マヨヒガ

怪奇の種の小泉より、4話目の『マヨヒガ』で御座います。
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小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

私は登山が好きで、休日にはよく山に行った。一人で登る事も有れば、登山仲間と共に登る事も有った。9月に入った頃、登山仲間達に「今度の連休にでも何処かの山に登りに行こう。」と、話を持ちかけた所、山好きの連中と言う事もあり、全員二つ返事だった。

2012-09-01 03:35:25
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

登山当日の早朝。私と仲間を入れた4人は車で、近場のそれなりに標高のある山へと向かった。登山の予定は、昼過ぎまでに山頂まで行き、夕方には下山し終えるという日帰りプランであった。経験者ばかりでの登山だったので、昼過ぎまでには山頂に着き、下山をし始めた。

2012-09-01 03:36:37
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

その下山中に突如、濃霧に襲われて身動きが取れなくなってしまい、霧が晴れるまでその場で待つ事にした。なにかがオカシイ。どれだけ待っても霧が晴れないのだ。 しかし、霧の中を無闇に歩き回るのはかえって危険であり、その場に留まるしか術は無かった。

2012-09-01 03:37:27
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

その間にも日がドンドンと沈み、辺りが暗くなり始めたのが解った。日が暮れると思うと、凄まじい恐怖からか、ガタガタと体が震え始めてきた。それは皆も同じだった様で、3人とも顔を強張らせて小刻みに震えていた。

2012-09-01 03:38:10
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

それから日がすっかり沈みきり、辺りが暗闇に包まれた頃になって、ようやく霧が晴れた。 だが、それと同時に4人とも絶句した。 濃霧の間、ずっと身動きを取らずにジッとしていたのに、登山道ではない、森の中に自分達が居たからである。

2012-09-01 03:40:12
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

どうしたら良いのかと途方に暮れていると、自分の前方にかすかだが灯りが見える事に気付いた。 「人が居る。これで助かる!」心の中でそう呟いた。 こんな森の中に人が居るという事を心の底から感謝した。 他の3人に向こうに灯りがある事を教えると、全員が「助かった!」と、沸き立った。

2012-09-01 03:41:11
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

それから、灯りの方へと急いで駆け寄ると、そこには山小屋のペンションが有ったのだ。 生まれて初めて、『地獄で仏』とは、この事かと実感した。   全員ですぐ、ペンションの入り口へ向かい「すみませーん。」と、大声で呼びかけてみたのだが、返事が無い。

2012-09-01 03:41:35
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

なので、さっきより大声で「すみませーん! 誰か居ませんか?」と、何度も呼びかけてみたが、全く返事は無かった。   仕方なく玄関のドアノブを回してみると鍵は掛かっておらず、スッとドアが開いた。 玄関からロビーへと入り、また呼びかけてみたが、やはり返事は無い。

2012-09-01 03:41:58
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

ペンションの中を隅々まで見て回ったが、ロビー以外の部屋は電気も点いておらず、人の気配は一切なかった。 たまたまペンションの主人や、従業員が留守で誰も居ないのか、もしかして本当に無人なのか? など、色々と考えたが、とにかく一夜を過ごせる場所を得たのと、自分達が助かった事に安堵した。

2012-09-01 03:42:21
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

4人とも安心感からか、急に空腹に襲われて、『グウゥゥ』と大きいな音がお腹から鳴った。 突然、間抜けな音が響いたせいで、全員プッと吹きだして大笑いした。 だが、こんな事になるなら、もっと食料を持って来ていれば良かっと思っていると、突然、奥の方から良い匂いがしてきた。

2012-09-01 03:42:53
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

4人とも匂いに釣られて奥に向かうと、その匂いが食堂の方からして来ているのが解ったので、皆で食堂へ入った。 そこには大きな木製のテーブルが有り、その上に四人分の食事が用意されていた。

2012-09-01 03:43:40
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

先程、ペンション内をくまなく探索した時は、この食堂も調理場も誰も居なかったのは確認していたのに、何時の間に料理が用意されたのだろうか。 その料理は、岩魚の塩焼き、茸の天麩羅、茸汁、それと、ご飯の入った御櫃まで置かれていて、どれも手の込んだものばかりだった。

