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2012年9月18日

「クトゥルーの呼び声」成立におけるダンセイニ卿の影響について

H・P・ラヴクラフトが代表作「クトゥルーの呼び声」を執筆する上でダンセイニ卿の作品の影響をいかに受けたか、という『The Cthulhu Cycle』序文でのロバート・M・プライス博士の論述を紹介しつつ、ダンセイニ卿愛好家よりのツッコミも。
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立花圭一 @k1Tachibana

(1/22) ケイオシアム社のクトゥルー神話アンソロジー『The Cthulhu Cycle』で、編者のロバート・M・プライス博士が序文で『クトゥルーの呼び声』成立の背景を色々書いてるのでそれをご紹介しますー。文字数の関係でタグはつけられません。

2012-09-18 17:38:23
立花圭一 @k1Tachibana

(2/22) 『The Cthulhu Cycle』は表題通り、ルルイエで眠るクトゥルーにまつわる作品を集めたアンソロジーで、残念ながら絶版です。もちろん、クトゥルー神話の起点となった『クトゥルーの呼び声』も収録されています。

2012-09-18 17:40:27
立花圭一 @k1Tachibana

(3/22) ちなみに私も翻訳をお手伝いした『H・P・ラヴクラフト大事典』でS・T・ヨシらは、ギイ・ド・モーパッサンの『オルラ』とアーサー・マッケンの『黒い石印のはなし』の二つを特に取り上げて影響を受けている、としています。

2012-09-18 17:41:11
立花圭一 @k1Tachibana

(4/22) 一方で、ロバート・M・プライス博士はラヴクラフトの備忘録の記述に着目し、ダンセイニ卿の作品による影響が意外に大きいのではないか、という仮説を立てており、それについて述べているのがこの序文になります。

2012-09-18 17:42:05
立花圭一 @k1Tachibana

(5/22) この備忘録(Commonplace Book)とは、ラヴクラフトが1919年頃から創作ノートに書きためてきた覚え書きを、1934年に友人のロバート・H・バーロウがタイプ打ちしたものです。何度か出版されていますが、邦訳は国書刊行会の定本全集8巻にしかありません。

2012-09-18 17:43:36
立花圭一 @k1Tachibana

(6/22) 『クトゥルーの呼び声』の第一部、「粘土板の恐怖」のウィルコックス青年のくだりの原型となったのが、その備忘録25番目の項目「男が古物の博物館を訪れ――自分の作った浅浮き彫りの彫刻を引き取ってくれるかと訊く――」で始まるものです。

2012-09-18 17:44:48
立花圭一 @k1Tachibana

(7/22) これはラヴクラフト自身が見た夢を元にしており、1920年5月21日付のラインハート・クライナー宛書簡(学研『夢魔の書』34ページ)にその夢の事が記載されています。こちらの夢ではプロヴィデンスの存在しない博物館に浅浮き彫りを持ち込んだのはHPL自身でした。

2012-09-18 17:45:50
立花圭一 @k1Tachibana

(8/22) さて、備忘録25番の直前にあるメモにはこう書かれています「ダンセイニ――『ゴーバイ・ストリート』。男が偶然に夢の世界を見出し――現世に帰り――また夢の世界に戻ろうとし――うまくいくが、夢の世界は古く、何千何万年も経ったかのように朽ち果てていることを知る。」

2012-09-18 17:46:25
立花圭一 @k1Tachibana

(9/22) この『ゴーバイ・ストリート』とはダンセイニ卿の短編「〈見過ごし通り〉のとある店」という作品の事です。ここで主人公はかつて訪れた夢の世界を再び訪れようと、〈見過ごし通り〉のとある店を訪れるのですが、ここで主人公と店主の交わした会話に御注目。以下引用――

2012-09-18 17:47:16
立花圭一 @k1Tachibana

(10/22) 「ここは」と、カーペット地の上靴を履いた太り肉の老人がいった。「眠れる神の安息所です」いかなる神々が眠っておられるのか、と尋ねると、老人は私の知っている名前のほかに聞いたことのない名前をあげた。「いま崇められていない神々は」と彼はいった。

2012-09-18 17:48:26
立花圭一 @k1Tachibana

(11/22)「いずれも眠っておられるのです」 「それなら〈時〉は神々を殺めるのではないのか?」と尋ねると、彼は「殺めません。しかし、ある神は三千年か四千年のあいだ崇められ、三千年か四千年のあいだ眠りにつくのです。常に目醒めているのは〈時〉だけです」と答えた。

2012-09-18 17:48:57
立花圭一 @k1Tachibana

(12/22) 「しかし、新しい神々について教える者たちがいる」――とわたしは彼にいった。「その神々は新しくないのか?」 「そのものたちは、めざめかけている古きものたちが、眠りのなかで身じろぎする音を聞くのです。

