「別冊少年マガジン」の「伝えたいこと」を見つける方法

「別冊少年マガジン」(@betsumaga)さんのアカウントで解説された、ストーリーテリングの根幹、漫画の「伝えたいこと」を見つける方法です。
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班ちょ @pakhancho

「伝えたいこと」を見つける方法。漫画にする方法。別マガで「カウントラブル」を連載している奈央晃徳先生@naoakinariの許可がいただけたので、奈央先生の新人賞受賞作を題材にして一例を示したいと思います。奈央先生、ありがとうございます!@remiremiron

2012-10-01 22:06:35
班ちょ @pakhancho

まず、はじめに。これからお伝えしたりお見せするのは、奈央先生の8年以上前の原稿です。絵も話も今の奈央先生とは比べものにならないかもしれません。それでも、みなさんの少しお兄さんくらいの立場の作品が参考になると思い、奈央先生に依頼→快諾してくれました。

2012-10-01 22:10:36
班ちょ @pakhancho

この作品「ループループ」は8年前の新人賞で受賞者の中で最高賞(入選)を受賞し、そして掲載されたマガジンSPECIALでも異例の高人気を獲得しました。参考になる部分も多いかと思います。まずは、僕と奈央先生の出会いから。コミックマーケットで知り合いました。

2012-10-01 22:15:09
班ちょ @pakhancho

奈央先生が大学1〜2年生(忘れた)のころ、先生の描かれた創作同人誌を読ませていただき、名刺を渡して、プロを目指しませんか?と声をかけました。この作品「ループループ」を描かれたのは、それから2年後くらいのことです。写真は1ページ目。 http://t.co/26FrGJip

2012-10-01 22:23:33
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班ちょ @pakhancho

この1ページ目の後、主人公は死にます。ま、それはともかく、この漫画の作られ方。僕「次はどういうのを描くの?」奈央先生(以下奈)「なんでも前に描いたもの(妖怪ファンタジー)とは違うものを描きたいんですが、まだ決めてないんです」

2012-10-01 22:26:34
班ちょ @pakhancho

僕「今度の作品は、何かメッセージがほしい」奈「メッセージ?」僕「賞レース用の原稿だけど、いい賞を取ったら雑誌に載るし、子どもたちも読むよね。奈央先生の伝えたいことを、漫画に込めてほしい」奈「伝えたいことって言ってもまだハタチそこそこの俺にそんな偉そうなもんないような・・・」

2012-10-01 22:29:21
班ちょ @pakhancho

僕「ごめんごめん。そりゃないよね。あるわけないよね。こう考えたら何か浮かぶ?もしも今、奈央先生にひとり息子がいたとする。いや、ありえないけどね。でもいる。息子が。めっちゃ可愛い」奈「なるほど」僕「その子どもに、この世界で生きていくうえで大切だと思うことを一つだけ伝えるとしたら?」

2012-10-01 22:31:04
班ちょ @pakhancho

奈「え?ひとつだけ?」僕「ほら、伝えたいこといっぱいあるじゃない。でもね、今はひとつだけ。ひとつしかダメ。何でもいいよ。お金が大事だぜ!でもいい。セックスはたくさんしろよ、でもいい。メイドには騙されるな、でもいい」奈「メイドさんとなんかあったんすか」僕「うん。でもそれは今はいい」

2012-10-01 22:33:29
班ちょ @pakhancho

奈「一人息子に伝えたいこと。僕は『好きなものに妥協するな』かなあ」僕「なるほど。いいんじゃない!」*奈央先生は当時、就職をするか漫画家を目指すか、岐路にありました。今、思えばその心理状態も影響した「伝えたいこと」なのでしょう。時間は超早回しです。すでに打ち合わせは2回目かも。

2012-10-01 22:36:38
班ちょ @pakhancho

僕「好きなものに妥協しない、立派なポリシーだよ。それはいいよ!」奈「じゃあ好きなものに妥協しない主人公にしましょうか」僕「そうそう。いいよいいよ」奈「いや、まだ意味わかんないですよね。好きなものに妥協しない主人公ってだけじゃ」僕「そうだね。たぶん、

2012-10-01 22:43:00
班ちょ @pakhancho

僕「たぶん、その主人公と好きなものの間にめっちゃ障害があるんじゃない?すっげー邪魔されるんじゃない」*これは伝えたいことを漫画にする今回の例の最大のポイントです。ポイント1主人公に「伝えたいこと」を体現させる。ポイント2その主人公の前にめっちゃ高いハードルを用意する。

