「英語リーディングの学習」の抜粋
桐 英 会 ≫ Blog Archive ≫ 英語リーディングの学習(1) "辞書を引きながら、それも各行に未知語が出てくるような難しい英文を、まるで暗号を解読するかのようなやり方で読み進むというのは、非常に特殊な形態のリーディングです。"
2012-08-29 11:06:49(1)のリンク http://kiyofan.com/blog2/?p=352
"それは学習の途上には必要なプロセスかもしれませんが、通常のリーディングとは言えません。私たちがここで言う「リーディング」というのは、知的ではあるけれども、もっと日常的な活動です。"
2012-08-29 11:07:34"さて日本では、古くから、読みに3種類の読み方―精読、速読、味読―があると言われています。文章を読む目的は時と場合によってさまざまですが、私たちが母語である日本語の文章を読むときには、目的に応じてこれら3種類の読み方を使い分けています。"
2012-08-29 11:07:54"少なくとも自分の個人的または職業上関心のある領域では、現代英語で書かれた文章の、目的に応じた読み方ができるようにしたいものです。そしてその目標は、高校までに学習したものを基礎とし、その後の適切な自己トレイニングによって到達可能であると私は考えています。"
2012-08-29 11:08:55
英語リーディングの学習(2) http://kiyofan.com/blog2/?p=359
"読むという行為は、文字の記号列を解読して、その背後に隠されている意味を抽出して理解するという活動ですが、私たちはそれが自分の脳の中でどのようになされているかを普段は意識しません。"
"文字列を見てそこから意味を知ることを当然のこととしています。しかしそれは、心理学的には、非常に複雑なプロセスであることが分かっています。成人の言語学習者はまずそのことを知る必要があります。"
"つまり、眼に入ってくる文字記号を脳に送ってやれば、その記号が脳の中で自動的に意味に変換されるわけではなく、その認知された記号をもとにして、読み手がすでに持っている関連情報をよび出し、それと照合しながら主体的に意味を組み立てていくプロセスだということです。リーディングを受動的な活動とみるか能動的な活動とみるかでリーディングの学習方法が違ってくるので、このことは非常に重要です。"
"人は何かの文章を読むとき、それが何についての文章かを知って読むことが多いのではないでしょうか。すると読み手は自分の頭の中にすでに持っている関連知識(スキーマ)をよび出し、それを利用します。そして文章の中のキーワードと思われるものを手がかりにその内容を推測しながら読み進みます。そして文から文へと眼を移しながら自分の推測が正しいかどうかを確かめ、正しいと思えば先へ進み、疑問に思うときにはもう一度最初に戻って推測し直したり、一時保留にしたまま先に進んだりします。このような読み方を「トップダウン処理」(top-down processes)といいます。トップダウン処理を用いた典型的な読み方が速読です。"
"これと反対なのが「ボトムアップ処理」(bottom-up processes)です。自分にとってあまりなじみのないトピックに関する文章を読むときには、関連するスキーマをよび出すことができないので、トップダウンの処理法では読み進むことができません。そのような場合には、ちょっと立ち止まって、1つ1つの語句をじっくり見て、それぞれの意味を前後の関係から推理したり、時に辞書を引いて確かめたり、文の構造を分析したり、何を意図した文かを前後の文の関係から考えたり、というようなことをします。これがボトムアップ処理で、精読のときに起こるプロセスです。また、学習途上の外国語を読むときにはもっぱらこの処理法が使われます。しかし母語の文章を読むときには、多くの場合、トップダウンとボトムアップの両方の処理が併用されます。"
英語リーディングの学習(3) http://kiyofan.com/blog2/?p=362
"英文和訳がまったく不要だというわけではありませんが、このような暗号解読方式に似た「ボトムアップ処理」によるテキストの読み方は、どうみても、正常なリーディング活動とは言えません。先に述べたように、本当のリーディングに必要な技能を獲得するにはテキストの「トップダウン処理」ができるようにならなければなりません。"
"では、トップダウンの読み方ができるようになるためにはどうしたらよいでしょうか。そのためには、学習用の英語テキストは少なくとも次の3つの条件を備えていなければなりません。第1に、そのテキストのトピックは学習者の興味や関心に合致したものであり、読み手がすでに持っている知識を利用できるものであること。"
"第2に、学習者はそのテキストの主要なキーワードのおよその意味をあらかじめ知っているか、文脈の中で類推できるものであること。第3に、テキストの語彙と文法構造が学習者の解析範囲にあること。すると、これまで高校で使われてきた伝統的な高校用テキスト(多くの新出事項を含む文章が各課の先頭に載せられているもの)の多くは、以上の条件に適合しないことが分かります。"
英語リーディングの学習(4) http://kiyofan.com/blog2/?p=371
"では先に挙げた3つの条件(前回の「英語リーディングの学習3」参照)を備えたリーディング用の教材とは、どのようなものになるでしょうか。ここでは特に高校レベルの教材の在り方を考えます。なぜなら、高校での3年間の英語学習がリーディング能力を高めるのにもっとも大切な時期だと思うからです。"
