ツイッターノベル 「迷宮の王国」

ツイッターノベル 「迷宮の王国」をお送りします。
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三宅陽一郎MiyakeYouichiro @miyayou

「望んでも得られず願っても叶えられず虚無と絶望に囲まれて、流れ行く時間の上になんとか自分の生を刻もうとする。それが人間というものだ。それでもおまえは人間の側に立って戦うというのか?」「そうだ。僕はあきらめない。絶望の中で王座にいるおまえより、希望をもって地を這う人間を俺は信じる」

2012-07-29 21:45:38
三宅陽一郎MiyakeYouichiro @miyayou

(続き)「思い出せ。この世界がおまえに何をして来たのか。生まれた街では心を壊され、追い出された街では体を砕かれ、おまえはもう人の形をしていない。」「確かに俺はもう壊れて人の形をしていない。それでも俺はこの世界を人を愛したいんだ。生を受けたことを感謝し命をつなぎたい。」

2012-07-29 22:17:34
三宅陽一郎MiyakeYouichiro @miyayou

(続き)「笑わせるな。壊れたおまえの中にもはや愛など存在しない。おまえが持っているのはその残像に過ぎない。実体はもうとうの昔に失われている。おまえは、おまえがかつて持っていたものを再現しようと踊っているに過ぎない。」

2012-07-29 22:20:06
三宅陽一郎MiyakeYouichiro @miyayou

(続き)「知っているさ。でも俺はそれでも、もう届かない硝子の向こうに大切なものの場所を探し当てた。だから俺の心にもうそれがなくても、それがあるように戦い続ける」「わからないのか。おまえ自身が虚無なのだ。私は絶望の王であり、おまえは虚無の具現者なのだ。共に世界に黄昏をもたらそうぞ」

2012-07-29 22:22:03
三宅陽一郎MiyakeYouichiro @miyayou

(続き)「違うな、王よ。確かに私は虚無だ。虚無の上に作られた偽りだ。だが、おまえはそうではない。絶望の王よ。おまえは希望だ。おまえは確かに心を持ち、確かに生きている存在なのだ。だから私がおまえを救いに来た。」「馬鹿な、虚無に絶望が救えるものか。我々は同じ暗闇の種族なのだ。」

2012-07-29 22:24:07
三宅陽一郎MiyakeYouichiro @miyayou

(続き)「王よ、私という虚無がなぜこの世界に生まれたか知っているか。私の内側は空虚であり、私はその上に苦しんで私という殻を作った。この殻は、その内側におまえを抱き、冷たい闇の力でおまえの絶望をぬぐうためにある。もとの世界に帰るのだ。」

2012-07-29 22:32:23
三宅陽一郎MiyakeYouichiro @miyayou

(続き)「ここが私の世界だ。」「王よ。愛を失ったおまえの王国には、もはや誰一人として民は存在しない。誰一人いない王国の王として、おまえは何に囚われている?」「私だ。私が私を呪うことによって、私は私という国のただ一人の国の王でいられる。」

2012-07-29 22:34:16
三宅陽一郎MiyakeYouichiro @miyayou

(続き)「孤独か?」「孤独だ。それは外に出ても変わらない」「いいや、違う。私がいる。私という虚無はおまえといつも共にいる。誰一人おまえに振り向かなくても、私はおまえの友であり敵なのだ。私はおまえの内に宿ろう。おまえは私と一生戦い続けるのだ。だから孤独でない。それが私の使命なのだ」

2012-07-29 22:36:06
三宅陽一郎MiyakeYouichiro @miyayou

(続き)虚無は消滅して王に宿り、王は王座を降りて人間となった。大人の物語はここから始まる。

2012-07-29 22:37:26