ハイスピード解決探偵、ナズーリン

実験的連載的な
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適当 @5tuzi

第二部「喪われた地子のJKブランド」より

2012-09-06 02:57:14
適当 @5tuzi

ナズーリンは悩んでいた。主に今月の家賃及び光熱費をいかに払うのかということを。ナズーリンは自営業である。しかも、探偵という収入の不確定な仕事をしているため、今月のように依頼が少ないとたちまち首が回らない。

2012-09-06 03:00:42
適当 @5tuzi

「やれやれ。まさか私がこんなことになるとはね」豆の汁とかろうじて判別できるものを啜りながら、そういえばインスタントコーヒーも切らしそうなことを思い出す。水よりも不味いそれも、飲めなくなればかなり寂しい。

2012-09-06 03:03:07
適当 @5tuzi

ナズーリン探偵事務所。安ビルの一室を借りて始めた道楽商売は、周囲の予想よりは遥かにマシに回っていた。探偵と言っても、迷子の犬を探すだの、浮気の調査だのしか依頼は来ないが、実際この辺は性に合う。

2012-09-06 03:08:22
適当 @5tuzi

掃除も好きだ。清潔感のあるオフィスは顧客を安心させる。探偵といえば書類が乱雑に積み重なり、無精髭を伸ばしただらしないイメージが世には根付いている気がするが、まったくそんなことはない。

2012-09-06 03:10:11
適当 @5tuzi

ではなぜ、依頼が多少少ないくらいで首が回らないのか。「あの、ナズーリン、財布を落としてしまいました……」「ブーッ」豆の汁を盛大に吹き出し、事務所内はたちまち大惨事に。慌ててそれを拭こうとして、ペン立てが落下。

2012-09-06 03:13:34
適当 @5tuzi

「おっま、あのなー!今月のなー!家賃がなー!光熱費がなー!あと私のことは所長と呼べと言ったはずだが?」「す、すみません所長。スーパーを出るまでは確実にあったんですが……」しょぼくれる金髪に黒のメッシュが入った女。

2012-09-06 03:16:12
適当 @5tuzi

ナズーリンよりも頭一つは大きい彼女は、心底申し訳なさそうにうまい棒をかじった。「食べんなよ!もう少し申し訳なさそうにしようよ!」「ご、ごめんなさいお腹空いちゃって……」「聖に言っておこうか」「ああナズーリン!後生だからそれだけは!」

2012-09-06 03:18:49
適当 @5tuzi

女――寅丸星は、肉食獣のような鋭い瞳に涙を一杯に溜めて懇願した。「なんでもしますから!」「じゃ、今月のバイト代なしで」「そんなぁ……」星はこれで半年バイト代無しであった。「これで、人件費が浮くけれど、問題が解決したわけじゃない」

2012-09-06 03:23:03
適当 @5tuzi

「まぁ今日明日死ぬわけじゃないし、最悪、寺に食事をたかれば生きていけるが、私のプライドがね」「私は聖のご飯好きですよ」「そうだね」星は大学の後輩にあたり、聖はナズーリンにとっては師事した相手、といっても取ったゼミの担当教授に当たる。

2012-09-06 03:27:36
適当 @5tuzi

孤児院を運営する聖を子供のときから何かと手伝ってきたらしい星は、聖を姉か母かのように尊敬していた。ナズーリンはそれほどでもないが、学生時代は頻繁に招かれたため、孤児院の面々とも面識があった。

2012-09-06 03:31:30
適当 @5tuzi

電話が鳴った。星に対して言いたいことはまだあったが、ひとまずそちらを優先する。「もしもし」「身辺調査の依頼をしたいのですが」いきなり用件に入るとは何とも余裕がない。しかし、浮気調査などの依頼ではよくあることだ。今回もそういう類だろうとナズーリンは得心した。

2012-09-06 21:07:18
適当 @5tuzi

「ええもちろん。実際身辺調査は私の専売特許のようなものでして。詳しい内容はこちらに出向いて頂いてからということで?」「いえ、できればそれはなしで。メールで詳しいことはお知らせ致します」「ああはい」これも、特別珍しいことではない。依頼していることを知られたくない人は一定数いる。

