【ゾンサバ小説】軍人サークと小さな夢【10日目~11日目】
10日目分(前半)
【10日目】(7/5)今日のhpsuke:【探索】君についてくるお調子者の青年。だが、とんでもない足手まといだった。いつの間にかはぐれたが大いに疲れた・・・。2のダメージ、食糧:−4 【体81食76】【親を失った少女】
2012-07-13 23:41:57町外れから離れるにつれ、周囲の様子も、危険度もひどく様変わりしてゆく。町外れには元々人が少なかったのか、古くからの廃屋が散見される一方、ゾンビの数もそれほど多くはない。それが中心部に近づく程に、建物の破損の痕跡が新しくなり、ゾンビとの遭遇頻度も確実に上がってゆく。238
2012-07-13 23:42:52その日8体目のゾンビを沈黙させたサークは、少し離れたところで待機するリッカを呼び寄せた。リッカは荷物番と周辺の警戒が主な役割だ。リッカ自身はもっと役に立ちたい素振りを見せているが、武器もなく、何の訓練もしていない一般人がゾンビと相対することはできない。これが限界である。239
2012-07-13 23:44:31「あんたばかりに任せるのも悪いし、あたしもゾンビと戦えるようになりたいんだけど…」歩きながらリッカが呟くが、サークは冷たく返した。「無理だ。身体能力の底上げも、戦闘技術を身につけるのも、一朝一夕にできることではない。まずは今できることを全力でしろ」「だよね…」240
2012-07-13 23:45:22「だが、技術や身体能力に比べて、メンタルの問題については状況改善が比較的容易だ。もちろんこれもすぐに実践できることではないが、心構えを知っておくだけでもできることはある」「というと?」リッカが問うと、サークは逆に問い返した。「質問だ。ゾンビの最も恐ろしい点はどこだと思う」241
2012-07-13 23:46:51「えっと。力が強いところ?」「違う」「じゃあ、なかなか死なないところ?」「そこでもない」「感染するかもしれないところ」「それも恐ろしいが、問題の本質は別だ」「まさか、顔が怖いとか?」「正解だ」リッカは口をぽかんと開け、目を瞬かせた。「ゾンビの最も恐ろしい点は、外見だ」242
2012-07-13 23:48:58「種としてのゾンビは、人間に対してそこまで優位な存在ではない」サークは真面目な顔で淡々と述べる。「力も生命力も強く、獰猛で恐れを知らない。だが、動きは緩慢で、耐久力は低く、知性がない。弱点があまりに明確だ。本来なら、上手く弱点を突けば勝てる可能性は誰であっても十分にある」243
2012-07-13 23:51:11サークは続ける。「ではなぜ人間がゾンビに勝てないのか。答えは明白だ。見た目が強い恐怖を喚起するからだ。実際に戦って強いか弱いか以前に、腐った体の恐ろしさ、行動のおぞましさに負けてしまう。冷静な判断力を失い、パニックに陥り、適切な対応が取れなくなる。だから勝てない」244
2012-07-13 23:53:04「じゃあ、それを我慢できるようになれば、勝てるってこと?」「少なくとも勝機は格段に跳ね上がる。もちろん戦術と対抗策と準備が必須だがな」「簡単に言うよね…」リッカは溜息をついた。「参考になるのかなんないのかわかんないや」「だが、怖がるだけの時より一歩前進はしただろう」245
2012-07-13 23:56:28「そうだけどさ…でも、やっぱ怖いよ」「少しずつ慣れていけばいい。そして、動きが遅くて頭も悪い生物をどうやって仕留めるかを常に考え続けろ。いざという時にすぐ思い出し実践できるように。だが、一番重要なのは逃げ足だな。準備が整ってなければ、戦闘を避けるに越したことはない」246
2012-07-13 23:57:09「そういうあんたはバカスカ戦ってる気がするんだけど…」そこまで言いかけて、リッカはふと足を止めた。「どうした?」「そこの家…。声が聞こえた気がする」リッカはすぐ横の民家を指差す。破壊の痕跡はなく、ゾンビの気配もない。「それにこの声は…ううん、なんでもない」247