2012-10-01 22:47:32
班ちょ @pakhancho

奈「なるほど。障害ですね」僕「そうそう。ところで、主人公は何が好きなの?」奈「うーん。女の子」僕「えっ!女の子!!?」奈「あ、はい。好きな子がいるみたいな」僕「へー、なるほど。意外だったけどいいんじゃない?主人公はその女の子が好き。そのことには絶対に妥協しない。どんな障害が?」

2012-10-01 22:50:52
班ちょ @pakhancho

奈「その女の子が死んじゃうっていうのは、どうでしょう」僕「なるほど。面白い」奈「でも、主人公はその子が大好きだから」奈「だから絶対に助ける。自分の命に代えても」僕「へー。おもしろい!」奈「そしたら、主人公は生き返る。事故の日の朝に。で、もう一度、助けようとするというお話」

2012-10-01 22:54:22
班ちょ @pakhancho

僕「面白いね。でも、まだ足りないわー。『好きなものに妥協しない』感じがまだ伝わってこないわ」奈「・・・・・・・・」僕「だって好きな女の子が事故に巻き込まれたんなら助けちゃう人ってけっこういると思うよ?」奈「・・・じゃあ、100日目っていうのは?」僕「は?」

2012-10-01 22:56:38
班ちょ @pakhancho

奈「主人公はヒロインを、助けて死ぬ。また助けて死ぬ。助けて死ぬ。それを繰り返して、今日が100日目なんです・・・。ダメっすか」僕「面白い!!!それでいこう!」というわけで、奈央先生の「伝えたいこと」である「好きなものには妥協しない。とことん行け」という漫画ができました。

2012-10-01 23:00:32
班ちょ @pakhancho

この「ループループ」が凄いのはそのスピード感です。ちょっと紹介します。これが1ページ目。 http://t.co/5grOnTax

2012-10-01 23:04:49
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班ちょ @pakhancho

2ページ目で主人公が死にます。びっくり。 http://t.co/bWa0WIYE

2012-10-01 23:07:39
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班ちょ @pakhancho

4ページ目で一度、目が覚めて、 http://t.co/8hVMKvOW

2012-10-01 23:13:13
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班ちょ @pakhancho

8ページ目でまた死にます。 http://t.co/Nj1S6ii6

2012-10-01 23:14:52
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班ちょ @pakhancho

そして12ページ目で100回も繰り返していることが明らかになります。 http://t.co/iIYHkA6p

2012-10-01 23:16:04
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班ちょ @pakhancho

以前、漫画やネームを読むときに個性、意外性、読みやすさの3点を大事にしていると書きました。漫画ののっけから、これだけ主人公に災難がふりかかるなんて意外性もばっちり。そして、ヒロインのために何度も死んでいるという設定を、具体的に何度も殺すことで見せてくれるので飲み込みやすいです。

2012-10-01 23:19:21
班ちょ @pakhancho

奈央先生が伝えたかったこのセリフにも説得力がでました。 http://t.co/yi36vASK

2012-10-01 23:35:15
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班ちょ @pakhancho

奈央先生のデビュー作「ループループ」はこのハイテンポのまま展開し、44ページで完結。載せたら高人気。次作での連載へとつながりました。ちなみに本作の賞金は70万円。44ページで70万円とはプロ作家以上の原稿料だね、と当時の編集長も妙な祝福をしていました。

2012-10-01 23:38:29
班ちょ @pakhancho

まとめ:「伝えたいことは何だろう?」って大上段にかまえすぎない。あなたがふと日常に思う、腹の立つこと、こうすればいいのにって思うこと、こんな人ってかっこいいなあ、って所にも、あなたの「伝えたいこと」は隠れていますよ、ってこと。最悪、見つからなくてもいい。言語化できなくてもいい。

2012-10-01 23:47:04
班ちょ @pakhancho

作者は言語化できてなくても、主人公には「何がしたいやつなのか?」というのを必ず用意してあげること。そして彼の前にとんでもない障壁を用意すること。あとは、その主人公がその難関をどう乗り越えていくのか、それを主人公と一緒に考えてあげよう。そしたら、漫画ができてるはず!たぶん!!

2012-10-01 23:50:01