【二次創作な】「グッドバイ・マイ・アストロノーツ」#2

ニンジャスレイヤー(@njslyr)の二次創作小説です。
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欺瞞動画の会社 @naclaqns

「グッドバイ・マイ・アストロノーツ」#2

2012-09-15 12:01:14
欺瞞動画の会社 @naclaqns

(前回までのあらすじ:アマクダリ・セクトに参加したアストロニンジャ「エンデバー」がニンジャスレイヤーを宇宙から攻撃。辛くも生き残ったニンジャスレイヤーは、ナンシー・リーと共に打開策を探す。次の晴天は四十四日後、敵の攻撃はその日だ。この強敵に彼はどう立ち向かうのか?)

2012-09-15 12:04:57
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「敵が宇宙に居るのなら…こちらから出向いて殺すほかあるまい。ニンジャ殺すべし。慈悲は無い」ニンジャスレイヤー…フジキド・ケンジは言い放った。あまりの発言に、長年彼のパートナーを務めてきたナンシー・リーですら絶句する。「私にはカラテしか無い。届かぬなら行くのみ。そして殺す」1

2012-09-15 12:13:23
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「行くって、どうやって行くつもり?」「分からぬ。何にせよ行く」フジキドの言葉は決断的だ。ナンシーは深い溜め息をついた。「オーケー、分かったわ。あなたを宇宙まで送るのが今回の私の仕事。そういうことね?」「助かる」「さすがに今ここでプランを立てるのはムリよ。少し時間を頂戴」2

2012-09-15 12:19:53
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フジキドは頷いた。セッションが終わり、二人の居た空間は01へと還元されてゆく。ナンシーの意識は現実世界…ネオサイタマ某所のコフィン・ホテルへと戻った。彼女は首筋のLANケーブルを引き抜き、冷めたココアを一口飲み、そして頭を抱えた。あの男の考えは無茶苦茶である。いつものことだが。3

2012-09-15 12:29:02
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「宇宙?バカじゃないの?」ナンシーは呟く。しかしこれは彼女自身にとっても死活問題である。アマクダリ・セクトのブラックリスト、そのトップページには確かに彼女の名がある。ならば次に狙われるのは自分、いや最初の標的であってもおかしくなかった。そして彼女にこれを回避する手段は無い。4

2012-09-15 12:35:35
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しかし、どうやって宇宙へ?ナンシーは考える。そもそも敵はどうやって宇宙へ行ったのだろう?彼女は再びIRCへとジャックイン、情報の雑踏にその身を置く。きらびやかなショッピングモールを、石造りの寺院を、青青とした農村を、マンハッタンの裏路地を、ヴァーチャルの彼女は訪ね歩く。5

2012-09-15 12:41:34
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答えを知っていたのは、一頭のザトウクジラ…巨大タンカーのUNIXであった。擬人化されたザトウクジラは漁師姿のナンシーに一枚の紙を手渡す。タイムスタンプは三週間前。紙は不鮮明なモノクロ映像を映し出す。タネガジマから何かが垂直に飛び立ってゆく。「ロケット」クジラが呟いた。6

2012-09-15 12:48:45
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ナンシーとザトウクジラは手を振りあい、別れた。ロケット。ナンシーは古典SFめいた砲弾型デザインのそれを思い浮かべる。Y2K以降の人類にとって、ロケットとはすなわちそれである。半分は科学の、もう半分はフィクションの産物なのだ。その認識はほとんどオーパーツである。7

2012-09-15 12:56:17
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コトダマ空間を歩きつつ、ナンシーは考える。ロケット?そんな物をどうやって手に入れる?軍事用のそれを奪うにはまず情報収集の段階から命を賭けることとなる。民間用ロケット?存在しない。諦めかけたその時、情報の風が一枚の画像を運んできた。どこかのホームセンターの特売チラシである。8

2012-09-15 13:00:54
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「D・I・Yが実際安い!」サイバネ大工のイラストはそう主張していた。天啓であった。資金は?ある。知識は?盗む。資材は?ある。…人材は?揃っている!「HOLY SHIT!」ナンシーは歓喜の声を上げた。何も無い空間から受話器を取り出し、片っ端から電話をかけ始める!9

2012-09-15 13:05:48
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「モシモシ?ええ、私よ、久しぶり。用?ちょっとね、面白い物を作ろうと思って。ン?秘密。何なら…来る?」受話器越しの相手に話しかけるナンシーの顔には、文化祭を目前にしたハイスクール生徒めいた笑みが浮かんでいた。10

