#書き出し小説
もうあれからかれこれ32時間と41分も経っている。たかが32時間。しかし孝典にとってそれは永遠とも思えるじつに気の遠くなるような時間であった。32時間前のドキドキ感はもうとっくに絶望感に変わってしまっている。千春からの返信は未だにない。 #書き出し小説
2012-08-24 23:21:55順の脳裏には一つの疑惑が浮かんでいた。『堺は本当の所、正章ではないのではないか…。』気付けばタンバリンを打つ手が止まっていた。#書き出し小説
2012-08-24 23:25:34#書き出し小説 レジャーに向かう満員の車から彼が笑顔で僕を呼ぶ。分かっているさ、僕の席は無いのだろう?数分後、未来から来た同居人の前で僕は涙を流していた。
2012-08-24 23:28:19俺は、ビールは一口めがうまい、なんて言う男が大嫌いだ。それなのに、俺の向かいに座ったこの男は、もう、何口飲んだか分からないくらいビールを煽りながら、ずっと、その話を繰り返している。これが最後だと誓いながら、俺は訊いた。「だから、僕は何を何処に届ければいいんですか」 #書き出し小説
2012-08-24 23:29:47「いってらっしゃい。気をつけてね」玲子は祐司を見送った。ごく普通の新婚生活の日常である。ただ一つ普通でない点があるとするならば、玲子がスゴ腕検事「落としの玲子」であるということである。 #書き出し小説
2012-08-24 23:30:18此処を尋ねたら相談が出来ると聞きましたので母と鹿児島から来ました。あの、会社の私の上司の事でして野球でセンターを守ってるのですがフライを落とすばかりするんです。はい、オーライオーライは言っているみたいです。あ、私はレフトです。どうかよろしくお願いします。 #書き出し小説
2012-08-24 23:41:14空を見上げたら紙風船が落ちてきた。あの、色とりどりの真ん丸い形の、空気を入れるところだけが銀色のやつだ。いったいどこから誰が落としたのだろうか。 #書き出し小説
2012-08-24 23:49:32私の名前はケイシー・T。いま七十八歳で、エロ漫談をもう四十年以上やっています。(カズオ・イシグロ風) #書き出し小説
2012-08-24 23:50:18右手はせわしなく髭剃りを動かしていた。ふと、もう片方の左手を見てみると、指の股は五つ在った。「長い一日になりそうだ…」 #書き出し小説 『大臣、四度目の』
2012-08-24 23:50:40私には彼に言えない秘密がある。一つはベッドの下に隠してあるお金。そしてもう一つ、本当の名前は「ドラミ」だという事。#書き出し小説
2012-08-25 00:04:53#書き出し小説 蛍光灯の無機質な光が照らす部屋には何も無かった。正確に言えば自分の寝ている布団と隅にある便器以外には何も無かった。一つだけある窓には鉄格子が嵌っていて、鉄製の扉には小さな窓があるだけで把手はない。部屋の外からは叫び声や歌声が微かに聞こえてくる。「保護室、か。」
2012-08-25 00:07:16「・・・今度はいつ会える?」と赤い毛むくじゃらの男がシャワーを浴びている眠たい目の緑色の肌をした男に尋ねる。 「こんな所コドモらに知られたら番組終わりだな・・・」と眠たい目の男が呟く。しかし男の「それ」はまた雄々しくなるのであった。 #書き出し小説
2012-08-25 00:08:21彼の家にはドアと窓以外は椅子しかない。そんな椅子に座り無い机の上で無い本を読む。 僕らは星というものを見たことがない。空はいつも暗幕が貼られているようにただの黒で、資料で見る星はいつも綺麗だ。 真っ黒の中月だけが気味悪く僕らを見下ろしている。 #書き出し小説
2012-08-25 00:08:22その日は今日のように蒸し暑い日でした。窓のカーテンはいつもと同じ白地のレースで少しだけ揺れていました。私は制作をしてたはずです、いえ、その時は少し疲れて横になっていたかもしれません。部屋の中は私ひとりのはずでした。少し喉が #書き出し小説
2012-08-25 00:18:08それを思い出したのは、寝る寸前だった。学校帰りに道端で拾った小さな黒い箱。たいして気にも留めずに制服のポケットに突っ込んだままだったそいつを取り出して、机の上に置いた瞬間。今までうるさいくらいに庭で鳴いていたコオロギたちが、ぴたりと鳴き止んだ。#書き出し小説
2012-08-25 00:18:08