周辺から見る60年安保(2)――「ビルの内側から」(1960年)より

1960年、日米安全保障条約の改定をめぐって、日本中で反対運動が大きな盛り上がりを見せました。ひとびとはどのような思いから運動に参加したのでしょうか。  これまでは抗議やデモにかかわってきた方々の証言や記録を紹介してきました。これからは抗議やデモに参加していなかったひとびとや傍観者にとどまったひとびとの見解をとりあげてみましょう。今回は、『思想の科学』誌に掲載された「実務の中の思想」の会による東京のホワイトカラーへの聞き取りを紹介します。 出典: 『思想の科学』1960年7月号(特集:市民としての抵抗) 続きを読む
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dabitur @dabitur

[paper] 今日はこのへんをひとつ. / 「実務の中」の思想の会編「ビルの内側から」『思想の科学』1960年7月号, pp.66-74 http://t.co/itmVgZMT

2012-08-05 00:07:17
dabitur @dabitur

「デモの渦巻く東京駅八重洲ロに近いビルの一室で、ある有名会社の課長さんはい う。――騒がしいのは街頭だけだ。壁一つ隔てたビルの内側では、いつもと同じように整然たる秩序が保たれ、整然と仕事が進んでいる」(「ビルの内側から」, p.66)

2012-08-05 00:08:20
dabitur @dabitur

「〔1960年〕五月二十日以後の緊張した情勢の中で、我々のグループも殆んどが、何度かのデモに参加し、また集会に出たりした。*緊張と昂揚の感情が、また我々自身のものであった*。しかし、税々に共通したお互いの質問は次のようなものだった。『君のところはどうだい』」(ibid.)

2012-08-05 00:09:37
dabitur @dabitur

「そこでは、お互いの職場の空気はどうか、ビルの外側でこれだけ大きく渦巻いている運動の昂揚が、それぞれの職場でどのような変化に現われているか、もっとはっきりいえばそれがいったい職場の話題となっているのかどうか、ということ自体が、お互いの最大の関心事だった」(ibid., p.66)

2012-08-05 00:10:13
dabitur @dabitur

「あるメンバーは次のような記録をとどめている。『五月二十日の朝*新聞をみてがく然とした。興奮状態のまま満員電車に揺られ、話し相手を求めて会社にかけ込んだ。ところが*朝はもちろんのこと、現在に至るまで、私の職場ではタダの一言も今回の政府の暴挙は話題にならなかった」(ibid.)

2012-08-05 00:11:50
dabitur @dabitur

「私自身からも話はきり出さず、全くいつもとかわらぬ日常業務に浸った。しかも、あれほど興奮した私でさえ、会社の机に向うとやはり暴挙のことなど口にせず、ゆっくりとペンを走らせるのが一番自然に思えてくるのだ。*」(ibid., p.66)

2012-08-05 00:12:23
dabitur @dabitur

「少なくとも現われた面を見る限り、ビルの内と外とは、余りにも異なった秩序と雰囲気に分れており、我々はその両側を往復しながら、我々自身の位置のとり方にとまどいを感じねばならなかった」(「ビルの内側から」, p.67)

2012-08-05 00:13:11
dabitur @dabitur

「『ロカビリ歌手や映画女優も参加した』『六十歳の老教授もデモに加わった』これはたしかに今度の運動の広がりと質を示すものだが、我々はこの”も”〔原文傍点強調〕の視点になじめない」(ibid., p.67)

2012-08-05 00:14:24
dabitur @dabitur

「こんな人で”も”参加した、というのは運動の側の、できるだけ多くを迎えたいという視点であるが、日常の場での我々の周辺は、このような”も”の視点では殆んどが切断されてしまう*ビルの内側では、極めて平静にいつもと同じ実務が進行し、まるで何事もないかの如くなのである」(ibid.)

2012-08-05 00:15:09
dabitur @dabitur

「ビルの内側に働くホワイトカラー達は、どんな風に問題をみているだろうか。いくつかの典例をあげてみよう。あるレポートによれば次のようである」(ibid., p.68)

2012-08-05 00:15:58
dabitur @dabitur

「『企業体制のムードにすっぽり浸った中で今度の〔5月19日の〕強行採決のことを考えてみると、少なくとも一つの“事件”であるにすぎない。理由として、(1)せいぜい一カ月間の勝負である、(2)一つの民主的ルールの違反である、(3)政治上の”手“である、ということだ』」(ibid.)