2012-09-18 17:49:32
立花圭一 @k1Tachibana

(13/22) なぜなら夜明けが近く、司祭たちが時を作るからです。この者たちは幸せな預言者です。不幸な預言者というのは、いまだ深い眠りについている古き神の語る声を聞く者です。預言はつぎつぎともたらされますが、夜は明けません……」――以上、引用終わり。

2012-09-18 17:50:07
立花圭一 @k1Tachibana

(14/22) 何かどこかで聞いたような話になってきましたね。何千年も眠りにつく神。めざめかけている古きもの。いまだ深い眠りについている古き神の語る声……「ルルイエの館にて死せるクトゥルー夢見るままに待ちいたり」ですよ。

2012-09-18 17:50:43
立花圭一 @k1Tachibana

(15/22) 更にプライス博士は、もうひとつのダンセイニ卿の作品から、『クトゥルーの呼び声』が多大な影響を受けていると見ています。それはラヴクラフトが自らの創作神話を発展させる上で影響を受けたと認めている『ペガーナの神々』です。

2012-09-18 17:52:11
立花圭一 @k1Tachibana

(16/22) 『ペガーナの神々』は大雑把にまとめると、マーナ=ユード=スーシャーイが神々を造って眠りにつき、神々が世界を造ったが、マーナ=ユード=スーシャーイが目醒めれば神々も世界も消滅し、ただマーナ=ユード=スーシャーイだけが残る……という創作神話の話です。異論は認めます。

2012-09-18 17:53:52
立花圭一 @k1Tachibana

(17/22) その『ペガーナの神々』の中に「鼓手スカールのこと」という話がありますが、そこにはこうあります。以下引用―― マーナ=ユード=スーシャーイが神々に加えてスカールを造られたとき、スカールは太鼓をひとつこしらえて、永久に打ち鳴らすべく叩きはじめた。

2012-09-18 17:55:02
立花圭一 @k1Tachibana

(18/22) やがて、神々を造られたあとの疲れと、スカールの太鼓のせいで、マーナ=ユード=スーシャーイは眠気にいざなわれるまま睡りにつかれた。マーナが睡りにつかれるのをごらんになった神々は静まりかえり、ペガーナは静寂に包まれた。聞こえるのはスカールの太鼓の音ばかり。(中略)

2012-09-18 17:55:48
立花圭一 @k1Tachibana

(19/22) ときおり腕が疲れることもある。それでも、神々の御業が成るように、すべての世界がつづくようにと、なおもスカールは太鼓を叩く。スカールがいっときでも手を休めればマーナ=ユード=スーシャーイがたちまち目を覚まされ、数多ある世界も神々もたちどころに消えうせるのである。

2012-09-18 17:56:21
立花圭一 @k1Tachibana

(20/22) しかし、ついにスカールの腕が太鼓を叩くのをやめるとき、洞窟のなかでとどろく雷のごとく静寂がペガーナをどよもし、マーナ=ユード=スーシャーイは睡るのをやめられるであろう。 ――以上、引用終わり。

2012-09-18 17:57:51
立花圭一 @k1Tachibana

(21/22) ペガーナ神話における創造主マーナ・ユード・スーシャーイは、しばしばクトゥルー神話において世界の創造主とされる魔王アザトースと同定され、鼓手スカールはそのアザトースやナイアーラトテップに随伴する不定形のフルート吹きや太鼓持ちの原型とされています。

2012-09-18 17:59:27
立花圭一 @k1Tachibana

(22/22) しかしここでプライス博士は、マーナ・ユード・スーシャーイを、夢見ながら復活の時を待ち、後年ロバート・ブロックが『アーカム計画』で描いたように、目覚めれば人類社会に破滅をもたらすクトゥルーになぞらえています。

2012-09-18 18:00:16
立花圭一 @k1Tachibana

(23/22) マーナ・ユード・スーシャーイの目覚めによって世界が滅びる、というテーマを、ラヴクラフトはアザトースとクトゥルーの両方に帯びさせたわけですね。アザトースとクトゥルーはひとつのテーマから派生した双子、ウェイトリイ家の双子のような存在であるという事です。

2012-09-18 18:01:56
立花圭一 @k1Tachibana

(24/22) かつてラムジー・キャンベルが、初期作品の中で“アザトースのもうひとつの名前”について言及していますが、これはクトゥルーを指している、と結論付けて、プライス博士の『クトゥルーの呼び声』へのダンセイニ卿の作品からの影響の話は終わります。序文は続きますが、それは割愛。

2012-09-18 18:07:57
立花圭一 @k1Tachibana

(25/22) ラヴクラフトはダンセイニ卿の影響を脱し独自の創作神話を構築しましたが、それでもダンセイニ卿の作品から霊感を受けていたのだ、という話でした。 以上終わり。 ……ナンバリング思いっきりミスりましたorz 

2012-09-18 18:11:11
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