白い手

怪奇の種の八雲より、3話目の『白い手』で御座います。
3
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

母方の実家は、築百年を超える日本家屋であった。幼い頃、泊まりに行った晩は必ずと言って良いほど、私は夜鳴きをして両親と祖母を困らせていた。只単に古い家が怖いのだろう、と大人たちは考えていたようだが、幼い私は必ずある柱を指差し「手が出てるの、手が出てるの。」と、怯えていたそうだ。

2012-08-31 01:54:50
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

成人した私はそんな事をすっかり忘れていたのだが、実家を取り壊す事になり、家具などの運び出しを手伝うため数年振りにその家に泊まる事となった晩である。呼ばれたような気がして、ふと目を覚ますと。黒檀の柱の中ほどから不自然な程に真っ白な手が生えていて、だらりと甲を見せていた。

2012-08-31 01:55:23
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

夢か現か、と怪しんでいた朧げな記憶と重なるその光景に私は息を呑んで、只々見つめる事しか出来なかった。ゆらり、手が揺れたような気がした。ゆらり、ゆらゆら、ゆっくりと揺れる手は挨拶をしているようで。異様な出来事なのだが不思議と恐ろしくは無かった。

2012-08-31 01:55:47
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

この家に棲んでいるのか、この家と共に消えるのか。可哀想だな、なんて考えが浮かんだ途端、それと重なるように手は柱の中に掻き消えてしまった。何故、幼い私はあの手に怯えてしまったのだろう? あんなにも優しげで、美しい手であったのに。

2012-08-31 01:56:10