ツイッター小説 お気に入りセレクト 2012/08/29
22世紀初頭。人類はワープ航法を完成させ無限の宇宙へと船出していた。だが、ワープ時に発生する「時空欠片」の拡散は欠片と衛星、船舶との衝突事故多発を招き大きな問題となっていた。この物語は人類初の時空欠片清掃船レレレノ号の地味な通常業務と乗員の揉め事の記録である! #twnovel
2012-08-29 01:16:21#twnovel 茜色に染まる遊園地。やあ今日も来たね。よい旅を。少女が一人で観覧車に乗り込む。ゴンドラが頂上に達すると、遠くの飛行場から離陸したばかりの飛行機と同じ高さになった。彼女の顔に笑顔が広がる。大切な飛行機図鑑で機種をチェック。病弱な彼女は今日も空想の空を飛ぶ。
2012-08-29 01:40:08黒猫が空を眺めている。揚羽蝶が飛んでいた。ふらふらとしたその軌跡は金曜の晩の酔っぱらいの足取りを思わせた。やがて揚羽は黒猫の真上に舞い降りてきた。その時、静かに眺めていた黒猫が突然前足を振った。しなやかな鞭のような一撃が蝶の羽を奪った。彼女の夏は永遠に終わった。 #twnovel
2012-08-29 01:49:07人類がほとんどゾンビとなり、地上の支配者然と通りをよちよち歩くこの時代、滅びゆく人類である僕らを熱くさせるのがモグラ叩きと呼ばれるスポーツだ。人を襲わず、ただ歩くだけの存在の頭を叩き割る事によって自分たちの蛮性を確かめ、人間ここにありきと高らかに宣言するのだ。 #twnovel
2012-08-29 02:23:13夏が終わろうとしていた。僕に残されたものといえば、遊園地の半券と、一度しか袖を通していない浴衣と、買っただけの花火。あとは、なにも残っていなかった。夜中、ベランダに出てビールをあおり、手で耳をふさぐ。波の音。終われなかった思い出が、僕の中を何度も寄せては返した。 #twnovel
2012-08-29 04:11:14#twnovel 今日は朝起きた時から頭の奥でセミの鳴き声が聞こえていた。夕方になってもまだ続いていたので、仕事の帰りに公園まで寄り道をする。やがて聞こえてきた本物のセミの大合唱を呼び水にして耳の奥からセミの声が抜け出ていくとき、いっしょに夏の夕暮れの音が耳を通り過ぎていった。
2012-08-29 07:01:54太陽は海に近付くと融け始め、溶けた朱色が水を染めてゆく。溶けた太陽の成分は朝になると集まってきて再び海面を染め始め、やがて形を成し、空へ昇る。ところで昨夜、潮溜まりに太陽の成分が少し取り残されてしまったのだ。夜明けに水面に集まったそれを僕はそっと掬い取って隠した。#twnovel
2012-08-29 07:32:35家族ぐるみで取り組んだ節電は、暑い夏を我慢するだけだったようだ。母は電気料金を記した紙を震える手で握りしめ盛大なため息をつく。これが自分達の実力なのかと落胆した様子だ。言えない。暑さに負けた父が夜中、冷蔵庫を開け放して涼を取っていたと、口が裂けても言えない。 #twnovel
2012-08-29 07:43:55棋士がレーサーと対談した。彼は対局のときのプレッシャー、思考の回転の速さ、集中で周りの風景が消えることなどを語った。レーサーは興味深そうに聞いていた。「貴方の感覚は、時速300㎞世界に似ている。視野は点のように狭くなり、体重の五倍の重力がかかるんです」 #twnovel
2012-08-29 12:13:03銅板のグランドにニードルを入れる。鈍く光る蜘蛛を描き上げて腐蝕液に浸し、細く深く抉れた線にインクを塗り込む。プレス機から出てきた紙にはインクで出来た黒蜘蛛がうっすら盛り上がって載っている。紙が乾くにつれそれは立体感を増し、ついには這い出して逃げて行った。 #twnovel
2012-08-29 12:22:12#twnovel 目覚めると水の中にいた。「身体を交換しようって言ったよね」水槽の外で俺が笑う。そう言えば酔って金魚に愚痴をこぼした気がする。「電車って物に乗って、広く世界を知りたいんだ」そう言って彼は家を出た。「でも帰ってきたんだよね?」「うん。満員電車より水槽の方が広いって」
2012-08-29 14:35:29#twnovel 鏡に映る自分に「お前は誰だ」と問い続けると、人は簡単に狂うと聞いた。本当だろうか?興味本位で日課にしてみた。けれど何日目からか、鏡を覗き込むと自分の代わりに見知らぬ他人が映るようになった。他人に問うても意味が無いのだ。顔を歪めると相手も歪める。なあ、お前は誰だ?
2012-08-29 15:32:19一般的生体演算装置の処理能力は、低下の一途を辿っている。もう、少しも賢明でいたくないのと言って彼女は南へ行ってしまった。ついて行くとも行くなとも言えず、私は彼女を見送った。私の判断能力も落ちている。ナニモワカラナイ。ただ涙だけがひたすら流れる。私は、水冷式。 #twnovel
2012-08-29 18:07:21ハワイに観光に来たカップルがサメに襲われた。男は彼女がサメに食べられたと泣きながら警察に訴えた。話はすぐに広まり、男には同情が寄せられた。しかし、男はすぐに逮捕された。岸部に打ち上げられた彼女のバラバラの遺体は、全てのパーツが揃っていたのだ。 #twnovel #twbngk
2012-08-29 18:47:42#twnovel 神は死んだ神は死んだと蝉が鳴く。その数ももうだいぶ減った。教会の外廊下には彼ら自身の亡きがらがいくつも転がっている。神父はそれを集め焼却炉で燃やす。感情のない声で呟く、不埒なことを叫ぶから業火に焼かれるのだ。そして炎の熱さを思う。いつか自分が灼かれるものとして。
2012-08-29 20:22:52雷様の子は雨雲作りを任されました。灰色の小さな雲をこねるとやがて大きな雨雲になります。雷様の子は夢中でたくさん作ってしまいました。叱られると慌てた雷様の子は、たくさんの雨雲をえいっと遠くへ投げてしまいました。地上でゲリラ雷雨が降るのはこんな日なのかもしれません。 #twnovel
2012-08-29 23:31:03珍しく独り言を吐くものがあった。「人は病気から解放され、寿命の心配も無くなった。気候に憂う事もなく、災害に怯える事もない」返事をする者は無い。疲れたのか飽きたのかそれは黙った。立ち並ぶタンクの一つ。どれかは解らない。外から見えたとしても泡が数粒上がっただけだが。 #twnovel
2012-08-29 23:47:23