古代ギリシャ人の心の捉え方、その一つ。
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centurio_P
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本の中にあったテュモスとフロネイン、アリストテレス以前の人の心の捉え方ってどーいうこと?って質問が来てたので書いてこうかと。いや、文中で説明しようかと思ったんだけどくどいかなと思って。
2012-08-16 19:53:19
現代の心理学はほんとーに大本を辿っていくと古代ギリシアのプラトン、アリストテレスら哲学者たちによって体系化された人の心に関する哲学に辿りつきます。(心理学はそれはもう色々派生しているので科学的な分野においては別との話もありますが)
2012-08-16 19:56:14
しかし、もちろん、アリストテレスらが体系化する以前にも古代ギリシア人達は「人間の心」というものについて独自の見方や考え方を持っていたわけです。「テュモス」や「フロネイン」はその一つ。
2012-08-16 19:58:25
アリストテレス等といった哲学者達によって体系化された思索が行われる以前の古代ギリシア人達の「人間の心」に対する理解は大まかなものであり、人の意識表現を彼らはフロネイン(phronein)という言葉で表しました。
2012-08-16 19:59:33
フロネインを日本語で表すならばそれは「おもい」であると言えます。「おもい」という言葉は曖昧でその一言に様々な意味を内包しており、感情としての意味合いや「おもい」を遂げるという場合のように意志や欲望、願望としての意味合いも含まれています。
2012-08-16 20:01:10
また、あることを「おもう」だけで息が荒くなったり、涙を流したりするが逆に笑顔になることや男性や女性の器官から体液が分泌されることもあり、さらにはこの「おもい」から論理的行為や犯罪行為が起こったりすることもあります。
2012-08-16 20:01:56
こうした「おもい」からくる生理的反応や活動、近代ではこれらを心身相関、観念運動などと呼び、分類したが古代ギリシャ人達はそれら全てを漠然とした全体的なものとして「フロネイン」という動詞で言い表したのです。
2012-08-16 20:02:21
このフロネインはフレネス(phrenes)で生まれます。しかし、それがどこを指しているかは定説が無く,プラトンは横隔膜だと唱えていますが肺や心臓のあたりでもあるようであるとされています。ぶっちゃけ本人たちも曖昧。
2012-08-16 20:04:07
日本語でフレネスに当たるのは「胸」のようであり、「胸」は実質的に魂や心と同義であるが「胸」という表現は心理的なものが身体的表現と一つであるかに説得力を齎します。古代ギリシャでは胸に吸い込まれては吐き出される「息」、胸から体中に行き渡る「血」についても同様であるのです。
2012-08-16 20:05:05
古代ギリシャ人が体と心を分けて考えるようになったのは比較的後、特に哲学者プラトン以後のことでホメロスの「イリアス」「オデュッセイア」が謳われる以前のギリシャ人達は心と体は一つと見なしていました。
2012-08-16 20:07:24
心(魂とも言える)は体を離れて動くことはできず、体は自然の中にあって他の体と関わりながら働いているのであり、心がどのように働くかは、体がどのような状態にあるかに左右されるのです。
2012-08-16 20:07:56
ギリシャ人は正常純粋な空気の中でフレネス(胸)が乾いた状態にあるときにフロネイン(思い)が正常に働き、逆にフレネスが湿ると、正常に働かなくなり、酩酊や睡眠はまさにそのような状態だと信じられていました。
2012-08-16 20:09:23
このフレネスが乾いている、湿っているという表現はそのまま干からびているなどということではなく、むしろ新鮮な空気が清々しく胸一杯に行き渡り、自由に存分に吐き出される状態のことを指します。そして、フレネスが湿ってくると考えが行き詰まり、フロネイン(思い)が鈍ってくるのです。
2012-08-16 20:10:27
ここで注意しなければいけないのは、乾きが必ずしも干ばつを指すわけではないように、湿りも心を活気づけ優しくしてくれる潤いと混同してはならないということです。
2012-08-16 20:11:05
フレネス(胸)にはテュモス(thymos)が含まれます。テュモス本来の意味は日本語では説明できず、相当するモノがありません。敢えて言えば胸の中にあるものであり、胸の中の働きではありません。
2012-08-16 20:12:13
フレネスが横隔膜ではなく「肺」であると考えるならばテュモスは「息」です。このテュモスは現代人にとっての息以上に豊かな意味を持ちます。蒸気のようなモノとして感じられるのだが、その蒸気は血から発せられているのです。
2012-08-16 20:13:36
その血は心臓と「肺」を中心に体に巡ります。つまり、テュモスとは湯気を発する血であり、この血(そして、湯気)は外気と混ざりあい、相互に作用し、体調の良し悪しで増減します。
2012-08-16 20:14:21
古代ギリシャ人は人の心身の状態が悪い時、このテュモスがなくなっているとか、消耗しているとか、テュモスを食い潰していると表現しました。このテュモスは言うなれば日本の「気」とよく似ていると言えるでしょう。日本語でも「血の気」「血気盛ん」という言葉がありますね。
2012-08-16 20:16:39
古代ギリシャ人にとって情動は神々によって人間のフレネス(胸)、あるいはそこに含まれるテュモス(息)の内に入れられるモノでした。いわゆるインスピレーション(inspiration)とは語源的に息を吹き込む事であり、神が人間のフレネスに息を吹き込むことなのです。
2012-08-16 20:17:59
他に例えるならば愛は美の女神アフロディーテのテュモス(息)であり、アフロディーテから吹き込まれることによって人は愛を覚え、愛を囁くのです。戦場ならば軍神アレスやアテナがまず、指揮官らに勇気と殺戮のテュモス(息)を吹き込み、その指揮官らが戦士達にそれを伝達し、士気を上げていくのです
2012-08-16 20:23:36
テュモスとは力持つ息吹、言葉です。人間、特に神官や詩人は自分のフレネス(胸)から言葉を息として吐き、そして、言葉という息が聞き手のフレネスに吹き込まれ、感動させ、知恵として吸い込まれるのです。
2012-08-16 20:52:36
古代ギリシャ人にとってはテュモス(息)の心はフレネスという体の器官を離れることはありえないことであり、「フレネス(胸、肺)を以てテュモス(息、言葉)を通じ、フロネイン(おもい)を伝える」という些か風変わりな心のコミュニケーションを信奉していたのです。
2012-08-16 20:55:42