- zyosehuinu
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小さな頃から裕福で、何不自由なく暮らしてきたが物心付いたときには母親はこの世におらず、父親に育てられてきたがその父親は今の生活をどう維持しているのか、自分の仕事が何なのかだけは自分にも教えてくれず、1年に1度大量の金塊をどこかから受け取っていた。
2012-10-01 22:47:07そういえば日中父が家から出るのをここまでの人生で見たことがなかった、いつも黙っていなくなり、いつの間に戻ってきている、小さな頃はきっと家の中でする仕事なのだろうと思っていたが、成長するにつれ余りに他の家庭と異なっていることに違和感を覚えるようになった
2012-10-01 22:48:48ある日好奇心から自分は学校へいったと思わせこっそり家に戻り、父がいったい何処へ行くのかこっそりつけることにした、父は遅い朝食を取るといそいそと歩き出し、家にある古い暖炉の壁を押した、すると壁は扉のように開き暖炉の奥の暗い部屋への入り口が現れた
2012-10-01 22:50:39興味と恐怖がごったになったような感情を抑えつつ父の後をこっそりつけてゆくと、その先は急に開けた明るい部屋になっていて、中からは何人もの子供の声が聞こえた、奇妙な場所での場違いな声に一瞬体をこわばらせ、おそるおそる部屋の中を覗くと
2012-10-01 22:52:20そこには自分より年下か同年代かというような容姿の整った少年少女が裸のまま鎖につながれており、父の持ってきた残飯のような飯に群がり、食い終わると電池の切れた玩具のようにその場に倒れるとすやすやと寝息を立てだしていた、そこは小さな牧場のようだった
2012-10-01 22:54:11目の前の光景を現実のものと思えないまま立ち尽くしていると、目の前でさらに奇妙なことが起きた、父の目の前の空間がジッパーでも開けるようにパックリと開いたのだ、それは穴というには狭くて、闇というには小さくて、いうなれば「スキマ」がパックリと口を開けていた
2012-10-01 22:56:51目を凝らし、その「スキマ」がゆらゆらと水面に映った月のように揺らめくのを見てその「スキマ」が壁の亀裂や模様ではないことを理解する、父はその「スキマ」に別段驚いた風でもなく、先ほどの少年少女のなかから自分より年上のように見える少女を起こし、隙間の前に立たせた
2012-10-01 23:00:13何が起こるのだろうと考えるより早く、その「スキマ」は眠い目をこすっている少女を排水溝に流れていく水のように飲み込んでしまった、思わず声を上げそうになるが余りの出来事に上手くしたが回らず声が出ない。
2012-10-01 23:03:21スキマに少女が吸い込まれるのを見届けると父はスキマに跪き、なにやらうわごとのように誰かの名前を呼んでいた、それは知らない名前だったし自分の住んでいる国の名前ではないので妙に耳に残った 「れみりやさま れみりやさま」誰かに呼びかけるように繰り返す
2012-10-01 23:05:06父が呼びかけるようにつぶやいていると今度はそのスキマから眩く光る黄金のインゴットがボトリと投げ込まれるように吐き出された、父はそれを見るとまたスキマに跪き 「れみりやさま れみりやさま ありがとうございます今後ともどうかよろしくお願いします」と恭しく頭を下げた
2012-10-01 23:24:40あのスキマに飲み込まれた少女がどうなるのかは分からないが、何のために飲み込まれているのかは若い自分にも想像が付いた、そしてこの暖炉の奥の「牧場」はあのスキマに飲み込ませるために父が育てている「家畜」なのだということも分かった、そしてそれと引き換えに吐き出された金で
2012-10-01 23:28:13自分の住む家、綺麗な服、何不自由ない生活は維持されてきた、知らなかったとはいえ得体の知れない何かに知らない人間を食わせた代価で自分は今まで生きてきたのだ。 急に今朝食べたサラダが先ほどスキマに飲み込まれた少女とかぶり、父と談笑しながら人間を食べているイメージに思わず嘔吐する