2012-09-15 13:11:43
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2012-09-15 13:12:03
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カラテ粒子を放出し、エンデバーは熱圏を飛ぶ。重力と遠心力が釣り合っている限り彼は空間を自由に移動できる。ゼロG環境での移動は本来UNIX爆発級の複雑な軌道計算を要するが、彼はその全てを感覚でこなす。大気圏内の鉛直移動などせいぜいオフィスへの通勤程度の感覚でしかない。12

2012-09-15 13:16:10
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破壊された人工衛星の影からマザーシップが現れた。その形状とサイズは一般的な日本家屋のそれに等しい。障子、瓦屋根、漆喰、木壁、しかしそれらは全て過酷な環境に耐え得るべく開発された宇宙素材である。エンデバーは玄関めいた二重式エアロックのガラス戸を開ける。ようやくの帰宅だ。13

2012-09-15 13:21:34
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内装もまた日本家屋のそれだ。重力の有無以外、地上のそれと何ら変わる箇所はない。エンデバーはニンジャ宇宙服と下着を脱ぎ捨て、宙に浮かぶサムエスーツへと着替えた。台所の冷蔵庫からチューブド・マグロとチューブド・コメを取り出し、口の中へと絞る。すなわち宇宙ネギトロ・スシである。14

2012-09-15 13:27:19
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エンデバーがこの家に引っ越してきたのはつい三週間前のことだ。彼に協力を求めたアマクダリ・セクトは、以前のロストテクノロジーであるスペースシャトルを不完全ながら再現していた。のみならず、キョート・リパブリックが独占している筈の磁気嵐貫通ビームすらもだ。条件は揃っていた。15

2012-09-15 13:33:45
欺瞞動画の会社 @naclaqns

タネガジマ旧宇宙港より打ち上げられたシャトルは中途で空中分解したが…積荷と乗客、つまりこの家の建築資材とエンデバーは無事だった。かくして彼は高度五〇〇キロメートルに一軒家を構え、地上からの脱出を果たした。しかしここは終着ではない。彼の希望を叶えるスタート地点でしかない。16

2012-09-15 13:38:06
欺瞞動画の会社 @naclaqns

何故ならここは重力井戸の水面下、大気圏すら脱していないからだ。彼は冷蔵庫に貼られた物理写真を見る。恒星間探査プロジェクト。宇宙ニンジャであるを彼を前提に立案された計画。しかしあの電子戦争が全てを破壊した。人は磁気嵐とスペースデブリを生み出し、自ら次の世界へ続く道を閉ざした。17

2012-09-15 13:43:53
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彼らの稚気じみた夢は潰えた。チームは解散され、スタッフ達の行方は辿れない。軍や暗黒メガコーポに転向したか、あるいはかつてのエンデバーのようにメガロシティの最下層で這い回っているか、あるいは死んだか。いずれにせよ未だ宇宙を目指しているのは彼一人だ。だからこそ今まで生きてきた。18

2012-09-15 13:49:35
欺瞞動画の会社 @naclaqns

アガメムノンは約束した。ニンジャスレイヤーを殺し、アマクダリ宇宙進出の橋頭堡が整い次第契約は満了。報酬は膨大な物資の形で受け渡され、エンデバーはこの一軒家と共に外宇宙を目指す。彼の人生はそこからリスタートするのだ。彼はゼリー状ビールを一口飲んだ。無重力が酒の回りを早めた。19

2012-09-15 13:53:53
欺瞞動画の会社 @naclaqns

オオヌギ・ジャンク・クラスターヤードの夜は早い。何しろマトモに電気も通っていないのだ。「タマ・リバーを渡る時、全ての希望を捨てよ」…江戸時代のハイクが謳うように、ここはネオサイタマの吹き溜まり。しかしその中の一軒、比較的小奇麗なプレハブからは明かりが煌々と漏れている。21

2012-09-15 13:59:55
欺瞞動画の会社 @naclaqns

有限会社ドウグ社。江戸時代に端を発し、そのスピリットを脈々と今に伝えるショクニン技の殿堂。その社屋の中、黒壇のテーブルに広げられた設計図を挟んで二人の老人が対峙していた。「これは…飛びますのう」「飛ぶでしょうなあ」「飛ばしますかな」「そうですなあ、やりますか」22

2012-09-15 14:04:41
欺瞞動画の会社 @naclaqns

溶接焼けの顔に柔和な表情を湛えた老人は、ドウグ社社長にして唯一の社員、サブロ。彼の造り出した数々のガジェットは幾度と無くニンジャスレイヤーの命を救い、またかつては逆に彼に命を救われもした。ニンジャスレイヤーの活躍を常に影から支える、重要パートナーの一人である。23

2012-09-15 14:09:59