2012-09-06 21:10:14
適当 @5tuzi

その後は事務的な会話をして電話を切った。星は戸棚にあった大福を勝手に食べていた。早く交番に行けよ。「ナズー。聖にメールしたんですが、今日はうちにきて夕飯を食べましょうって」「その前に交番に行って財布が届いているかを確かめてきてくれ」「全く、人使いが荒いですね……」

2012-09-06 21:15:33
適当 @5tuzi

一体、この金髪が何を言っているのかがわからなくて、頭がどうかしそうになるのを堪えて、パソコンのメールボックスを開いた。先ほどの電話の主からだろう。迷惑メールに紛れてそれらしいタイトルのメールが届いていた。これで今月の家賃の心配もいらなくなるかもしれない。

2012-09-06 21:17:07
適当 @5tuzi

『聖白蓮の交友関係の洗い出し』この文面が目に入ってきただけで目眩がしてきた。星はこめかみを抑えているナズーリンを見ながら、二個しかない大福の二個目にかぶりついた。

2012-09-06 21:21:41
適当 @5tuzi

思えば依頼主は自分の名前も名乗っていない。メールにも常軌を逸した報酬額が添えられているのみだ。確かに金に困っているが、ここまであからさまに怪しい依頼を受けるのはどうにもはばかられる。「さっきの電話はお仕事なんです?」「ん、ああ、なんでお前私の大福まで食ってるの?」

2012-09-06 21:24:01
適当 @5tuzi

そろそろこの娘に対して罰金制度を導入しなければいけないとナズーリンは確信し、半ば無理やり交番へと送り出した。もう一度メールの文面を向き合う。聖白蓮の交友関係をできるだけ詳細に調べ、送り返すことのみ。それだけで来月のお家賃に光熱費まで安泰になってしまう。

2012-09-06 21:26:52
適当 @5tuzi

どの程度詳細にかはわからないが、向こうもそこまで期待はしていないだろう。適当にこなせばお金が入る美味しいお仕事だ。対象が聖でなければ。端的にいえば、ナズーリンは聖が怖かった。いつだかのゼミ合宿の際、なぜか山奥へと連れて行かれたナズーリンたちは、そこで自給自足を強いられた。

2012-09-06 21:28:40
適当 @5tuzi

事前に危険を察知していたナズーリンは大量に持ち込んだ食料によってことなきを得たが、なぜか聖から熊肉の差し入れを受けたとき、得体の知れない恐怖のようなもの(物理属性)を感じたのだった。一人で捌くのは骨だったと笑顔で話しているし。間違いなく自分で仕留めている。 

2012-09-06 21:30:44
適当 @5tuzi

「Remilia_Scarlet……。文面の他にわかるのはこのメールアドレスだけか」

2012-09-06 21:31:40
適当 @5tuzi

現状余りにも情報が少なすぎる。ここは一つ、揺さぶりをかけてみることにするか。ナズーリンはちゃっちゃか文面を作り、そのメールアドレスへとメールを送り返した。詳細とはどの程度か。期日はいつまでか。報酬面での交渉は可能か。受けるにも断るにしても、情報が欲しい。

2012-09-06 21:34:41
適当 @5tuzi

メールの返事は実際早かった。送り終えてため息を吐いて、肩を回しているうちに、例のアドレスからの返信があった。曰く、あの僧侶は表向きは善人として振舞っているが、超常的な力を持つという噂があるからその調査を最低一週間ほどして欲しいとのことだった。この現代日本で超常的な力とは。

2012-09-10 14:37:14
適当 @5tuzi

一見、一笑に付す内容であるが、それを笑い飛ばすことがナズーリンにはできなかった。実際に、聖の人間離れした腕力を目の当たりにしたことがあるからだった。しかし、そんなことは些細な問題だった。「めっちゃ名前書いてある……」メールの最後にはレミリア・スカーレットと記されている。

2012-09-10 14:39:46
適当 @5tuzi

文体も一通目のメールとは明らかに違う。乱雑で、子供っぽい口語体が含まれているところを見ると、ナズーリンも知っている彼女であることは間違いなさそうだった。レミリア・スカーレット。彼女の名前は通っていた大学内でも有名だった。

2012-09-10 14:40:52