2012-10-01 23:34:32その音にインゴットを持っていた父が気が付く 「誰だ」と低い声で叫ぶ父の顔は既に自分の知っている父ではなく、本で読んだ怪物の類のようで、たまらずその場に立ち尽くしてしまう、そうこうしているうちに父は自分が覗いていた扉に手をかけると一気に開いた
2012-10-01 23:38:22父はまさか自分の秘密の部屋に忍び込んだのが他ならぬ自分の娘だとは思いもしなかったのか私を見てかなり驚いた、そして私が言葉を吐き出す前に子供のように泣き出しながら地面に倒れこんだ、先ほどの怪物のような父から一瞬で変身でもしたかのように、人間の父は泣き崩れた。
2012-10-01 23:40:47「すまない、すまない、これもお前のため、すべてはお前に不自由させないための」 地面に頭を打ちつけながら父は自分に釈明する。しかし自分のためといってもこんなやり方は間違っている、私は「もうこんなことはやめましょう、お父さん」と父の傍に放り出されたインゴットを持ち上げスキマに
2012-10-01 23:44:35投げ返そうとした、しかしその腕を父の太い腕が折れてしまいそうなほど強い力で掴んだ 「何をするんだ!この金はお前のために!」先ほどまで泣きじゃくっていた父は何処へ行ったのか、自分からインゴットを取り上げた父はまた元の怪物に戻っていた
2012-10-01 23:45:50「お前のためなのに お前のためなのに」うわごとのようにつぶやく父に否定の言葉を投げかける前に父が素早く腕を振るったかと思うと私の体は壁に叩きつけられていた、何が起こったのか分からず、ガンガンと痛む頭を触れると暖めた絵の具のようなブニュリとした嫌な感覚が伝わってきた
2012-10-01 23:48:31血、自分の血が切れた頭からドクンドクンと鼓動にあわせて溢れていた、荒い息を上げる父が振り上げたインゴットからは自分のと同じ色の血がポタポタと垂れていた。殺される そう思うと同時に無意識に体を動かしていた、しかし頭を殴られ血を流しているからだは思うように動かず、這いずる事しか出来な
2012-10-01 23:53:31い、頭も上げられず、ただただ振り下ろされるであろうインゴットから逃れることだけを考えて這いずり回る、ガンガンという頭痛、ドクンドクンという血の流れる音に混じって父の愉快に笑う声が聞こえる、死にたくない、死にたくない
2012-10-01 23:54:53はいずっていたときにあるものが目に入った、父に金を吐き出したスキマだった、スキマは今起きている惨劇を傍観するようにそこにパックリと口を開いたまま鎮座している、その中は何処までも暗く、深い、その時、スキマの奥に一瞬何かが見えた、暗い暗い黒の中に一筋の紅、血のような紅色
2012-10-01 23:57:24隙間の中に引かれた糸のようなそれを、藁をも掴む思いで手を伸ばす、その瞬間、自分の手はグニャリと歪み、自分の体は紅色の糸に引き込まれるようにスキマの中へと引きずり込まれる、抵抗はしなかった、手に掴んだ紅い糸のようなものから、自分のとは違う体温のようなものを感じていた、ただそれに夢中
2012-10-02 00:00:38だった、暗くて黒い闇の向こう、この暖かくて紅い糸の先、自分の頭を流れる血も、背後に迫っているであろう父のことも、すべて頭の中から消え去っていた、ただこの闇の先への自分でも理由が分からないほどの純粋な好奇心で自分を引きずり込もうとする力に身をゆだねた
2012-10-02 00:02:58すぅっ とスキマに飲み込まれる瞬間、後ろから父の声が聞こえた気がしたが、もはやその声にやる興味など咲夜にはなかった。気が付くと暗い暗い闇の中、ただひとつ紅い糸を握り締めて落ちているような飛んでいるような進んでいるような、戻っているような、何もかもが曖昧な世界を通っていた
2012-10-02 00:05:46そして不意に黒は切り裂かれた、急に自分の体に重力がかかり、冷たい石の地面に叩きつけられる、ここは何処なのだろうか、もう体を起こす気力もなかった、頭から出ていた血が尽きてしまったのかドクンドクンという音は聞こえない、ただサーッという砂が流れるような音が頭に響いている
2012-10-02 00:08:05