山本七平botまとめ【「芸」の絶対化と量③】/物量がないという”前提”で磨いた特殊な「芸」を、そのまま物量を活かす技術として転用できると誤解している日本人

山本七平著『なぜ日本は敗れるのか―敗因21ヶ条』/第7章 「芸」の絶対化と量/192頁以降より抜粋引用。
8
山本七平bot @yamamoto7hei

1】例をあげれは「百発百中の砲一門は…」という考え方である。これは百発百中の砲一門に一発の砲弾があれば百発一中の砲一門に百発の砲弾があるのと同じ威力がある、という事になる。この考え方は一見、数理的合理性をもっている様な錯覚を抱かし、芸至上主義の”科学的裏付”の様な形になってしまう

2012-09-03 05:57:41
山本七平bot @yamamoto7hei

2】だがしかし、あらゆる火器には公算誤差が存在する。この誤差は、どんなに精密に火器を造りあげても、各部分部分に生ずるさまざまな計測不能の誤差と、客観情勢の変化により必然的に発生する誤差と、発射の条件変化に基づく誤差との総計のようなものである。<『日本はなぜ敗れるのか』

2012-09-03 06:28:00
山本七平bot @yamamoto7hei

3】簡単にいえば、各砲弾の重量は完全に均一ではない。これはプラス(+)マイナス(-)を砲弾に記してあり、プラス2からマイナス2まであり、試射等で決定標尺を求める場合、なるべく同一記号弾を使用することが原則だが、この十一符号内の誤差はいかんともしがたい。

2012-09-03 06:57:46
山本七平bot @yamamoto7hei

4】第二に、気温である。炎天酷暑の南方で射撃するときと、零下三十度で射撃するときでは、装薬発火時の温度が違うから、当然に、爆発推力に誤差が生じる。また同一地点でも気温は常に変化し、さらに、発射の際に出す火薬ガスが熱するので砲身の温度もちがってくる。これは修正できない。

2012-09-03 07:28:06
山本七平bot @yamamoto7hei

5】その上、風は弾道に影響する。さらに地盤、抽退器の性能、温度による抽追退液の粘度の変化、等々の誤差があり、その上、発射時に砲がはねあがる定起角という誤差がある。

2012-09-03 07:57:41
山本七平bot @yamamoto7hei

6】理屈からいえば、対角45度のときが最大射程になるはずだが、この定起角のため陸軍では通常42.5度、海軍では43度〔のとき〕が最大射程である。しかしこの定起角は、あらゆる外的条件で細かく変化する。これを不定定起角といい、これは修正の方法がない。

2012-09-03 08:28:14
山本七平bot @yamamoto7hei

7】これらの…諸要因の総計が、公算誤差であり、これは訓練では克服できない。これらの誤差を、実用化したのが「実用公算誤差」であった。従って、ある距離で、ある目標に命中弾を出そうとするなら、いかに緻密な”芸”を用いても 一定量の砲弾は必要である。

2012-09-03 08:57:45
山本七平bot @yamamoto7hei

8】かりに、その量を三十発と仮定しよう。この場合、その命中弾は、第一発目に出るか三十発目に出るかは、だれにもわからないし計測も不可能である。

2012-09-03 09:28:03
山本七平bot @yamamoto7hei

9】従って、どうしても命中弾を出したいのなら、徹底的な”芸”的訓練のほかに、なお最低一門三十発の砲弾が必要なのであり、このときもし、そこに二十発しか砲弾がないなら、今までの”芸”的訓練は一切むだになりうる――まぐれで命中弾が出てくれれば別だが。

2012-09-03 09:57:46
山本七平bot @yamamoto7hei

10】いうまでもなく、命中しない砲弾は原則として無効である。命中は質的問題だが、この質的問題を解決するには、どうしても一定量が必要であり、この量がなければ、すべては無駄――訓練もむだ、砲弾もむだ、そこに砲があるのも、砲を製造するのも、砲を遅ぶのもむだ――になってしまう。

2012-09-03 10:28:05
山本七平bot @yamamoto7hei

11】そして、この公算誤差は砲だけでなく、全ての火器に存在した。そして”芸”至上主義の陸軍に皆無だったのが、以上のわかりきった事実の、はっきりした認識に基づく自覚であった。

2012-09-03 10:57:45
山本七平bot @yamamoto7hei

12】以上のことは、日本の精兵は、”芸”としての徹底的訓練をうけ、かつその”芸”が活用できる前提がある場合にのみ精兵であって、そのいずれが欠けても全く無能力集団と化さざるを得なくなる事実を示している。

