山本七平botまとめ/【空気の研究⑤】/「空気の支配」を決定的にしてしまった”福沢諭吉的”啓蒙主義の過ちとは?/~日本の重大な岐路選択が”超法規的に”決定されてしまう理由~

山本七平著『「空気」の研究』/「空気」の研究/56頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

1】前略~最初に出てくるのが、おそらく「その”空気”は何と英訳すればよいのか。エアーで意味が通ずるのか」という質問だと思う。”空気”などというものは日本にしかないから、外国語に訳せる筈はないと誤解している人もいるのかもしれぬ。しかし心配は御無用。<『「空気」の研究』

2012-10-03 15:57:43
山本七平bot @yamamoto7hei

2】”空気”の存在しない国はないのであって、問題は、その”空気”の支配を許すか許さないか、許さないとすればそれにどう対処するか、にあるだけである。従ってこの”KUKI”とは、プネウマ、ルーア、またはアニマに相当するものといえば、ほぼ理解されるのではないかと思う。

2012-10-03 16:28:06
山本七平bot @yamamoto7hei

3】これらの言葉は…勿論旧新約聖書にも出て来ており、意味はほぼ同じ、ルーア(ヘブライ語)の訳語がプネウマ(ギリシャ語)でそのまた訳語がアニマ(ラテン語)という関係にもなっており、このアニマから出た言葉がアニミズム(物神諭?)で、日本では通常これらの言葉を「霊」と訳している。

2012-10-03 16:57:50
山本七平bot @yamamoto7hei

4】しかし原意は、希英辞典をひけば明らかなようにwind(風)air(空気)である。「霊」という日本語訳聖書の訳語は明治のはじめの中国語訳聖書からの流用(?)だと思われるが、中国語の「霊」には、日本語の幽霊の「霊」のような意味合いはないそうで、その場合には「鬼」を使うそうである。

2012-10-03 17:28:03
山本七平bot @yamamoto7hei

5】訳語というのは全くむずかしいものだと思う。聖書のさまざまな試訳には、この語を「風(れい)」とか「霊(かぜ)」とかのルビつきで訳しているものもあるが、このことが、この言葉の翻訳のむずかしさを示しているであろう。

2012-10-03 17:57:43
山本七平bot @yamamoto7hei

6】原意は「風・空気」だが、古代人はこれを息・呼吸・気・精・人のたましい・精神・非物質的存在・精神的対象等の意味にも使った。また言霊(ことだま)の”たま”に似た使い方もある。

2012-10-03 18:28:01
山本七平bot @yamamoto7hei

7】そしてそれらの意味を全部含めて原文を読むと、ちょうど我々が「あの場の空気では…」という場合の”空気”の様に人々を拘束してしまう、目に見えぬ何らかの「力」乃至は「呪縛」いわば「人格的な能力をもって人々を支配してしまうが、その実体は風の様に捉えがたいもの」の意味にも使われている。

2012-10-03 18:57:49
山本七平bot @yamamoto7hei

8】従って私はそういう用法での原意はほぼ”空気”であろうと思っている。人が、宗教的狂乱状態いわばエクスタシーに陥る、またブームによって集団的な異常状態を現出するのは、この空気(プネウマ)の沸騰状態によるとされている。

2012-10-03 19:28:04
山本七平bot @yamamoto7hei

9】こういう記事の文脈のプネウマにその原意通りの空気を”空気”の意味であてはめて行くと、それはもはや古代の記述とは思えぬほどの現実味をおびてくる。彼らも、この非常に奇妙な「空気の支配」なるものが、現に存在することを知っていた。

2012-10-03 19:57:45
山本七平bot @yamamoto7hei

10】従って、日本の公害基準はプネウマが決定したのだと返事を書けば、彼らは理解するであろう。同時にこれが、宗教的決定であることも知るであろう。そうならば、北条誠氏の記事「自動車魔女裁判」が、異端審問と同じ形であって、少しも不思議でないわけである。

2012-10-03 20:28:08
山本七平bot @yamamoto7hei

11】プネウマの出てくる記述を読んでいくと「なるほど、こういうことを書くのが本当のリアリストなのだな」と思う。彼らは霊(プネウマ)といった奇妙なものが自分たちを拘束して、一切の自由を奪い、そのため判断の自由も言論の自由も行動の自由も失って、何かに呪縛されたようになり、(続

2012-10-03 20:57:49
山本七平bot @yamamoto7hei

12】続>時には自分たちを破滅させる決定をも行なわせてしまうという奇妙な事実を、そのまま事実として認め、「霊(プネウマ)の支配」というものがあるという前提に立って、これをいかに考えるべきか、またいかに対処すべきかを考えているのである。

