斎藤清二先生による「医療におけるナラティブ・アプローチと物語能力」

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斎藤清二 @SaitoSeiji

いつも同じようなことばかり書いているような気がするのだが、「医療におけるナラティブ・アプローチと物語能力」というタイトルで、短文をまとめてみた。もちろん語りきれていないところが多いのは承知で、連続ツイートしてみます。

2012-09-02 16:19:27
斎藤清二 @SaitoSeiji

①医療においてナラティブ・アプローチが注目されるようになってきたのは1990年代後半からである。主として英国のトリシャ・グリーンハル教授らを中心とするグループによって、ナラティブ・ベイスト・ メディスン(NBM)として提唱され、2000年代に入って、日本でも注目されるようになった

2012-09-02 16:23:05
斎藤清二 @SaitoSeiji

②ナラティブとは、日本語では「物語」「語り」「物語り」「ものがたり」などと訳されるが、一般的には「できごとについての言語記述(ことば)を、何らかの意味のある連関によってつなぎあわせたもの、あるいはことばをつなぐことによって『意味づける』行為」と定義される。

2012-09-02 16:24:02
斎藤清二 @SaitoSeiji

③なぜ医療において(それどころか人生一般において)物語が大きな力を持つかというと、それは物語が「経験を意味づける」働きをもつからである。私達は刻々と経験する出来事の連鎖を物語的に意味づけながら生きている。

2012-09-02 16:24:52
斎藤清二 @SaitoSeiji

④物語の特徴として、以下の三つを挙げることができる。第1に、物語は多様な意味をもつ。物語は経験を意味づける働きをするが、その意味づけ方は一通りではない。

2012-09-02 16:26:34
斎藤清二 @SaitoSeiji

⑤例えば、「それまで話の輪に入っていなかった私が一言発言したら、周囲の人がみな黙ってしまった」という経験から、ある人は「私の意見が正当なので、みな反論できなかった」という物語を紡ぎだすだろう。

2012-09-02 16:28:11
斎藤清二 @SaitoSeiji

⑥しかしまたある人は「私が空気を読めない発言をしたので、みんなしらけてしまった」という物語を紡ぎだすかも知れない。経験の意味づけ方は複数存在し、どれが真実であるかを知ることは、多くの場合できない。このような現象を「羅生門効果」と読んだりする。

2012-09-02 16:30:25
斎藤清二 @SaitoSeiji

⑦第2に、物語のもつ「経験を意味づける」働きは、時として私達の自由を奪い拘束してしまう傾向を持つ。ひとたび「私は空気が読めないので場を白けさせるような人間だ」という自己物語が形成されると、その人は毎日経験されるできごとを、全てその線にそって意味づけてしまうかも知れない。

2012-09-02 16:32:30
斎藤清二 @SaitoSeiji

⑧その人の言動とは必ずしも関係がなくても、誰かがちょっと顔をしかめたり、会話に空白ができたりすることをきっかけに、「やっぱり私の行動のせいだ」という物語が紡がれてしまうかも知れない。その結果その人は、社会活動において必要以上の苦しさを抱えてしまうことになるかも知れない。

2012-09-02 16:33:51
斎藤清二 @SaitoSeiji

⑨物語の持つ第3の特徴は、物語は変化していく、ということである。これは第2の特徴と矛盾するようにみえるが、堅固で変化しようがないと思える自己物語であっても、語る機会が与えられ、十分に聴きとられ、安心できる場での対話が促進されることによって、徐々にではあっても物語は変化していく。

2012-09-02 16:38:09
斎藤清二 @SaitoSeiji

⑩物語の表現とその共有は、語る/聴くというチャンネルを介して行われることもあるし、書く/読むというチャンネル通じて行われることもある。物語は書き変えうるものであるし、自ずから変容するものでもある。時には混沌の中から全く新しい物語が浮かびあがることもある。