2012-08-05 00:17:26
dabitur @dabitur

「『(1)についていえば、岸政府の危機ではあっても保守政権の危機ではないという計算が即座に働く。終身雇用の人生航路を、一ヶ月の勝負に深入りさせて壊してなるものか』(ibid., p.68)

2012-08-05 00:18:29
dabitur @dabitur

「(2)についてはかなり共感を持つ。しかし、モラリッシュな単純否定は時間とともに薄れていく。反作用的な運動の盛上りは、決してそれ以上の力にならないように感じれる。そこで、国会解散がかけひきのない引分けの方法として、みんなの心の願望の一点になっている」(ibid., p.68)

2012-08-05 00:19:35
dabitur @dabitur

「(3)については、かけひきに対する実務者のカンと、日常の労使間の交渉の経験などから、政治を類推する*。*強引な態度をみせつけておいて、*ある時期にさっと政府が引いて人々の心に穴をあけ一挙に大方針を通すという手の一つとして、あの強行採決が看取される」(ibid., p.68)

2012-08-05 00:21:43
dabitur @dabitur

「このように予め計算されたものに対し、無茶だと極めつけて立上ることはできない、という考えは多い」(ibid., p.68)

2012-08-05 00:22:08
dabitur @dabitur

「『株は下りませんよ』――開口一番、きっぱりとこういうのは、某有力証券会社の中堅スタッフAさんである。Aさんの説明は論旨明快だ」(ibid., p.69)

2012-08-05 00:23:23
dabitur @dabitur

「政局の混乱後、株価が*下ったのは*実勢のない高騰の一時的反動で、安保問題はそのキッカケになったに過ぎない。今アメリカの株価は上り出しているし、また去年から投資信託が証券と分離されたことによって、長期展望をもった買があるから、まず下ることはないでしょう」(ibid., p.69)

2012-08-05 00:25:29
dabitur @dabitur

「政情の推移は確かに商売の材料としてもみられますが、もっと広く一市民として考えるという立場は。――『みんな無関心ですね』」(ibid., p.69)

2012-08-05 00:26:01
dabitur @dabitur

「安保は戦争への道といったって、どうもピンとこない。その証拠には、戦争の場合にはとれないという経験をしたばっかりの生命保険が、今も伸びているではないか、というわけである」(ibid., p.69)

2012-08-05 00:26:27
dabitur @dabitur

「『「今の運動は精神の運動ですからね。人間は意識だけで働くほど上品じゃないんじゃないですか。部分人としてだって、結構生活は楽しめますからね』」(ibid., p.69)

2012-08-05 00:27:00
dabitur @dabitur

「しかし、意識による運動でも、ある大きさを持ったときは、逆に物理的な力にはね返ってくるということが考えられませんか。『ええ、確かにそうだと思います。しかし今の社会ではそこまで行かないでしょう。政局は揺れても、経済は安定していますから』」(ibid., p.69)

2012-08-05 00:27:22
dabitur @dabitur

「ある一流会社の中堅幹部Bさんは次のようにいう。『今度のように精神的な運動が盛上るのは、今後はもうないのではなかろうか。自分の考えで自分が動くという領域は、だんだん狭められている』」(ibid., p.70)

2012-08-05 00:28:18
dabitur @dabitur

「『我々の学生時代はまず哲学だったが、最近入社した連中は初めから就職を目指してだけ勉強している。今では幼稚園からそうだ。スタンダリゼイションというか、そういう時代だ。我々の感じではピッタリこないが、これからは、ますますそうなるに違いない』」(ibid., p.70)

2012-08-05 00:28:48
dabitur @dabitur

「前にもあげた証券会社のAさんはいう。『私達は杜内で上司に稟議を出すときでも、こうすればこうなるという、はっきりした筋道を立てることに、非常に神経を使っているんです』」(ibid., p.74)

2012-08-05 00:30:24
dabitur @dabitur

「『つまり、みんな合理性には弱いんですね。運動の側も、岸政府を倒したらどうなるかとか、スローガンだけでなく、プログラムをはっきりみせてくれれば、こちらはおそらくハッとするんでしょうがね』」(ibid., p.74)

2012-08-05 00:30:46