2012-10-03 21:28:06
山本七平bot @yamamoto7hei

13】一方明治的啓蒙主義は、「霊の支配」があるなどと考えることは無知蒙昧で野蛮なことだとして、それを「ないこと」にするのが現実的・科学的だと考え、そういったものは、否定し、拒否、罵倒、笑殺すれば消えてしまうと考えた。

2012-10-03 21:57:48
山本七平bot @yamamoto7hei

14】ところが、「ないこと」にしても、「ある」ものは「ある」のだから、「ないこと」にすれば逆にあらゆる歯どめがなくなり、そのため傍若無人に猛威を振い出し、「空気の支配」を決定的にして、ついに、一民族を破滅の淵まで追いこんでしまった。

2012-10-03 22:28:11
山本七平bot @yamamoto7hei

15】戦艦大和の出撃等は”空気”決定のほんの一例にすぎず、太平洋戦争そのものが、否、その前の日華事変の発端と対処の仕方が全て”空気”決定なのである。だが公害問題への対処…などを見ていくと、”空気”決定は、これからも我々を拘束しつづけ、全く同じ運命に我々を追い込むかもしれぬ。

2012-10-03 22:57:50
山本七平bot @yamamoto7hei

16】福沢諭吉――どうも彼を目の敵にするような結果になるが、彼だけでなく、あらゆる意味の明治的啓蒙家――が行なったことは、下手なガンの手術と同じで、「切除的否定」で「ないこと」にしたものが、逆に、あらゆる面に転移する結果になってしまった。

2012-10-03 23:28:09
山本七平bot @yamamoto7hei

17】さらに悪いことに、戦後もう一度、同じような啓蒙的再手術をやっている。そのため、科学上の決定までが空気支配の呪縛をうけ、自由は封じられ、科学的根拠は無視され、すべては常に「超法規」的にまた「超科学根拠」的に決定されることになってしまった。

2012-10-03 23:57:48
山本七平bot @yamamoto7hei

18】超科学根拠的決定は何もNO2基準だけではないし、超法規的決定は、何もクアラルンプール事件ではじまったことではない。その例をあげればきりがないが、ここではまず明治の一件と、戦後の二、三件を検討してみよう。

2012-10-04 00:27:53
山本七平bot @yamamoto7hei

19】福沢諭吉はお札は踏めたが、これは「過去のお札」だから踏めたのである。それ自体は何ら根本的解決ではないから、すぐに彼にも絶対に踏めない「文明開化」の新しいお札が出てくる。教育勅語であり、御真影である。

2012-10-04 00:57:44
山本七平bot @yamamoto7hei

20】”科学的”な言い方に従えば、双方とも紙であり、一方は印刷インキ、一方は感光液がついているだけの物質である。彼によれば、物質はあくまでも物質であって、人がそれに何らかの臨在感を感じるなら、感じるのが野蛮なはずである。

2012-10-04 01:28:02
山本七平bot @yamamoto7hei

21】ところが、その”科学的根拠”によりそれを単なる「物質」だと規定すれば、規定したものは超法規的に処罰されてしまうのである。このことは、内村鑑三不敬事件のときのキリスト教会の代表的人物、植村正久の論評によく表われている。(~論評省略~)

2012-10-04 01:57:44
山本七平bot @yamamoto7hei

22】…以上の記述は、この事件が”学生運動”に屈した学校当局の超法規的処理であることを示している。と同時に、明治的啓蒙主義(これは結局、昭和的啓蒙主義も同じことだが)は、結局、新しい「不動明王の神符」「水天宮の影像」には全く無力であり、それらが法律以上の力をもち、(続

2012-10-04 02:27:54
山本七平bot @yamamoto7hei

23】続>それへの感情移入を絶対化した臨在感が醸成する”空気”という呪縛は、人びとを狂乱状態に陥れ、「モッブ然」としても、不問に付さざるを得ないだけでなく、その対象とされた人間からあらゆる法の保護を剥奪し、本人に餓死を覚悟させるほどに徹底的なことを示している。

2012-10-04 02:57:44
山本七平bot @yamamoto7hei

24】私は日本人が宗教的に寛容だという人にこの例を話す。これはどうみても寛容ではなく、ある「一点」に触れた場合は恐るべき不寛容を示し、その人の人権も法的・基本的権利も一切無視して当然だとするのである。それは寛容だと見えるものも寛容ではなく不寛容の基準が違うにすぎない事を示している

2012-10-04 03:28:00