平成御伽草子「ニートの恩返し」

新連載・平成御伽草子「ニートの恩返し」。あらすじ（予定）：ニートのＳくんがある日セミの幼虫を助けます。Ｓくんは家で自宅警備員を続けながら、セミの幼虫が、恩返しにくるのを今か今かと待ち構えます。やがて恩返しと仕返しの関係について深く熟考するようになったＳくんは・・・

2010-07-27 00:36:52

新連載・平成御伽草子「ニートの恩返し」①　Ｓくんは、ニートです。ニートというのは、Not in Employment, Education or Training　の略称ですが、本来の意義とは少しずれているようです。しかしそのズレにも構わず、Ｓくんは生きています。呼吸してます。

2010-07-27 00:39:35

新連載「ニートの恩返し」②　ある夏の暑い日のことです。ニートのＳくんは、いつものように外をぶらぶらと出歩いています。近所の人たちの視線が気になって嘔吐感に襲われることもあります。しかしＳくんは、これは徘徊ではなく地域のパトロールだと自分に言い聞かせることにしています。

2010-07-27 00:41:57

好評連載「ニートの恩返し」③　Ｓくんは、道の脇にある溝のなかで、セミの幼虫が背を下にして、足をバタバタさせているのを見つけました。幼虫の周りにはつかむものがなく、このままでは逆さまの姿勢のまま、命を終える可能性もありそうです。

2010-07-27 00:44:40

「ニートの恩返し」④「これはいけないな」と、Ｓくんは思いました。何がいけないのでしょうか。それはセミが幼虫として土の中に潜っていた期間の長さです。セミは何年間も土の中に潜って幼虫生活を続けます。晴れて地上に出た後は、数週間の命だといいます。「これは、いけない」

2010-07-27 00:47:05

「ニートの恩返し」⑤　Sくんは、そっと身をかがめると、指先でセミの幼虫をやさしくつまみあげ、木の枝の繁る、側道の土のあるところに戻してあげました。セミの幼虫は、土の上に戻されたあと、一瞬、動きを止めていましたが、やがてのろのろと樹木の根もとにむかって、歩み始めました。

2010-07-27 00:50:57

好評連載「ニートの恩返し」（６）　セミの幼虫の体は、プラスチックのように光ります。しかしその光沢にはどこか翳りがあり、幼虫のくせしてすでに「生活の疲れ」にくたびれ果てているようにも見えます。Ｓくんはそのセミの幼虫の背中をしばらく見つめてから、また再び歩き始めました。　

2010-07-27 00:54:33

好評連載「ニートの恩返し」（７）　Sくんは家に帰ってから、チラチラと助けたセミの幼虫のことを考え始めました。「あいつはちゃんと成虫になれただろうか」「おれが助けてあげたこと、感謝しているだろうか」やがてSくんは、「もしかして恩返しにくるんじゃね？」と糠な喜びに浸ります。

2010-07-27 00:57:36

好評連載「ニートの恩返し」（８）　しかしSくんは、そんな想像はムシのいい妄想かもと自分を疑う冷静さも持ち合わせていました。「ムシを助けたぐらいでそんなムシのいい話があるわけないか。はは」・・・しかし、そう打ち消した後も、数分後には、「もしかして恩返しに」という糠な想像がよぎります

2010-07-27 00:59:56

「ニートの恩返し」（９）　自宅警備員であるSくんの主な仕事のひとつに、家にくる郵便物や宅配物を受け取るというものがあります。Sくんは、ピンポーンという宅配のチャイムが鳴るたびに、「もしかして」と思うようになったのです。[alsincekeさんの小説が読めるのはツイッターだけ！]

2010-07-27 01:02:20