"全文を和訳することなく、英文を頭から読み下して理解することができるようにするにはどうしたらよいでしょうか。それには、学習者はリーディングの障害となる語彙と慣用句、および文構造の解析に必要な文法知識を最初に学習する必要があります。リーディングのテキストに若干の未習語があってもかまいませんが、それらは文脈からおよその意味が類推できるものであることが望ましい。"
"そこで考えられるのは、初めにレッスンのトピックに関係するいくつかのスキーマを導入し、主要なキーワードや関連語彙を学習できるようにすることです。これは従来「オーラル・イントロダクション」という名で一部の先生方が授業でやっていたものですが、教科書に写真やイラストや図表をふんだんに載せて先生方が利用できるようにします。先生に代ってCDやDVDによって提示することも可能でしょう。"
"このようにして、新しい語彙・慣用句・文型・文法事項などをまず耳で聴いて理解し、正しく口で言えるようにし、同時に文字で確認し、手を動かして書き、使用場面を想定して使ってみて記憶します。そうした一連の学習が終わってから、そのトピックについて書かれた平易な英文テキストを読みます。それがリーディング活動です。"
英語リーディングの学習(5) http://kiyofan.com/blog2/?p=378
"母語というのは思考と深く結びついているものです。斎藤氏(文法訳読方式)の考えは、英語を訳読しながら日本語で深く思考することが明治以来の日本人の教養に寄与したということです。そういう読み方(訳読)が今もあってよいと言うのならば、それはその通りだと思います。しかし、それは思想家や哲学者や翻訳家を志す人には必要なことであっても、英語を道具として使おうとする現代の一般日本人にあてはまるのでしょうか。私たちは、文法訳読方式は以下に述べるいくつかの理由から、現代の学校ではもはや機能しなくなっていると考えます。"
英語リーディングの学習(6) http://kiyofan.com/blog2/?p=380
"訳読が現代の学校ではもはや機能しなくなっている第1の理由は、それが結局のところエリート教育にならざるを得ないことです。"
"第2に、多様な生徒からなる大クラスにおいては、訳読はあまりにも非効率的な教授法です。それがいかに効率の悪いものかは、たぶん皆さんも英語の授業で経験したことがあると思います。"
(この後に続く授業の様子は嘆息もの)
"訳読式の授業のもう一つの問題点は、これまで多くの人が指摘しているように、それが音声を無視した授業になりがちなことです。この種の授業では先生と生徒が英語を口にするのはテキストを音読する時くらいなので、聴いたり話したりする能力はほとんど育ちません。その音読もおざなりなもので、英語らしい発音は身につきません。そういうわけで、たとい読解力は多少ついたとしても、学校を出てから自力でスピーキングを学ぶ素地もできていません。"
英語リーディングの学習(7) http://kiyofan.com/blog2/?p=388
"まず訳読についてですが、学習者が英文の意味を理解するための一つの手段としてそれを用いることは悪いことではありません。問題は訳に頼ってしまうことです。つまり、英文をいちいち日本語に訳さないと意味が取れなくなることが問題なのです。それを避けるためには、訳はチャンク(意味のまとまり)の単位にとどめ、チャンクの順序を入れ替えて全文訳をしないことです。頭から、チャンクごとに意味を取っていくのです。"
"例を挙げましょう。次は世界的に有名な作家ラッシュディー(Salman Rushdie)の新作Luka and the Fire of Lifeの冒頭のセンテンスです。(チャンクの切れ目をスラッシュで表します。)
There was once, / in the city of Kahani in the land of Alifbay, / a boy named Luka / who had two pets, / a bear named Dog / and a dog named Bear.
上の文の意味を取るのにチャンクの順序を変えて日本語にする必要はないでしょう。チャンクごとの意味が取れれば全体の意味はおのずと明らかです。"
"しかし表面的な意味がわかっても、作者の意図はこの文からはまだ不明です。読者はこれから先に次々に現れてくるはずの情報に期待を寄せます。たとえば、Kahani やAlifbayがどこの地名なのか、Lukaという少年の名に何か特別な意味があるのか、なぜクマの名がDogで、イヌの名がBearなのか、など。作者はまだ自分の意図したことを何も述べてはいないのですから、このような文をきちんとした日本語に訳すことは、翻訳家でないかぎり必要のないことです。時々チャンクごとに日本語で意味をチェックするのはかまいませんが、チャンクごとに英語の順序のまま理解しようとすることが大切です。"
"次に、リーディングに上達するには豊富な経験が必要です。それは学校で使う薄い教科書だけでは不充分です。"
"教科書以外の英語の本を読む場合に注意すべきことは語彙のことです。小説を読むならば原文で読みたいと思うのは自然ですが、一般に作家の語彙は通常の人より多く、3000語程度の語彙ではとうてい読めません。そこでお薦めなのが1000語、2000語、3000語などの語彙範囲にリトールドされた読み物です。本屋(AMAZONなど)のgraded readersで検索するといろいろなものがあることが分かります。辞書をあまり引かずに読むためには未知語が2%以内のものがよいとされています。"
"多読によって語彙を増やすことはあまりできませんが、重要な語に何回もふれることによって、語彙の知識が深まり、また読みの流暢さが増すことが知られています。リーディング力をつけるために、自分に興味のある話題の本を見つけてできるだけ多く読んでください。英語で速読や味読ができるようになったら、あなたにとってすばらしい世界が拓けます。"