〔AR〕その10

東方プロジェクト二次創作SSのtwitter連載分をまとめたログです。 リアルタイム連載後に随時追加されていきます。 著者:蝙蝠外套(batcloak) 前:その9(http://togetter.com/li/357653) 続きを読む
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BIONET @BIONET_

「おい、昨日公開された『スカーレットデスティニー』見たか?」 「おうよ。今回もなかなか極まったやつがきたもんだぜ」

2012-08-25 21:01:21
BIONET @BIONET_

人里のバイオネット端末が設置されている集会所。稗田阿求は、今日もバイオネットを使うためにここを訪れていた。巻物に文字を転写している最中、周囲の若者たちの会話が耳に入ってくる。

2012-08-25 21:02:28
BIONET @BIONET_

「まさか第一スペルカードに『ラストハルマゲドン』なんてつけるとは夢にも思わなかったなぁ。ハルマゲドンってのはようわからんが、ラストはないだろラストは」 「それいいだしたら、西の方角にお守りとして『エデンの東』って標語を掲げよなんて、本当に占いか? って感じだろう」

2012-08-25 21:03:33
BIONET @BIONET_

『スカーレットデスティニー』とは、おおよそ名前から想像が付くように、紅魔館のレミリア・スカーレットがバイオネット上で行っている、いわゆる運命診断である。

2012-08-25 21:06:12
BIONET @BIONET_

単純に明日の運勢を占うだけでなく、要望を送ればレミリア直々に名付けを行ってくれるというコーナーがあり、人気を博している。どう博されているかは、まぁ上述の通りだが。

2012-08-25 21:06:21
BIONET @BIONET_

「しかし最近はあれだよな、対抗馬として出てきた『エーリング先生のエーリング教室』! こいつもおもしろいよなぁ」 「あのわけのわからなさはすげぇよな。初孫の名前を相談されたら『ラャヂペウイボ』とか、それ絶対人間の言語じゃねーだろ」

2012-08-25 21:07:42
BIONET @BIONET_

一方の『エーリング先生のエーリング教室』は、『スカーレットデスティニー』よりも後発でスタートした、こちらはより純粋にネーミングを専門としたコーナーである。オーナーは匿名でエーリング先生を名乗り、その独創的どころではないセンスが、これまた妙な人気を博していた。

2012-08-25 21:09:31
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「にしても、なんかエーリングって聞くとさ、竹林の永琳先生を思い出さないか?」「おいおい、あのべっぴんの女医さんがエーリング先生だっていうのか? んなわけないだろー」「だよなー。あんなまじめな人が、『ケンチャラポン』とか言うわけないだろ」 「エーリング先生、いったい何者なんだ……」

2012-08-25 21:12:12
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笑いながら推測する若者二人の姿を横目で見ていた阿求は。 「……ははは」 と乾いた笑いを浮かべた。

2012-08-25 21:13:16
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阿求は視線を別の方向に向ける。集会所の外の方に、青い顔をした鈴仙・優曇華院・イナバの姿が見えた。ちょうど、若者二人が会話を始めていた頃から、彼女はそこにいた。

2012-08-25 21:14:19
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阿求の視線に気づいた鈴仙は、頭痛をこらえるような顔つきのまま、ペコペコ阿求に頭を下げた。別に彼女が何か悪いことをしたわけではないのだが、阿求は申し訳ない気持ちになった。

2012-08-25 21:19:42
BIONET @BIONET_

ピコン、とバイオネットが通知音を鳴らす。文字の転写が終了した合図だった。阿求は巻物を丁寧に巻きとって懐に納め、すれ違い様に鈴仙の肩をいたわるように撫でて、家路を急いだ。

2012-08-25 21:25:36
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時刻はまだ正午ではなく、昼食には少し早かった。  自室に戻った阿求は、さっそく巻物に転写したバイオネットの情報を浚う。

2012-08-25 21:43:25
BIONET @BIONET_

阿求は最近、仕事の一環としてバイオネットの公開ページを色々と取得していた。時間の経過と共に、人妖入り交じった様々な利用者が増えたことで、得られる情報は幅広くなっていく。その変化を観察することは、人と妖の関係の新しい側面が見いだせるのではないかと、阿求はおぼろげに考えている。

2012-08-25 21:49:23
BIONET @BIONET_

まだ観察を始めて少ししか経っていないが、それでも少しずつ新しい発見は見えてきていた。まず、バイオネット上では、思いの外人間と妖怪の違いというのが顕在化しないということだ。出てくるのは、種族よりも個性である。

2012-08-25 21:51:22
BIONET @BIONET_

人間であっても、突拍子もない言動を繰り出すものはいるし、妖怪であっても、物わかりがよいものがいる。

2012-08-25 21:51:39
BIONET @BIONET_

人間、妖怪というくくりの一歩先に、個人が自己主張する。もとよりバイオネットは自発的に利用するものであるがために、そういった方向性が現れるようになるのだろうか。分析、考察は、まだ始まったばかりだ。

2012-08-25 21:53:58
BIONET @BIONET_

そんな風に思索しながら、巻物の文字を眺める阿求。すると、ある文字列が目に留まった。 『Surplus Rから一通の手紙が届いています』 「……あれ?」 阿求は瞬きをしてから、もう一度該当個所をまじまじと眺める。 『Surplus Rから一通の手紙が届いています』

2012-08-25 21:54:25
BIONET @BIONET_

「……ま、まさか!?」 メッセージの意図を理解して、阿求は飛び上がるように背筋を伸ばした。 そうして改まって、阿求は巻物に転写された手紙を読み始めた。

2012-08-25 21:57:52
BIONET @BIONET_

>拝啓 Initial A様 >はじめまして、Surplus Rと申します。お手紙、誠にありがとうございます。 >私の小説を読んでいただき、また丁寧なご感想をお寄せ頂き、感謝の言葉もありません。

2012-08-25 22:00:08
BIONET @BIONET_

「うわぁー!」 思わず発しそうになった大声を、阿求はすんでのところで口を手でふさいで押しとどめた。もしそのまま叫んでいたら、大慌てで屋敷中の女中達が押し掛けてくるだろう。 口を両手で覆いながら、阿求は手紙の続きを読み進める。

2012-08-25 22:00:35
BIONET @BIONET_

>私は、趣味として小説を書き続けておりましたが、今まで他者に読んでもらうという経験はありませんでした。ですので、この度は多くのお言葉を頂けたことを、大変嬉しく思います。今後も拙作を読んでいただければ幸いです。

2012-08-25 22:07:15
BIONET @BIONET_

「いえいえいえ! こちらこそこれからも読ませてください!」 周りに誰もいないにもかかわらず、阿求はあたかも目の前に手紙の主がいるように独り言をまくし立てた。

2012-08-25 22:11:46
BIONET @BIONET_

(前略) >さて、唐突ですがお願いがあります。差し支えなければ、これからも私と手紙を交換していただけないでしょうか。あまり遠くの方とお話できる機会のない環境故、今回のようにお手紙をいただくというのは本当に貴重な体験です。

2012-08-25 22:13:56