2012-07-14 00:00:27「生存者か。調べてみるか」サークは民家の玄関先に近寄り、ドアを開けようと試みる。鍵がかかっていた。サークはリッカと顔を見合わせ、声をかけた。「誰かいるのか?」すぐに、中からどたどたと誰かが階段を下りてくるような音が聞こえてきた。ゾンビではないようだ。248
2012-07-14 00:01:24「暴徒の類かもしれん。一応下がっていろ」リッカは頷き、塀の陰に身を隠す。足音は玄関まで迫り、鍵を開ける音がした後、ドアが勢いよく開いた。中から出てきたのは、二十代前半くらいの長髪の青年だった。顔は満面の歓喜に染まっている。「おおお、人だ!生きてる人が僕の他にいたんだ!」249
2012-07-14 00:02:53「生存者か」「そうです!おじさんは…軍隊の人!?」青年の異様なテンションの高さになんとなくボブを思い出しながら、サークは尋ねた。「ここには一人か」「僕一人です。他に誰もいなくて、ずっと怖かったんですよ!」青年は早口でまくしたてる。「軍の救助隊が来てるんですね!やったー!」250
2012-07-14 00:04:22「残念だが、軍は壊滅した。救助隊は来ない」「えっ?」サークが告げると、青年は露骨にテンションを落とした。「そうですか…。助かったと思ったんだけどなー。じゃあおじさんは?」「軍から離れて単独行動中だ。連れは民間人一人だけだな」後ろを振り返った瞬間…リッカが飛び出してきた!251
2012-07-14 00:05:14リッカは憤怒の形相で青年の胸ぐらを掴むと、そのまま壁に押し付けた。「てっ…めえ…はっ!今までどこにいやがった!なんでこんなとこにいる!」「リ…ッカ…か?」青年が苦しそうにあえぐ。リッカは力を緩めない。「てめえがふらふらしてる間に、クルミも、親父も、母さんもみんな…」252
2012-07-14 00:06:10「落ち着けリッカ。事情を説明しろ。こいつは誰なんだ」サークがリッカを青年から無理矢理引きはがす。リッカは肩で息をしながら、吐き捨てるように言った。「妹の葬式にも来なかったクソ兄貴だよ」「ひどいなあ」青年は咳込みながら反論する。「知らなかったんだから仕方ないじゃないか」253
2012-07-14 00:09:23「知らなかったで済む問題じゃねえよ!」リッカは怒鳴る。「自分勝手にふらっと姿を消してんじゃねえ!」「だってあんな家にいたって仕方がないじゃないか」青年は首を振った。「親父は仕事仕事で家に帰らず、母さんは浮気三昧。お前は…不良と毎日遊び歩いていたしな」リッカは黙った。254
2012-07-14 00:11:14「兄妹喧嘩は後にしろ」サークはいがみ合う二人の間に割り入った。「今後のことを決めよう。お前はどうする。町外れの方向に一日と少し歩けば他に生存者がいる。それとも…」「僕もついていきます」青年は即答した。「妹を放っておけませんから」「よく言うな」リッカが険のある声で呟く。255
2012-07-14 00:12:33「わかった。武器と食糧はあるか?」「この家にあった包丁くらいしか…。食糧は、僕一人の分が辛うじて」「それでもいい。すぐに支度をしてくれ。それと」家の中に戻りかけた青年が振り向く。「なんですか?」「そろそろ名前を教えてくれ」青年は笑い、名乗った。「ニレです。よろしく」256
2012-07-14 00:13:3910日目分(後半)
厄介だな、とサークは舌打ちした。目の前にはゾンビが二体。高校の制服を着た少女達のゾンビだ。髪は一部が抜け落ち、顔面の肉はぼろぼろに崩れて生前の面影は残っていない。「ォォォ」蠅のまとわりつく手を伸ばし、サークにひたひたと迫る。口からは濁った色の液体がぼたぼた垂れている。257
2012-07-14 07:44:13サークは窓を塞いでいた板を轢きはがすと、片方のゾンビの顔面に向かって投げつける。ぐちゃりと肉の潰れる音がするも、ゾンビは全く怯んでいない。しかしサークの目的はすでに達されていた。一瞬だけゾンビの視界を奪った隙に、急なボディチェックをかけ一気に転倒させる!258
2012-07-14 07:45:38