茂木健一郎氏 @kenichiromogi 【百万の皮肉より、たった一つのクオリアを】連続ツイート

茂木健一郎 @kenichiromogi

連続ツイート第６７６回をお届けします。文章は、その場で即興で書いています。本日は、今朝目にしたあるツイートに関連して。

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ひた（１）以前、私は「クオリア原理主義宣言」という文章を発表した。「 芸術作品の価値は、それを前にした時に感じるクオリ アの質で決まる。それは言語化できるものではない。それは記号化できるものではない。 安易にマーケットにのるものでもない。」http://t.co/a71KHNXg

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ひた（２）当時、私は東京芸術大学で授業を持っていて、アートを志す学生たちと正面から向き合い、語り、考える中で、一種の心の中の化学反応を通して、「クオリア原理主義」のようなことを考えざるを得なくなった。私の寄り添いは、常に作品を生み出す表現者側にあり、批評や流通にあるのではない。

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ひた（３）「クオリア原理主義」を久しぶりに思い出した理由は、今朝、目が覚めて奈良美智さん（@michinara3）のツイートを拝読したこと。あるアメリカ在住の美術関係者の文章に、奈良さんが傷つき、怒っていらっしゃる。村上隆さん（@takashipom）もそれに反応されていた。

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ひた（４）件の文章を読んだ。奈良美智さんの作品について、その市場の成り立ちなどについてあれこれと書かれている。英語の文章として、批評的な文章を著すときのある種の態度がそこにある。皮肉のスタンス。しかし、いくら読んでも、奈良美智さんの作品の「本質」はそこから伝わってこない。

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ひた（５）奈良美智さんの作品がなぜ人気なのかと言えば、そこに独特の「クオリア」があるからに他ならない。鋭い目をした、少女。全身から殺気のようなものを漂わせつつ、しかし可愛い。これまでのアーティストが誰も生み出し得なかったクオリアを創造したからこそ、奈良さんは名声を得た。

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ひた（６）おそらく、奈良さんを怒らせた文章を書いたAdrianも、奈良さんの作品のクオリアを感じているのだろう。しかし、それに寄り添うこと以外にアート表現を語る意味はないという智恵がない。日本では小林秀雄がクオリアに寄り添う批評活動を実践したが、源氏物語以来の伝統がある。

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ひた（７）「すでに流通しているものなど、放っておけ。自らの内なる、最も切実な、甘美な、哀しきクオリアにこそ寄り添え。そして、そのクオリアをポップに昇華せよ。」クオリア原理主義にこのように書いたのは、今回のAdrianのような皮肉の文章をたくさん見たことへの反動でもあった。

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ひた（８）皮肉のスタンスを、いくら集めたとしても、それは生成につながらない。もちろん、文脈や、マーケットや、比較は営みとしてあって良い。しかし、そのようなものをいくら集めても、奈良美智の作品を前にした人の現象学的体験には届かない。同じような誤謬は、脳科学にもあるのだけれども。

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ひた（９）何よりも残念だったのは、件のAdrianの文章が、美しくないことである。文章には固有のクオリアがある。そのことに自覚的でない人は、結局生成者ではなく、批評者ないしは解体者にとどまるのであろう。奈良さんの本質は、全く傷ついていない。刀は、そもそも虚空を切っていたのだ。

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以上、連続ツイート第６７６回「百万の皮肉より、たった一つのクオリアを」でした。奈良さんを怒らせた文章を読みたければ、ネットをたどれば読めるかもしれませんが、そこには百万にも届かない皮肉があるだけでしょう。