2012-09-02 16:39:43
斎藤清二 @SaitoSeiji

⑪医療におけるナラティブ・アプローチの特徴は、以下のようにまとめられる。①ナラティブ・アプローチは、病いを、その人(患者さん)の人生と生活世界の中で体験される一つの物語として理解する。ここでいう「病い」とは患者自身が体験する「病気」の主観的側面のことである。

2012-09-02 16:45:46
斎藤清二 @SaitoSeiji

⑫ ②ナラティブ・アプローチは、患者さんを物語の語り手、物語の主人公として尊重するとともに、患者さんが自身の病いをどのように定義し、それにどう対応していくかについての患者さん自身の役割を最大限に尊重する。

2012-09-02 16:47:12
斎藤清二 @SaitoSeiji

⑬ ③ナラティブ・アプローチは、医療者の拠って立つ理論や方法論も、あくまでも医療者の一つの物語と考え、唯一の正しい物語は存在しないことを認める。

2012-09-02 16:48:34
斎藤清二 @SaitoSeiji

⑭ ④ナラティブ・アプローチは、医療とは、患者、家族、医療者等の複数の関係者が語る多様な物語を、今ここでの対話において摺り合わせる中から、新しい物語が浮上するプロセスであると考える。

2012-09-02 16:49:36
斎藤清二 @SaitoSeiji

ちょっと長くなりましたので、いったん休憩します。

2012-09-02 16:50:49
斎藤清二 @SaitoSeiji

「医療におけるナラティブ・アプローチと物語能力」の後半を連続ツイートします。

2012-09-02 17:13:24
斎藤清二 @SaitoSeiji

①医療におけるナラティブ・アプローチの考え方が普及する中で、ナラティブ・メディスン(物語医療学)という新しいムーブメントが、コロンビア大学のリタ・シャロン教授によって提唱され、米国を中心に急速に注目されるようになってきた。

2012-09-02 17:14:46
斎藤清二 @SaitoSeiji

②ナラティブ・メディスンの出発点は、コロンビア大学において2000年にスタートした医学生、研修医、看護師やソーシャルワーカーなどの医療者を対象とした教育と訓練のプログラムであった。

2012-09-02 17:16:00
斎藤清二 @SaitoSeiji

③シャロン教授 は2006年に『Narrative Medicine: Honoring the Stories of Illness』を出版した。同書において、ナラティブ・メディスンは「物語能力(ナラティブ・コンピテンス)を通じて実践される医療」と簡潔に定義されている。

2012-09-02 17:17:53
斎藤清二 @SaitoSeiji

④「物語能力」の最も直接的な定義は「病いの物語(stories of illness)を認識(recognize)し、吸収(absorb)し、解釈(interpret)し、それに心動かされて行動(be moved by)するための能力(competence)」とされている。

2012-09-02 17:20:01
斎藤清二 @SaitoSeiji

⑤「物語能力」を、私なりにもう少し噛み砕いて表現すると以下のようになる。「物語能力を備えた医療者」とは、臨床実践の中でそれが必要とされる状況において、以下のような「物語的行為(ナラティブ・アクト)」を実行することができる医療者であると考えられる。

2012-09-02 17:23:09
斎藤清二 @SaitoSeiji

⑥ 物語能力の下位要素を以下の4つにまとめる。 1)患者の言葉に耳を傾け、病いの体験を”物語として”理解し、解釈し、尊重することができる。2)患者がおかれている苦境を、”患者の視点から”想像し、共有することができる。(続く)

2012-09-02 17:27:07
斎藤清二 @SaitoSeiji

⑦ (承前) 3)医療における多様な視点からの複数の物語群を把握し、そこからある程度の一貫性を持つ物語を紡ぎ出すことができる。 4)患者と物語を共有し、患者のために臨床判断を行い、それを実行することができる。

2012-09-02 17:28:48
斎藤清二 @SaitoSeiji

⑧シャロン教授は物語能力の類縁概念として、たくさんの表現を用いているが、物語能力の教育に直接関連する重要な概念としては、物語技能(ナラティブ・スキル)と、物語的訓練(ナラティブ・トレーニング)がある。

2012-09-02 17:29:49