舞城王太郎Twitter連載小説「NECK the seventh」第1話〜第12話

8月21日公開の映画『NECK ネック』の原案を担当された舞城王太郎先生が、映画の公開に合わせて新たにTwitter用に書き下ろした「NECK the seventh」の第1話〜第12話をとぅぎゃりました。 #neckmovie
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映画「NECK ネック」 @neck_movie

(1)笠井潔のデビュー作『バイバイ、エンジェル』で名探偵役の矢吹駆(やぶきかける)が《首切り》の本質は《殺人の隠蔽》であるとするシーンがあって、俺はそれを思い出す。 #neckmovie

2010-07-16 12:04:47
映画「NECK ネック」 @neck_movie

(2)俺は今録音技師横溝正敏(よこみぞまさとし)の殺人事件を捜査していて犯人の照明技師牛場健次(うしばけんじ)を深夜の東映第十八スタジオで追いつめたつもりだったのだが、どうやらそうじゃなくて、ここには招き込まれていたらしい。 #neckmovie

2010-07-16 15:00:56
映画「NECK ネック」 @neck_movie

(3)首を切られて殺されたはずの横溝正敏がスタジオに置かれた機材の裏から現れ、笑う。  「お疲れ様。台無策太郎(だいぶさくたろう)くん」 #neckmovie

2010-07-16 18:00:11
映画「NECK ネック」 @neck_movie

(4)首を切られたのは遺体の身元を取り替えるためでも前の事件の見立てのためでも他の首切りへの混入のためでもなく、ただ、首だけで生き延びるためだったのだ。 #neckmovie

2010-07-16 21:00:11
映画「NECK ネック」 @neck_movie

(5)矢吹駆の本質直観はつまりここでは当てはまってないことになる。殺人そのものがないのだから、それを隠匿しようという意志は生まれない。 #neckmovie

2010-07-17 12:00:21
映画「NECK ネック」 @neck_movie

(6)・・つまりあれは《首切り》という全般的なものに当てはまる本質ではなくて、《殺人における首切り》という特殊なものだったわけだ。 #neckmovie

2010-07-17 15:01:03
映画「NECK ネック」 @neck_movie

(7)横溝正敏は頭を透明な金魚鉢に載せ、ポンプと管で人口血液を循環させながら顎や顔の筋肉の運動と視線の移動を駆使してカートを乗りこなしている。上等なものだ。 #neckmovie

2010-07-17 18:00:08
映画「NECK ネック」 @neck_movie

(8)ポンプの音もモーターの音も聞こえない。カートのタイヤがコンクリート敷の床を踏む音だけがシーと鳴る。カートに取り付けられたスピーカーから機械で作られた声が流される。 #neckmovie

2010-07-17 21:00:06
映画「NECK ネック」 @neck_movie

(9)「驚かせてすまないね」  「ふん、それほど驚いてはいないよ」と俺は言う。「いろいろ合点がいくのを味わってるだけさ。 #neckmovie

2010-07-18 12:00:17
@neck_movie

(10)どうしてあんたの仲間が俺に非協力的だったのか、あんたの葬式の夜に久里緒(くりお)に電話をかけてきたのは誰だったのか、どうして犯人は背中に致命傷を与えておきながら生きたまま首を切り落とさなきゃならなかったのか、 #neckmovie

2010-07-18 15:00:12
映画「NECK ネック」 @neck_movie

(11)そして何故あんたの首はあんなに綺麗に切り落とされていたのか。あれは綺麗だったんじゃない。丁寧に慎重に時間をかけて切り離されていたんだな」 #neckmovie

2010-07-18 18:00:08
映画「NECK ネック」 @neck_movie

(12)首だけになった横溝正敏は何も言わず俺の方を向いて微笑んでみせる。首の下に設置されたスクリーンボードに視線の動きを読み込ませて喋るのがそれなりに負担なんだろう。 #neckmovie

2010-07-18 21:00:06