです。天沢退二郎先生のお弟子さんあたりが取り組んでいただけないものかと思う。

2012-07-15 11:26:58
森瀬 繚@6/17『宇宙(そら)の彼方の色』発売予定 @Molice

しまった、先ほどの'a foot on high'はくるぶしほどの高さじゃなくて、1フィートほどの高さでよいのか。約30センチですね。

2012-07-15 11:37:07
原田 実 @gishigaku

映画『エクスカリバー』(81)ではマーリンがアーサーにエクスカリバーとは世界というドラゴンの魂である旨講釈。ファンタジーのエコロジー的解釈が流行っていた時代らしいけど、八岐大蛇のおから出てきた天之叢雲剣(草薙剣)のイメージとも重なる。

2012-07-15 11:34:37
原田 実 @gishigaku

ちなみにその作品では、アーサーがかつて岩から引き抜いた剣を絶ち折ってしまい湖に投げ込んだところ、湖の美女が修復された剣を持って出てくるという形で王位の剣とエクスカリバーの同一性につじつまを合わせていた。

2012-07-15 11:37:51
森瀬 繚@6/17『宇宙(そら)の彼方の色』発売予定 @Molice

@gishigaku 割と最近、ランスロットの剣にまつわる探索で観直したばかりなんですけど、セリフの上では「同じ剣だ」という説明はされていないのですよね。何気に。(何やら神代の頃から存在した剣らしいので、自明ではありますが)

2012-07-15 11:39:17
諸葛亮証明 @nazotoki2012

有楽座の大銀幕で見ました RT @gishigaku 『エクスカリバー』81ではマーリンがアーサーにエクスカリバーとは世界というドラゴンの魂である旨講釈。ファンタジーのエコロジー的解釈が流行っていた時代らしいけど、八岐大蛇のおから出てきた天之叢雲剣(草薙剣)のイメージとも重なる

2012-07-15 11:38:36
原田 実 @gishigaku

思い出すに「お前が投げ込んだのはこの金のエクスカリバーですか、銀のエクスカリバーですか」とか言い出してもおかしくない場面。

2012-07-15 11:39:32
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コメント

むささび屋(,, -`x´-) @Josui_Do 2012年7月15日
エクスカリバーは剣はともかく、鞘の話はどうなってるんでしょ。持っていれば傷を受けない鞘はいつ頃紛失したのか。いろんな資料から持ってきたローズマリ・サトクリフの小説だと妖姫モルガンが盗みだしたとある。
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赤間道岳 @m_akama 2012年7月15日
夢を壊してごめんなさい。石の台座に剣が突き刺さっている絵(馴染みの深い方)を見ると、こういうの( http://www3.ocn.ne.jp/~suehiro/ribu9.jpg )が真っ先に思い浮かんでしまうのは土方の性(´・ω・`)
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かくた遠悟 @ka_ku_ta 2012年7月16日
森瀬さんが推測されている中世の金床は、おそらくこちらのような窪みがあったと思われます>http://www.anvilfire.com/anvils/sprillw_anvil_005.php
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森瀬 繚@6/17『宇宙(そら)の彼方の色』発売 @Molice 2012年7月19日
ちなみに、僕は意識的に「石の中の剣」と書いていて(『メルラン』の章題に基づく)、「石に刺さった剣」という言葉は用いておりませんので、為念。
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