「キョート・ヘル・オン・アース」急「ラスト・スキャッティング・サーフィス」#5

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

第2部「キョート殺伐都市」より:「キョート:ヘル・オン・アース」急「ラスト・スキャッティング・サーフィス」#5

2012-09-01 21:21:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

崖下へとダイブしてから、果たしてどれほどの時間が経ったか……。ナンシー・リーはすでに、時間間隔を完全に喪失していた。 1

2012-09-01 21:26:24
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聖四行詩の座標情報を目指してIRCコトダマ空間を潜行し続けたナンシーは、やがてマリアナ海溝めいた暗黒の深海世界へと達していた。タイトな黒いボディスーツが、豊満なバストを隠す。微かな燐光を放つ美しいブロンドが、無重力めいて幻想的に揺らめく。 2

2012-09-01 21:35:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

開闢から蓄積されてきた無数のコトダマが、闇の中に稀少な深海魚めいて漂い、ナンシーの目を感じると忘却の暗闇の中に消えてゆく。この暗い海水すら無数のコトダマによって織られたものなのかもしれないし、あるいはネットワーク最深部に対するナンシーの思考が視覚化された結果なのかもしれない。 3

2012-09-01 21:41:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

おそらくはその両方なのだろう。コトダマ空間認識者は、周囲の定義情報を上書きする強い意志力と言語能力、そして高速タイピング能力がなければ、無数のコトダマの海で自我を失い01拡散し消滅してしまうからだ。少なくともナンシーはそう教わった。死滅したネオン鉄骨海底都市が彼方に仄見えた。 4

2012-09-01 21:51:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナンシーは時に力強くトーピードめいて垂直潜行し、時に船から投げ捨てられたブロンド人形めいて暗闇を漂った。それは覚醒と睡眠を痙攣的に繰り返すザゼン・カナシバリにも似ていた。「実際安い」と書かれたネオンが視界限界で明滅し、リュウグウノツカイが彼女の周囲を一周して静かに上に登った。 5

2012-09-01 21:59:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナンシーは重い畏怖を覚えていた。暗黒時代の人間たちが海に対して覚えていたような畏怖を。果たして誰がこのような空間を作り得たのか。だが無力感に屈すれば、自らもまた01に消えてしまうだろう。死者のポーズから醒めるヨガボンズめいて、指先から順番にナンシーは論理肉体の感覚を取り戻す。 6

2012-09-01 22:05:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

微かに温かい水流を感じる。「ゲート、ゲート、パラゲート……」「ゴーン、ゴーン、ゴーン、ビヨンド……」「皆逝ってしまった……彼方へ……彼方への……大門……」それはキョート市民が捧げる悲痛な祈りか、IRCに流れるカルト教団のチャントか、ブディズム経典に隠されたニンジャ暗号か……。 7

2012-09-01 22:13:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナンシーが知覚したそれらの新鮮なIRC流入は、視界の端でイクラサーモンの魚群となって上へ登っていった。遥か上方世界……黄金立方体が浮かぶ場所に、何か巨大なものが生成されてゆく感覚を、彼女は直感的に味わった。「もっと深く……」ナンシーは焦燥感に抱かれながら、さらに潜行を続ける。 8

2012-09-01 22:20:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼女はさらに何度も自我を失いかけ、そのたびに取り戻してダイブを続けた。全体の接合部が緩んだブロック玩具を、強く全方向から押さえ直し、凝縮するように。……自分の名前すらも忘却しかける頃、彼女は完全な暗黒の中で浮遊しながら再覚醒した。IRC定義情報が高密度すぎ、視覚化すら不可能。 9

2012-09-01 22:29:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そこで彼女は、薄ぼんやりとした光の接近を見た。何か巨大な物体に跨った人型が、接近してくる。……おお、ナムアミダブツ。傾き朽ち果てたトリイ・ゲートをくぐって。ナンシーにはそれが何者なのか視認できなかった。それは近くて遠い場所から彼女を見つめていた。WhoIsの視線を感じた。 10

2012-09-01 22:40:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

それはイルカめいたエコー言語によって、Whisperを送ってきた。周囲の水が優しく揺れるのを感じた。だがナンシーの意識は混濁し、そのIRCを拒絶してしまう。彼女もまたWhoIsをタイプした。だが自我を失いかけた彼女の目には、その人型の背後に浮かんだ真の名前すら滲んで見える。 11

2012-09-01 22:46:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

相手は一段階高度な存在なのだと直感する。それは常人がIRCチャット内でヤバイ級ハッカーに遭遇した時に抱くような恐怖。不意に、ナンシーの心を恐怖が満たした。理解できぬ眼前の相手に対する恐怖。相手もまた身構えた。その言葉がイルカめいたエコー言語となってナンシーに返った。 12