2012-09-01 03:44:05
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

その料理は温かく、何時の間に、一体誰が用意したのか? 「さっき見た時は誰も居なかったよな?」と、仲間に確認を取ってみるが。やはり、3人とも誰も居なかったと答える。私は得体の知れない恐怖に襲われた。  ところが仲間の1人が「折角、誰かが用意してくれたんだし頂こうぜ。」と言い出した。

2012-09-01 03:45:13
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

私は、得体が知れないから止めた方が良い、と彼を制止したのだが、彼は私の忠告を聞かずに箸を付けた。   料理を口にした彼は「こんな美味いものは食べた事が無い!」と、そのまま夢中で頬張りだした。

2012-09-01 03:45:44
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

それを見て、他の2人も「もしかしたら、ここの主人は物凄くシャイな人で、隠れて居るとかで、本当は人が居たんだよ。」とか「そうだな、折角なんだしな…。それに美味そうだし。」などと言い、2人も料理を食べ始めた。

2012-09-01 03:46:32
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

2人とも「美味い! 美味い!」と料理を頬張りだし、それを見ていた私も、ついに我慢出来ず箸を付けてしまった。 「美味い! 信じられない位、美味い!」 結局は私も、他の3人と同様に料理を貪る様に食べたのだった。  

2012-09-01 03:46:57
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

食べ終えてから、この料理は本当は自分達に出されたものじゃ無かったのでは? と空腹が満たされた為か、ふと我に返り不安になって来た。 だが、その後も誰か出てくるでも、何かある訳でも無く、相変わらず私達4人以外の気配は無かった。  

2012-09-01 03:47:19
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

それから、仲間の1人が「腹も膨れたし、風呂に入りたくなったなぁ。」と、冗談で言うと、浴室の方から『ザザザー』と水が流れる様な音が聞こえた。慌てて全員で浴室に向かうと、浴槽に湯が張られていたのだ。 一体さっきから誰が? いつの間にやっているのか? 疑問と恐怖で頭の中が一杯になった。

2012-09-01 03:47:41
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

4人とも、その場で固まっていたのだが、一人が「折角だし、入らせて貰おうか?」と、口に出した。 でも、1人で入るのは怖いらしく、私も一緒に入る事にした。   先程まで怖かったはずなのに、風呂に入って気持ち良くなったせいか、さっきまで考えていた事がすっかり抜けてしまっていた。

2012-09-01 03:47:53
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

そろそろ風呂から上がろうかという頃、バスタオルなんて持って来てないし、体をどうして拭おうかと思った時だ、脱衣所の方からバサっと言う音が聞こえた。 恐る恐る覗き込むと、脱衣所に2人分のバスタオルと浴衣が畳んで置かれていたのだ。  

2012-09-01 03:48:14
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

私は慌てて、浴室が空くのをロビーで待っている2人に「なあ、バスタオルと浴衣なんだけど、脱衣所に置いたよな?」と、尋ねてみたのだが。2人とも知らない、と首を横に振った。 絶対、このペンションは変だ。 再び得体の知れない恐怖に襲われた。

2012-09-01 03:48:26
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

私はこのペンションに居るであろう、姿無き人物の正体を確認してやろうと、次の2人が風呂を使っている間、脱衣所に潜んで正体を暴こうとした。

2012-09-01 03:48:52
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

しばらく脱衣所で息を潜めていると、自分の背後でバサっと言う音がした。思わず振り返ると、そこには2人分のバスタオルと浴衣が綺麗に畳んで置かれていた。 と、言うよりも急に現れたと言った感じの方が適切である。 

2012-09-01 03:49:25
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

「冗談じゃない!もうこんな所に居られない!」と、私は大声で喚いたのだが、3人から夜中の森の方がもっと危ない、と窘められて我に返った。 確かに3人の言うとおりである。 例え、ここがお化け屋敷有ったとしても、夜中の森に比べたらまだ安全だと、無理矢理に自分を納得させた。

2012-09-01 03:49:35
小泉怪奇@怪談を蒐めるヒト @kaikinotane

とにかく、さっさと寝て日が昇ったらココから出ようと思った瞬間、二階の方から『ドタドタ、バサッ、バササッ』と言う音がした。何だと思い、全員でビクビクしながら2階へ上がると、すぐ手前の部屋のドアがコンコンっと音を立てた。

2012-09-01 03:50:05