2012-09-03 11:28:02
山本七平bot @yamamoto7hei

13】だがこのことも、指導者がそれを認識しているなら、まだ対策のたて方があった。従って問題は、決して一方向では解決できなかったのである。まず、一つの面は小松氏のあげている【④将兵の素質低下(精兵は満州、支那事変と緒戦で大部分は死んでしまった)】という問題である。

2012-09-03 11:57:44
山本七平bot @yamamoto7hei

14】元来日本軍の常備兵力は十七個師団しかなかった。これは現在、ソ満国境に集結されているソヴェト軍だけで百個師団という情報と比ベれば、その驚くべき数的劣勢さが理解できるであろう。

2012-09-03 12:28:03
山本七平bot @yamamoto7hei

15】この現役師団そのものにも優劣があったであろうが、それを一応全部”芸”に到達した精兵と仮定しても、大作戦を行うには基本的絶対数が不足している。兵団の数もある点では”公算誤差”に似た面があり、一定量以上ないと、その戦力はゼロに等しくなる。

2012-09-03 12:57:47
山本七平bot @yamamoto7hei

16】これに対して軍は、ただ動員に動員をかけて、人的に補充し、最高時は約七百万(約350-400個師団)にした。二十倍以上の急膨張である。この二十倍の全部を、すぐさまあらゆる”芸”の免許皆伝の兵士に教育することは不可能である。

2012-09-03 13:45:19
山本七平bot @yamamoto7hei

17】一方、”芸”に到達した者は…初期に消耗し、たとえ残った者も、未訓練兵の中に散らばってしまえば、逆に”芸”としての力を発揮できなくなってしまう。さらにこれは、”芸”にまで訓練する”兄弟子”の欠如という形にもなった。”芸”は組織的教育法では伝授できないからである。

2012-09-03 13:57:44
山本七平bot @yamamoto7hei

18】”芸”は結局、いわゆる”しごき”を中心とする一対一の徒弟制度的教育方法でしか伝授できない。日本軍の内務班制度については、すでに多くが記されているが、それは結局、”徒弟的一対一教育機構”であった。

2012-09-03 14:28:03
山本七平bot @yamamoto7hei

19】従って、ここできたえられた兵隊というのは”東洋の魔女”のような存在だから、魔女が引退すれば、戦力はガタ落ちになってしまう。チームの中に一人魔女が残っていたところで、無力である。またこの魔女は、コートもルールも全く違う戦場に出されれば、やはり戦力にはならない。

2012-09-03 14:57:44
山本七平bot @yamamoto7hei

20】さらに、これが兄弟子の欠如という形になるが、人々がその”芸”の有効性に疑いをもたざるを得ないようになれば、その教育の場は全く空洞化し、単なるリンチの場にしかならなくなる。

2012-09-03 15:28:00
山本七平bot @yamamoto7hei

21】軍は「動員すれば兵は集められる、それを徹底的に訓練すればよい」と考えていた。確かに兵は、赤紙一枚で召集することはできた。しかし、兵器はそうはいかない。

2012-09-03 15:57:43
山本七平bot @yamamoto7hei

22】小松氏は「武器も与えずに」と記しているが、たとえ精兵が完全に残っていたとしても兵と武器とのバランスがとれてなければ無力である。砲兵将校に「射弾観測」のどんな名人芸を叩き込んでおこうと、砲と測角機材がなければ、その芸は全く無意味な芸になってしまう。

2012-09-03 16:28:04
山本七平bot @yamamoto7hei

23】私自身、フィリピンに派遣されて、現地に砲も機材も全くないことを知って驚きかつあきれた。やっと四門の野砲と緒戦当時米軍が捨てていった砲を支給されたが、観測機材がない…ところが、この機材で算出される射距離はメートルなのに、米軍の捨てていった砲の標尺はヤードであった。

2012-09-03 16:57:46
山本七平bot @yamamoto7hei

24】その上、通信機材がない。やっと、これも米軍の捨てていった電話機を入手したが、電話線がない。これだけば最後まで支給されず、現地で調達したハリガネで間にあわした。それでどんな通話が可能だったかは想像にまかせる。

2012-09-03 17:28:02
山本七平bot @yamamoto7hei

25】この状態でしかも前提がジャングルである。これでは例えいかな精兵が来てもその戦力はゼロが当然であった。だが問題はそれだけでない。小松氏が記している様にその状態にあってなお「……然るに作戦その他で兵に要求される事は、総て精兵でなければできない仕事ばかりであった」事だ。

2012-09-03 17:57:43
残りを読む(15)

コメント

コメントがまだありません。感想を最初に伝えてみませんか?