2012-09-01 22:56:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

両者が互いをKickしかけた時、頭上を無骨な松明の火が照らした。それは松明を咥え水中を旋回する大鴉であった。ナンシーは不意に自らの名を思い出し、それと同時に相手の名を知った。姿は未だ人型の光としてしか認識できないが、頭の後ろにはThe Vertigoの文字が浮かんでいた。 13

2012-09-01 23:03:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

二者はイルカエコーで意思疎通を行った。ニューロンリンクの速度で。(((ヴァーティゴ=サン、ちょっと付き合ってくれない)))(((ワッザ!)))(((ニンジャスレイヤー=サンがあなたを必要としてる。彼は銀の鍵を持っている)))(((でも俺は大きなミーミーに跨ってるんだぞ))) 14

2012-09-01 23:14:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナンシーはハッカー時代の教えやネットワーク神話を思い出し、眼前の狂人が何を言っているのか理解しようとした。だが答えは思考するまでもなくニューロンの速度で訪れた。(((リアル世界に出てこれないのね?)))(((ああ、何しろふにゃふにゃした悪竜のミーミーはかなり大きいんだ))) 15

2012-09-01 23:25:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ザ・ヴァーティゴはコトダマ空間の住人であり、現実世界に肉体を持たないため、彼をキョート城へと呼ぶことができないのだ。(((策を練りましょう。大きな門が開こうとしている……でもそれが開いてからでは間に合わない)))(((ニンジャスレイヤー=サンとはすれ違ったきりなんだ))) 16

2012-09-01 23:34:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(((すれ違った……ポータルの中を流される時に)))ナンシーは、ブリーフィングでニンジャスレイヤーが語った物語を思い出した。(((IPさえ見せてくれたら、大まかな方向は解るんだが)))ザ・ヴァーティゴも思案していた。(((あの時のポータルを開くわ、もう一度)))とナンシー。 17

2012-09-01 23:45:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

我ながら突拍子も無い話だ、と彼女は思った。そして物理空間座標を知る手助けになればと、危険を承知で自らのIPを明かした。(((落胆させたくないから最初に言うけど、俺に肉体は無いんだ。でも、俺の一部がそこに行きたがってる。だから試しにやってみよう。どうなるかやってみよう))) 18

2012-09-01 23:54:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナンシーは論理肉体が軋み、自我が崩壊しかけるのを感じた。そろそろ潮時だ。(((私の後を追ってきて。すぐにポータルを開いてもらうから)))(((アイ、アイ)))そしてナンシーは光速で浮上した。大鴉も少し遅れて上に昇ってきた。ナンシーほどの速さはなかったが。 19

2012-09-02 00:02:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナンシーはWhoIsで大鴉の正体を知った。それはディテクティヴであった。ガンドーは彼女を支援すべくLAN直結した時、開きかける九つの門を視て気絶し、突如IRCコトダマ空間を認識したのだ。ナンシーが初ダイブに成功した時と同じく、彼は未だぎこちなく、発言ができないようだった。 20

2012-09-02 00:11:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(((大丈夫よ、戻ってこれるわ)))ナンシーはNooBを勇気付けるように、イルカエコーを飛ばした。本来ならば彼を手助けしたいところだが、彼女は余りにも長く息継ぎ無しで潜りすぎたのだ。相手は、実際チャットが届く限界の距離にいた。(((大丈夫よ、守護精霊がついている……))) 21

2012-09-02 00:17:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

大鴉は上を目指し懸命に羽ばたいた。ナンシーは知覚範囲から消え、ザ・ヴァーティゴも彼を追い越していった。彼は暗闇の中に独り。(((オイオイオイ、ヤバいんじゃないのか)))そう呟いた瞬間、ディテクティヴは悪夢から醒めるように目を開いた。彼はガンドー探偵事務所のベッドに寝ていた。 22

2012-09-02 00:22:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……ッ!ハァーッ!ハァーッ!ハァーッ!」ナンシー・リーの物理肉体は、現実世界のUNIXバンの中で目覚めた。キンギョ屋とディプロマットの神妙な顔が視界いっぱいに広がり、次いで彼らは驚嘆の表情を作った。……無理もない。ナンシーの脳波と心拍は、実際何度も平坦化していたからだ。 23

2012-09-02 00:25:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……1010101111」ナムサン!ナンシーは突如ダイヤルアップめいた言葉を発し、マグロめいて口をパクパクとさせた。まるで何百年もエコー会話を続け、言葉を忘れてしまったかのように。だがすぐに彼女は意識のチャネルを切り替え、告げた。「ポータルを……広い場所で……お願い!」 24

2012-09-02 00:34:05
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